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一冊目 バトルロワイヤル その一

「女子高生の武器ってなんだと思う?」


 二人は私からの唐突な質問に暫し硬直した後、ゆっくりと顔を見合わせると、全く同じタイミングで口を開いた。

「アックス!」

「機関銃」

「うん?」

「……うん?」

「……うん?」

 全く同じタイミングで同じ角度に首を傾げる。

 なるほど。どうやら質問を履き違えられてしまったらしい。しかし、振ったのは私でもあるから、二人の回答はスルーせず拾っておかなければ。

「ミキはなんで斧? 女子高生関係なくない?」

「だって、女子高生が制服姿で斧持ってたら格好よくない? 破壊力抜群だよ? 持ち変えれば盾にもなるよ?」

 盾になるかは大分微妙なところだと思うけど。

 守れる範囲狭すぎじゃない? 斧を盾にしてるキャラクターって私見たことないし。それとも、私が知らないだけでミキはたくさん知っているのかな?

 ミキ。

 十六歳。四月二日生まれの牡羊座。小説好きの私がお昼休み、こうして一緒に小説の話で盛り上がれる数少ない友人、二人のうちの一人。

 双子の片割れ、その妹の方。

 ミキはすでに昼食を食べ終えていた。コンビニで買ったらしいカツ丼が空になっていて、容器の上に箸が乱雑に置かれている。ばってん印。そうして左手にはリプトンの紙パックレモンティーを持ち、右手にはどこに売ってんだよその長いのってくらいの特大サイズのじゃがりこを三本、鉤爪みたいにして持っていた。

 高速道路のサービスエリアに地元の名産品と一緒に並んでいそうなやつ。

 でぶまっしぐら、

 という文字が頭に浮かんで消えた。

 まあ、太っちゃいないけど。

 漆黒の髪が教室内の蛍光灯に当てられつやつやと光り輝き、彼女自身が発光しているように見える。ゆるくカーブを描いた漆黒の髪は、そこらにいる世間一般の、私たちのような普通の女子の黒髪とは違って、黒過ぎるほど黒色だった。瞳はぱっちり。表情は笑顔が多い。美人。選ばれた存在。もちろん姉妹セットで。

 身長は姉と同じく一六〇前後といったところ。

 私は、ほんの悪戯心で三本の鉤爪の中から真ん中の一本を抜き取り喰った。ぼりぼりぼりぼりぼりぼりと。長い。なかなか終わらない。すると、ミキはニコーとした笑顔のまま、

「なんかよこせ?」

 と、乱暴だけど変わらぬ優しい口調で言い、

「ん」

 と、私は適当にお弁当を差し出す。

「あー!」

 迷わずメインである唐揚げを取っていかれた。

 おい、ミキ、おい。どんだけ喰う気だお主は。

 じゃがりこ一本に対して、唐揚げはあんまりじゃないか。勝手に取ってった私も悪いけど。でもせめてブロッコリーとかあったじゃん。ねえ。

「ミキ、食べ過ぎ。お野菜もちゃんと取らないと」

「はあい……ん。これで良い? お姉ちゃん」

「おい」

「それでいいの」

 よかねえ。

 ミキは隣に座る姉の言葉に素直に従う。そして普通に、何の躊躇いもなく、箸で私のお弁当からブロッコリーを奪い取ると、普通に口へと運んだ。目の前でんぐんぐ言ってる妹子。

「はあ」

 ため息を一つ。

 ……この双子姉妹は。

「格好いいかな? 女子高生が斧持ってて」

「ダサい。スマートじゃない。刀の方がまだ格好いい」

「えー!」

「ミキミキはどうして機関銃……って訊くまでもないよね」

「こ~のま~ま~なんとか~で~も~♪ うんたらかんたら~で~♪」

「いやべつに歌ってくれなくても分かるからね。恥ずかしいから止めて」

「お姉ちゃん上手い上手い」

「ふ~ふ~ふん~♪」

 ミキミキ。

 十六歳。四月二日生まれの牡羊座。同じく、小説好きの私がお昼休み、こうして一緒に小説の話で盛り上がれる数少ない友人、二人のうちの一人。

 双子の片割れ、その姉の方。

 巫山戯た名前だ。百歩譲って双子だから似たような名前にしたってのは分か……やっぱり分かんないけど。けど、何故に姉の方の名を連続させたのか。

 普通、妹の方じゃないか? 私が感覚的にそう思ってるだけか?

 ミキミキは箸をマイクに見立てて歌っていた。世代は違えど、私でももうちょい知ってるよってくらいにうろ覚えの歌を。

 妹とは正反対に表情はなんだか薄ぼんやりしている。半目でほんの少しツリ目。いつも眠そうな子。

 妹と違い色素が薄いのか肌は病的に白い。それは髪も同じみたいで、黒と白の間、灰色掛かった髪色をしている。しかしそこは双子、髪の持つツヤは妹と一緒。だから、灰色というよりは銀と言った方が近いか。もち美人。選ばれた存在。姉妹セットで。

 身長は妹と全く同じ。一六〇前後といったところ。

 目立つんだ。この子らが二人で並ぶと。ほんと、こうして一緒にいるだけでコンプレックス精神刺激されるくらいには。

 でも一緒にいる。この双子と一緒にいるの楽しいからね。楽しいならば仕方ない。

「歌ってないではよ食べなよ」

「うん」

 頷き、半分も食べていないお弁当に再び箸を入れた。

 お弁当の中身はそぼろにチャーハンに……茹でた大豆? ……なぜにそんな箸で摘みにくいものばかりをチョイスしたのだろう。

 お弁当はミキミキお手製である。

 パチパチパチ――とミキの拍手が響いた。

「で」

 ミキの視線が姉から私に移る。

「何の話? また新しい小説のネタ? 女子高生バトルロワイヤル?」

 気付けばじゃがりこは左手から無くなっていた。またいつの間にやら食べ終わっている。

 女子高生バトルロワイヤルって。なんかありがち。

 ちなみにロワイヤルは英語じゃなくてフランス語読み。バトルと付いたとき、続けてロイヤルよりもロワイヤルを真っ先に連想しちゃうのは、このジャンルの金字塔的作品が『バトルロワイヤル』だからであろう。

 作者新作書かないのかなー……。

 家の本棚のどこかに眠っている真っ黒な上下巻の表紙を私は思い浮かべた。

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