3.来年の約束‐愛以子side
今、夜馬之助に抱き締められている。以前は後ろから抱き締められた。でも今回は正面から抱き締められている。そのせいで、愛以子の頭の中は真っ白になっていた。
周りに人はいない。それが幸いだ。だけど、人目につくところで、年頃の男女がこうしてくっついてはいけない。その事はお互いにわかっている。だけど、夜馬之助の体温を仄かに感じられて、嬉しいと思う愛以子もいる。
頭の中で、色々と考えていたら、仄かな温もりが愛以子から離れていってしまうのを感じた。
「突然、すまない。愛以子殿……」
そう言う夜馬之助を見ると、頭を下げていた。
「いえ……」
そう言い愛以子は、夜馬之助の耳元でこう囁いた。
「嬉しかったです……」
その囁きに夜馬之助が勢いよく頭をあげたことに少し驚いたが、愛以子が持っている丸い提灯の明かりに照らされた夜馬之助の頬は仄かに赤くなっていた。きっと、愛以子自身の頬も赤くなっているハズだ。きっと、この丸い提灯の明かりに照らされ、夜馬之助にもそれが見えているだろう。だけど、それを隠そうとは思わなかった。
きっと、愛以子も夜馬之助も同じ気持ちだから。
「来年もこうして、桜を見ましょうね。夜馬之助様」
その問いかけに、夜馬之助が「もちろん」と言ってくれたことが嬉しくて、その日の夜は中々、寝付けない愛以子だった。