01 全てを守れる王の冒険章
これはある一人の男の物語。一度終わりを見たであろう男の物語。
そして、最後まで馬鹿みたいに夢を諦めずに歩き続けて追いつこうと足掻いた一人の心優しき男の物語だ。
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昔々もそのまた昔、黒と白という二つの国があった。この二つの国は常に争いや諍いが絶えず行われていた。
戦いを好む者、戦いを望まぬ者、中立の者、その他様々な人がいる中、国は何年も統治されていた。
しかし、ある年その長き歴史に終止符が打たれた。
世界歴2270年、7月7日。
黒と白の王国に新しい王が就任した。黒の王国の王に就任したのはトウマ・クロスギア。そして白の国の王に就任したのはユリアナ・ブルースカイ。この二人が王に就任してから、数年の月日が経ったこの日は二つの国が一つとなった王国誕生祭、永遠に幸せが続くと誰もが思っていたこの日、王国は・・・滅んだ。
・・・・・辺り一面炎に包まれ、身が焦げるかと思うくらいに熱かった。これ程までに暑いと感じたのはマグマ付近の調査に行った時以来だったと逃げながら思い出していた。
周りは赤く染まりその中を黒の王子は恋人であるユリアナの手を引いて走り抜ける。
「はぁ〜!はぁ〜!大丈夫か!ユリ!」
「は、はい!で、でも何処に行くんですか!」
王子は剣を右手に構え、恋人であるユリを、もといユリアナの手を引いて炎に包まれた自分の国を走る。
国は見るからに酷い有様だった。
家は崩落し、何処も彼処も人の悲鳴が聞こえてくる。
(違う!俺の作ってきた国は、俺達のやってきた事は間違ってない!なのに、何であいつはこんな事をするんだ!・・・・だけど今はユリを安全な所まで連れて行く!今はその事だけを考えろ!)
王子はこの状況になった経緯を探るが今の最優先事項を考えひたすら走る。そして街の中でかなり広い場所、噴水があったであろう場所に辿り着くとーーーーーー
「・・・すまんユリ、やられた。誘い込まれた」
「え?・・・どういう?・・・!」
辺りを見渡せば、いつの間にか数多くの民によって囲まれており、逃げ道はなかった。
民達は糸で繋がれた操り人形のように近づいてくる。しかも動く速さが理性を失っているとは思えないほど早かった。
王子はユリを庇いながら民達を切らずに峰打ちだけでことごとく倒していくがキリがない。
一点に集中して動かなかったせいで周りは先ほどよりも遥かに民が増え、人っ子一人入れる隙間があるか無いかだった。
そんな中でも正気を失っている民達は容赦なく襲いかかって来る。
中にはナイフや剣、槍に斧などを持っている人間もいた。
躊躇いなく振るって来る武器を受けて逸らして避けるを繰り返す事10分以上はしているが一向に突破口を開く事が出来ない。
そんな一瞬の隙も許せない状況の中、王子は一瞬油断をした。
本当に瞬きする間の一瞬を突かれ、民の剣が王子を斬りつけようとしたその時勢いよく視界が横にずれた。
王子であるトウマは何が何だかわからなかったが、数秒して突き飛ばさらた事に気づいた。
そして・・・・倒れながら見た光景はとても想像したくないものだった。
斬られたのだ。黒の王子が最も愛し守らなければならない恋人であるユリアナが。
左肩から右脇腹にかけて大きく斬られ、赤い血吹きが飛び散りユリアナはゆっくりと倒れる。
王子はすぐにユリアナに駆け寄り戦闘中だという事を忘れて膝を突き剣を地面に置きユリアナを抱き起す。
焦りすぎていてよく周りを見ていなかったが、この時周りにいた民達はぴたりと王である二人を囲んだ状態のまま動いてはいなかった。
しかし黒の王子はそんな事を気にする事もなくユリアナを呼び続ける。
彼女の傷を見た瞬間致命傷だと分かった。
もうユリアナはどんな治癒の魔術を施しても助からないと分かってしまった。
そんな現実に打ちのめされた王子は白の王女であるユリアナにただただ謝るしか出来なかった。
目に大量の涙を溜めて・・・・ただ謝ることしか出来なかった。
「済まない!ユリ!俺が!俺がちゃんとお前を守れていたら!俺がちゃんとアイツを止められていれば良かったのに!俺のせいでお前は!」
王子が泣く胸元でユリアナは段々と血溜まりの中へ沈んでいく。
そんな死にゆくユリアナは血で濡れた手を王子の顔に当て涙を拭う。
「・・・・ユリ・・・俺は・・・」
王子は力強くユリアナを抱きしめる。先程まで暖かかった彼女の体は少しづつ冷たくなっていく。
