決行前夜
食料品や衣服など一式を揃えたフーガは作戦をもう一度振り返っていた。
「……ここから侵入して、城の内部へ入る」
城の見取り図と警備体制の穴を突いたルートを指で辿る。
なぞったルートは赤い線が引かれていた。
「予備のルートはここ……それからここ……」
また別の道を指でなぞる。
地図には赤い線が何本も引かれていた。
「サーシャがいるのは、恐らく地下室」
小さな声で呟きながら、図面上の地下室を指で指す。
「助けたあとは、この道で……」
今度は青い線をなぞる。
青い線も何本も引かれていた。予備ルートを確保するためだろう。
「城を抜けたら……ここ」
フーガは机に置いてある何枚もの地図のうちから一枚を手に取る。この街の地図だ。
この地図にも無数の線が引いてある。
「街を抜けたら……ここ」
机にある隣町とその周辺の地図へ目を移した。
丸やら線やらがその地図にもたくさんあった。書き込みもしてある。
「大丈夫……絶対に成功させる……」
フーガは深く息を吐いた。
失敗は許されない。チャンスは一度きり。助けるのに失敗したら、サーシャは戻ってこない。二度と。
失敗すれば、自らもタダでは済まない。恐らく、処刑されて死ぬ。
失敗した時のことをフーガは考える。背筋に悪寒が走る。
フーガの手は震えていた。冷や汗も流れ、服はぐっしょり濡れている。手のひらにもじんわりと汗が滲んでいた。心臓もどくどくと脈打ち、うるさいくらいに騒いでいた。
「……サーシャ……」
フーガは、部屋に置いてある写真立てに目を向けた。
写真立てには笑顔で写る二人の姿があった。
それを見て、フーガは未だ震えているのを隠すように、強く拳を握った。強く、強く握った。
そのせいで、手のひらには爪の跡が残ってしまっている。
「……今度は、諦めないから」
作戦の決行はいよいよ明日だ。失敗するにしろ、成功するにしろ、大きく運命が変わることは間違いない。
フーガは今度こそ覚悟を決めた。