助けるための準備
サーシャは、フーガの元恋人である。
王子に惚れられて求婚された。彼より身分の低いフーガに止める術はなかった。
サーシャは何度もフーガに謝った。本当に愛しているのはフーガだとも伝えた。
フーガもサーシャのことが好きだった。別れることになったあとも愛していた。けれど、王子と結婚して幸せになってくれるなら……それでいいと思っていた。だから、受け入れることにした。
そして、数日も経たないうちに、サーシャは王子と婚約した。
ようやく……ようやく、諦められるかもしれないとフーガは思い始めていた。それなのに、王子はサーシャを裏切り、違う人と婚約した。
サーシャが悪女だなんて、そんなわけがない。優しくて、明るくて、表裏のない女性だ。ずっと……あの王子なんかよりもずっと一緒にいたんだ。
サーシャの良いところなんて、沢山知っているに決まっている。
そうフーガは考えた。そして、聖女と呼ばれる女性のことを頭に浮べる。
きっと、あの聖女とかいう女によって、悪女に仕立て上げられたのだ。
サーシャが誰かを貶めたり嫌がらせをしたりなどという真似をするはずがない。
例え、その話が本当だったとしても……フーガの決意は揺らがなかった。
むしろ。絶対に処刑を阻止しなくては、という思いが強まっただけであった。
「……待っててくれ、サーシャ」
フーガは一人、誰もいない部屋で呟いた。その声は、小さくも意思の感じさせるはっきりとしたものだった。
城への侵入経路、脱出経路、助け出したあとの逃走経路。
秘密裏に入手した城の見取り図や周辺の地図を見ながら、フーガは考えていく。
何個も何個も考え、万全に絶対に助け出せるように緻密に計画を練る。失敗は許されない。たった一度きりの決行で成功させなくてはならない。
計画を練って、地図を頭に入れる。今日は何パターンものプランを考えておくべきだ。
明日、疑われない程度に城の周辺と街の下見をする。人通りの多いところや少ないところはどこか。時間帯はいつならやりやすいかを確かめる。
明明後日とその次の日は、隣町と近くにある山と森。どこにでも身をひそめられるように、知っておく必要がある。
さらにその次の日は、食料などの生活に必要なものを二人分用意する時間に当てる。当分、人のいるところに姿を現さなくても良いくらいの資源を持っておく必要がある。
そして、処刑日前日の夜。城に忍び込んでサーシャを救い出す。そして、ともに逃げる。
絶対に、絶対に死なせない。
処刑日までにサーシャを救い出すプランをフーガは一日中、練り続けた。