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桜の夜の催し事‐連載版  作者: 知美
夜馬之助と愛以子
7/10

6.夜桜‐斗希之丈side

 用を済ませた斗希之丈は急いでいた。自分自身の用に一番時間がかかってしまい、愛以子との約束の時間に遅れそうだ。女性を待たせるなんて失礼にあたる。斗希之丈は出来るだけ早く移動しようと走っているのだが、不意にこんなことを思った。


(夕子と城下町の桜の夜の催し事、見たかったな……)


 玖九良城に奉公する前は、夕子とはただの幼なじみという関係性だったから、城下町で行われる桜の夜の催し事に行ったことがない。桜を“見る”ということは何度も夕子と一緒に見ているが、夜に待ち合わせをして、桜を見たことはなかった。


(初めては、夕子と見たかった……)


 そこまで思って、頬が赤くなるのを自覚した。


(なのに、なんでアイツは……)


 走っていたのに、いつの間にか立ち止まっている。これでは、愛以子との約束に間に合わない。すると、前から砂利を踏む音が聞こえてきた。


「斗希之丈様、どうかなさいましたか?」


 目の前には愛以子がいた。


「どうして……」

「なんだか、ソワソワしてしまって……。夜馬之助様以外の男性とこうして夜に桜を見るのが初めてで……。それに、待っているより、探した方が早いかなって思いましたから……」

「えっ、時間……」


 懐に持っている、懐中時計を見ると約束の時間を過ぎていた。


「申し訳ない。愛以子さん」

「いえ、大丈夫ですよ。私も少し遅れてしまったので……、お互い様です」


 そう言って、微笑む愛以子を見ていると、夕子が時々見せる嬉しそうな顔が浮かぶ。


「夕子……」


 不意に口から漏れた名前。自分でとっさに口を手で押さえる。


「大切なんですね……。夕子の事」


 嘘を言っても仕方がない。それに愛以子に聞いてもらいたかったのは、夕子の事。愛以子と夕子は、夕子が斗希之丈と一緒に玖九良城に奉公しに行ってしまう前から、よく一緒にいたのを覚えている。


「はい、スゴく。だからこうして、夕子以外の女性と夜桜を見るのが、夕子に悪い気がして……」

「一緒ですね。でも、いつも夜馬之助様と一緒に見ているここは、提灯の形で区別しているから大丈夫ですよ。ほら……」


 愛以子に指差されてみた所にはこう書かれていた。


“丸い提灯は桜の夜の催し事。四角い提灯は夜桜見物”


 それを見て、なんだかホッとした。


「ありがとう、愛以子さん」

「行きましょう、斗希之丈様。夕子と……夜馬之助様のお話、たくさん聞かせてください。もちろん、斗希之丈様のお話も聞きます」






 そうして、斗希之丈は愛以子と様々な話をしていたら、あっという間に時間は過ぎていた。そして、斗希之丈は、夜桜を見終わって帰る愛以子を桜木道場の前まで送り届けていた。


「今日はありがとうございました、愛以子さん」

「いえ、私の方こそ、ありがとうございました。それに私の話も聞いていただいて」

「いえ、それぐらいなら、いつでもしますよ。といっても、来年以降は──」


 その言葉に、小さな笑みをこぼす愛以子につられて斗希之丈も笑みをこぼす。


「それじゃあ、おやすみなさい。愛以子さん」

「はい、斗希之丈様もお気をつけください。おやすみなさい」


 桜木道場を後にして、斗希之丈は久しぶりの実家に帰る。その帰り道、愛以子が決めたことを思いだした。


(ヤマ、お前は幸せ者だな……。愛以子さんにあんなに想われていて)


 それを思うと、斗希之丈は夕子に逢いたくなっていた。

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