鬼を退治した小さな英雄の話の続き
むかし、むかし、ある所におじいさんとおばあさんが住んでいました。
おじいさんは、筍を取ったり竹を切り竹細工を作って売ったりして暮らしていました。
ある日のこと、 おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんはいつものように竹林に行くと、
光っている竹が一本ありました。
おじいさんはその光った竹が気になり近寄りました。
竹を切ってみると何と男の赤ん坊が入っていました。
おじいさんは、その男の子を家につれて帰りました。
おばあさんはとても驚きましたが、
おじいさんとおばあさんには、子供がいなかったのでその子を育てることにし、
竹から生まれたので「竹太郎」と名付けました。
竹太郎はすくすくと育ち、立派な優しい少年に成長しました。
ある日のことです。竹太郎は二人に言いました。
「昨晩、流れ星が僕に話しかけてきました。鬼ケ島に悪い鬼が住んでいるそうです。
僕が行って退治したいと思います。」
おじいさんとおばあさんは、とても驚き竹太郎に思いとどまるよう説得しましたが、
竹太郎は頑として譲りませんでした。
仕方なく、せめてもの足しにと考え、おばあさんはきび団子を作り、竹太郎に渡しました。
竹太郎は袋に入れるとさっそく鬼ケ島に向けて旅立ちました。
「必ず、鬼を退治して帰ってきます。」
途中、竹太郎は犬に会いました。
「お兄さん、袋の中に何が入っているんだい。」
「きび団子だよ。」
「僕に一つくれればお伴します。」
竹太郎は犬にきび団子を渡し家来にしました。
竹太郎と犬が旅を進めると、猿に会いました。
「お兄さん、袋の中に何が入っているんだい。」
「きび団子だよ。」
「僕に一つくれればお伴するよ。」
竹太郎はサルにきび団子を渡し家来にしました。
しばらく旅を進めると、雉に会いました。
「お兄さん、袋の中に何が入っているんだい。」
「きび団子だよ。」
「私に一つくれればお伴するわよ。」
竹太郎は雉にきび団子を渡し家来にしました。
鬼が島に着くと、お城の門の前に、たくさんの鬼たちがいました。
竹太郎はおじいさんにもらった剣で鬼に立ち向かいました。
犬は鬼に噛みつきました。
猿は門に登り鍵を開けました。
雉は鬼の目をつつきました。
「これは敵わない。」鬼たちは城の中に逃げていきました。
すると鬼たちの大将とその姫が竹太郎たちの前に立ちはだかり、
「生意気なやつらだ。俺様が鬼の力を見せてやる。」と大きな金棒を振り回しながら向かってきました。
竹太郎は金棒をかわしながら、鬼のふところに入ります。
「悪い鬼たち、みんなに悪いことをしたからには許せない。私の剣を受けてみろ。」
「ぎゃあああああ。」
竹太郎は、すべての鬼を退治し、鬼がみんなから奪った金や銀や織物や、荷車一杯の宝物を取り返しました。
そうして、竹太郎は鬼が島からおじいさんおばあさんの居る家に帰ってきました。
途中、奪われた宝物をみんなに返しながら帰ってきたので随分時間がかかってしまい、
おじいさんとおばあさんは、すでに亡くなっていました。
帰ってきてからは、竹太郎はすっかり別人のように気が抜けてしまいました。
それでも、犬と猿と雉はそんな竹太郎を元気づけるため、一緒に暮らしていました。
ある寒い雪の日、犬と猿が町へお米を買いに出かけた帰り、
罠にかかっている一羽の鶴をみつけました。
鶴は動けないようでした。
犬と猿はとてもかわいそうに思いました。
「「いま助けるからな。」」
犬と猿が鶴を助けてやると、鶴は山の方に飛んでいきました。
家に帰り、犬と猿はその話を竹太郎と雉にしました。
すると玄関の扉をたたく音がしました。
「こんな時間に誰かしら。」と雉は扉をあけました。
美しい女性さんがそこに立っていました。
「こんな遅くにごめんなさい。雪が激しくて道に迷ってしまいました。
どうか一晩ここに泊めてもらえないでしょうか。」
「何もないところですが、それでも良ければ。」
竹太郎はやや投げやり気味の言葉に、雉は少し寂しいを思いをしましたが、
女性はこの言葉にとても喜び泊まることにしました。
次の日も、また次の日も雪は降り続き数日が過ぎました。
女性は泊めてもらっているお礼にと炊事、洗濯、何でもやりました。
寝る前には竹太郎のやさしくマッサージしてあげました。
荒んだ竹太郎の心に、光が戻ってくるようでした。
ある日、女性はこう言いました。
「今日はごちそうを作りたいと思います。」
女性が料理を始めるとき、こう言いました。
「これから、料理を始めます。料理の間は、決して部屋をのぞかないでください。」
「わかりましたよ。決してのぞきませんよ。」
部屋に閉じこもり一日中かけて作ったごちそうはとてもとても美味しい料理でした。
次の日も次の日もご馳走が続きました。竹太郎と犬と猿は上機嫌で、めっきり太っていくようでした。
三日目、さらに豪華なご馳走が出てきました。それは実に見たことのないご馳走でした。
「さあ召し上がってください。」
竹太郎と犬と猿は、女性の料理にすっかり虜になっていました。
次の日。雉は町へ出かけました。
「おかしいわ。あんな材料買うお金なんてうちにはないのに。」と雉は町を歩きました。
途中、お坊さんに声を掛けられ、雉は悩みを話します。すると、
「この鏡は八咫鏡と言います。これに気になる相手の姿を映してごらんなさい。」
と、鏡を渡され、雉は家に帰りました。
次の日、女性はまた料理をはじめました。竹太郎は言いました。
「すばらしい料理をどうやって作っているんだろう。ちっとのぞいてみたい。」
「そうだね。僕も見てみたい。」
雉はチャンスと思い、竹太郎たちを止めなかったところ、とうとうのぞいてしまいました。
女性が何やら呪文を唱えているようでした。
「姿を見せなさい。」
雉が八咫鏡にその姿を映すと、そこには鬼の女性の姿が映りました。
女性が包丁を持って部屋から出てきました。
「気付くのが意外と早かったのね。もう少しで、料理の毒でみんな死んだのに。」
と手を広げると、雉と猿の首をはね、山の方に逃げて行ってしまいました。
竹太郎と犬が追いかけ、鬼の女性を崖に追い詰めました。
竹太郎が鬼の女性に刀を突き立てると、鬼の女性が崖から落ちていき、海に落ちて泡となって消えていきました。
「あの時の鬼の姫だったのか。」
絶望した竹太郎は、鬼の女性を追うかのように崖から身を投げました。
「またダメだったか。」
犬が右前足を上げると、空から光が差し、犬は空に吸い込まれていきました。
「物を奪い、命を奪い、復讐が復讐を生み、さらに繰り返す。こんな星はダメだな。」
犬はそう言うと、穏やかな星を求めてまた旅立ちました。流星のように。