それをただ見ていることしかできない。
するとユリの口から小さな言葉が紡がれた。
「・・・・いで。私・・・・いつま・・・でも・・・貴方を・・・・・・から・・・」
ユリアナの言葉は途切れ途切れでよく聞き取れないが王子は耳が良いので一語一句聞き逃さずに胸にしまった。
そして同時に悟ってしまった。
ああ、彼女は本当に死んでしまうのだと。今までどんな困難にも手を伸ばして届いてきたこの手はもうすぐ死んでしまう彼女には届かない。
自身の不甲斐なさに打ちひしがれながらユリアナの手は自分の頬から地面へと落ちる。
もう息をしていないと一眼見ただけで分かる。
今鏡を見れば自分はひどい顔をしていると分かるがそれに反するようにユリアナの顔は静かに寝ているような顔をしていた。
王子は泣きながら後ろを振り返る。
先程から殺気を醸し出して後ろから狙っている人物がいた。
涙目の為良くは見えないが裏切ったかつての仲間が立っていた。
その時の事はまさに刹那、一瞬すぎて全く記憶にない。ただ誰かの声が聞こえているだけだった。とても大きな叫び声だった。誰かと思って良く耳を澄ませてみると自分の叫び声だった。
そして・・・・・真っ暗になった。何処もかしこも辺りは真っ暗で自分はどんどん沈んでいく。だがそんな中でも誰かの声が聞こえる。ずっと聞いていたいその声は闇の中に落ちていく自分に強く語りかけてくる。
その声に意識はどんどん覚醒していく。
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「・・・・・ここは?」
王子が目を覚ますと其処は辺り一面真っ白な世界だった。
頭が痛かった。自分が何者なのかは分かるが何があったかが思い出せない。なにか重要な事があったと思うが思い出そうとすると頭が痛くなった。
王子は立ち上がりあたりを再度見渡すがやはり辺りは真っ白だ。暫く男は歩くが先が見えない。
五分後、歩いていると後ろから声をかけられた。
「おはようございます。黒の王子?何があったか思い出せますか?」
声をかけられた方を振り返ると美しすぎるほどの女性が立っていた。白に薄い赤がかっているロングの髪に翠緑色の瞳を持つ二十歳過ぎほどに見える女性だ。とても優雅に椅子に座っており長い丈のドレスがつっかえているのを必死に何とかしている最中だった。そんな状態でこちらに声をかけてきたのかと思うと正直呆れ気味に文句を言いそうになったが言えばめんどくさい感じがしたので言わずに胸の奥にしまった。
「自己紹介を先にいたしましょう。私の名はユサリナ・ユイナフォルティス・ブルースカイです。貴方の恋人の光の王女の母親です」
丁寧に自己紹介をするユサリナを見て黒の王子は思わず見惚れる。何故ならユサリナのその仕草や顔が先ほど死んだ光の王女。否、ユリアナ・ブルースカイにそっくりだったからだ。似ているユリアナの母親を見る事ができて嬉しい気持ちがあるのに同時に何か頭に蘇る。
そう、恋人であるユリアナの事を。
その事を思い出そうとすると激しい痛みが頭を直撃した。
「うっ!あ、頭が・・!」
急な激しい頭痛が走り立っていられなくなるかと思い膝をつく寸前で止まった。。それと同時に誰かの声がこだまする。だが頭痛が酷すぎてこれ以上は聞こえたなかった。
するとユリの母親が此方に近づきゆっくりと男の頭に手を置く。
「無理に思い出そうとしないでください。ゆっくり、ゆっくり思い出してください。貴方に何があったのか」
ユサリナに言われるがまま、黒の王子は落ち着きながら記憶を一生懸命呼び覚ます。なんとか思い出してきた。そう、確かあの時かつての仲間に裏切られてユリアナと一緒に逃げている時だ。
「・・・!そ、そうだ!確かあの時、俺はユリに守られて、そして・・・自分達の国を・・・滅した」
何もかも思い出した。国が炎に包まれる中、自分とユリアナは一生懸命に逃げていたが、一瞬の隙をつかれ殺されそうになった黒の王子をユリアナが庇い死んだ事を。そして、そのことに絶望した自分が力を暴走させ国を滅ぼした事を。
全てを思い出した黒の王子はひどく落胆し絶望する。あの力の暴走で数多くの人間が死んだだろう。しかし今頃悔いた所でもう遅い。国の人も敵も最愛の恋人も全て焼き殺してしまったのだから。黒の王子がどうしようもない程絶望している中、ユサリナは優しく黒の王子に話し出す。
「落ち着いてください。ユリアナはまだ生きています。」
