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桜の夜の催し事‐連載版  作者: 知美
夜馬之助と愛以子
8/10

7.意味の違い‐愛以子side

 斗希之丈と夜桜を楽しんだ、愛以子の中にある思いが浮かんでいた。


“夜馬之助様に逢いたい”


 斗希之丈と夕子が羨ましい。お互いに、奉公をしている身だから、そう簡単に話したりはできないだろう。だけど、同じ場所にいる事が羨ましく感じたていた。その思いは、城下町での催し事が終わった今でもそう感じ、その思いは強くなるばかりだ。


(覚悟を決めよう……!)


 そう思った愛以子の行動は早かった。愛以子の父親──蔵之介と愛以子の母親──櫻子さくらこに正直に自分の気持ちを伝えた。


“夜馬之助様と一緒にいたいから、玖九良城の女中になりたい”


 最初は反対されたが、女中として、玖九良城に奉公する事を許してくれた。それからというもの、毎日が楽しかった。毎年、桜が咲く季節にしか逢えなかった、夜馬之助と同じ場所にいられる。それが嬉しくて、毎日が楽しい。そして、実際に、玖九良城の廊下などで、夜馬之助とすれ違う事が出来て、微笑まれた時はスゴく嬉しくて、1日気分が良い。初めて、玖九良城の中で夜馬之助とすれ違ったときは、スゴく驚かれたが、今では必ず、会釈をして微笑んでくれる。

 そして、今日も夜馬之助が微笑んでくれたことが嬉しくて、愛以子は機嫌が良かった。


「はぁー……、幸せ……」


 今、愛以子は女中部屋にいる。そこには布団が所狭しと並べられており、愛以子がいる場所は部屋の奥の方で、そこは障子を開ければ、外の景色が見られる。そして、隣には、幼い頃から仲が良かった夕子がいた。


「今日もメイは機嫌が良いわね……」


 夕子の声色から、拗ねているのを感じ取った愛以子は理由を聞いた。聞かなくても、だいたいの理由はわかるが。


「斗希之丈様にお会いできたんでしょう?」

「そう、だけど……。夜馬之助様みたいに、気づいてくれなかったの……」


 そう言って、口を少しだけ尖らす夕子を可愛く感じた。夕子はまだ何かブツブツ言っているが、愛以子はそれを黙って聞いていた。


「メイは必ず気づいてもらえるじゃない……、でも」

「斗希之丈様、お忙しかったのよ……」

「今日は、夜馬之助様と一緒にいたのよ。その時、夜馬之助様はメイに気がついたじゃない……。それなのに……」


 だんだんと声が小さくなっていく夕子を見ていて本当にお互いの事を想いあってるのをより認識した。きっと、本人達だけが気がつけていないだけなんだ。そう思うと、もっと素直になれば良いのにと思う愛以子がいた。


「でも、今年の桜の夜の催し事は、夕子から誘うんでしょう?」


 その問いかけに、夕子が赤くなる。


「そう、だけど……」


 その声も、ずいぶんと小さい。それを不思議に思っていると、女中の先輩──朝子ともこが教えてくれた。どうやら愛以子と夕子の話が聞こえていたらしい。


「城内と城下では意味が違うんだよ」

「意味……?」


 それに朝子が頷き、愛以子の耳元に口を寄せて、小声で教えてくれた。


「城下では知っている通り、結婚の申し込み。だけど、城内では夜のお誘いなんだよ」

「えっ!」


 意味の違いに驚き、愛以子は目を見開く。


「そんなに驚くことでもないよ。ここの城主様と奥方様の出逢いの季節だからと、その時期だけは無礼講なんだよ。女性から誘うにはなかなか勇気がいるけど」


 夕子を見ると、頬を赤くしたままで赤みがまだひいていなかった。


(それじゃあ、夕子は……──)


 それ以上は考えてはいけないと思い、考えるのをやめた。


「でも、それは強制じゃないから断れる。安心しな。明日も早いんだ、さっさと寝な」

「はい……」


 朝子は言葉通り、さっさと布団に潜り込んで眠ってしまった。


「ごめん、夕子。知らなくて……」

「良いのよ。私達も寝ましょう」


 愛以子は布団に潜り込んでもなかなか寝付けなかった。

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