「な!?ほ、本当か!?ホントなのか!?」
黒の王子は信じられない目でユサリナを見る。ユサリナはその問いに無言で首を縦に振る。黒の王子は先ほどまで絶望していた気分から少し解放された。
だが、安堵したのも束の間ユサリナから酷なことを告げられる。
「ですがこのままでは永遠にめざることはありません」
「ど、どういうことだ?」
「これを見てください」
ユサリナが小さく手を振ると黒の王子の後ろに棺のようなものが現れた。その棺は入り口が透けていて中が見える仕組みになっていた。黒の王子は恐る恐る棺を覗き込むと黒の王子の最愛の人ユリアナが静かに眠っていた。血塗れだった顔や髪は拭き取られており綺麗になっていた。傷口も塞がっており外傷がないように見えるが息をしておらず生命反応すらも感じなかった。
「このままじゃユリは目覚めないのか?」
「はい・・・ですが方法が無いわけではありません」
黒の王子の問いかけにユサリナは一つの方法があると言うのだ。その方法とはよく昔話に出てくるような王子様のキス・・・・ではなく今のユリアナは魂が封印されている状態にあるため、その解除方法を探すという事だった。
魂の解除法などあるようではあるが、実際そんなに簡単な事ではない。
「貴方がユリアナと共に国を滅ぼした寸前、ギリギリの所で私が貴方達を回収する事ができたのですが私の力ではこの子を死なさないようにするのが限界でした。申し訳ありません」
ユサリナは黒の王子に申し訳なさそうに頭を下げる。それを見た黒の王子はばつが悪そうにユサリナに頭を下げこう言った。
「・・・・よしてくれ。謝るのはこっちだ。ユリが物心つく前に亡くなったあんたの子を守るって誓ったのに守れなくて済まなかった」
黒の王子は今にでも消えそうな顔でユサリナに謝る。ユサリナはその謝罪に心打たれたのか黒の王子に重要な事を話し出した。
「あの子を守れなかったのは私も同じです。ですからこの子を救う為貴方の力を貸して欲しいのです」
「・・・・何をすればいい?」
黒の王子は即答し真剣な顔でユサリナを見る。ユサリナは無言でうなずき話し出す。
「まずは貴方には10億年後の黒と白の王国へ行ってもらいます。其処でこの子を呼び覚ます方法を見つけていただきたい」
「・・・じゅ、10億年後の自分の故郷か・・・・あれから国はどんなことになったんだ?」
ふと黒の王子がずっと思っていた疑問を聞くと、ユサリナは暗い顔をし暫く間を置いてこう言うのだった。
「国の殆どは滅びました。ですが・・・奇跡と言ってもいいでしょう。白の国と黒の国合わせて居た人口約50億人のうち・・・・裏切り者によって操られていた民達を除けば半数以上が生き残っていました」
「・・あんなに居た人がそれだけよく残ったな。あれだけの爆発の中で・・・詳しく聞かせてくれ」
「はい。・・・貴方達が逃げている中、あなたに仕える者たちがある程度の人々を避難させていたのです。そのおかげで被害は最小限になりました。今は黒の民、白の民も同数の人間が生き残っていおり、多種族とも交流しており人口は増えています」
「あいつら・・・だったら話は早い。俺を早く10億年後の自分の故郷に送ってくれ」
黒の王子の行動の速さにユサリナは目を丸くして聞く。
「よ、良いのですか?貴方にばかり負担をかけてしてしまうのですが・・・」
「気にすんな。アンタはここでユリを見ててくれ」
王子の真剣な眼差しを見てユサリナは覚悟の意を感じ無言で頷き話を続ける。
「・・・分かりました。では今から貴方を黒の国と白の国の10億年後の場所に送ります。向こうではもうすでに国の復興は完了し、新たな国が作られています。新たな国の王はユリアナの姉です。事情を粗方話しておきますのでいつかお会いする時は頼ってください。私は貴方のことを常に見ているわけではありませんから気をつけてください。」
と、このように色々な心配をしてくるユサリナを見て黒の王子は心の中でユリに似ているなと思った。しかし、これも優しさだと思えば有り難い。ユサリナが杖を一振りすると足元に魔法陣が現れ黒の王子はどんどん光に包まれていく。黒の王子は最後にユリアナが入っている棺に向かってこう言った。
「・・・・行ってくるからな、ユリ」
そう言って黒の王子は光に包まれ消えた。
今ここから再び、黒の王子の・・・否、トウマ・クロスギアの章が始まるのだ。
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