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7:狼との再会

 シャーリーの意識が覚醒し、瞼を開く。

 あたりをぐるりと見渡せば、清潔なシーツに包まれていて、彼女の家よりも簡素な部屋が目に映る。ぼうっとする頭でまだ自分は生きているのか、と考えて大きくため息をついた。

 それが安堵のものだったのか諦めだったのかはわからないが、シャーリーという少女はまだ生きていたのだ。


「あぁ、目が覚めた?」

「!!」


 そんな事を考えていれば、ひょっこりと男性がのぞき込んできた。森で見た白銀の髪と、赤い目、そして日に焼けた褐色の肌……。何よりもてっぺんに生えた三角形の耳が嬉しそうにぴこぴこと動いているではないか。

 乾いた口をはくはくと動かし、シャーリーは男に声をかける。


「あなたは……」

「君が思っている通りだと思う。俺は君が森の中で出会った狼だ

 名をヴァイスという……君は? 話せそう?」

「……しゃーりー……」


 人狼、という言葉がシャーリーの頭の中を過った。

 黒い森に昔から住まう亜人族の一つだとされ、狼と人の姿を自由に行き来する事ができるのだという。

 そんな彼がどうして、と思ったのだが、目の前の青年は何も言わずに彼女に椀を差し出してきた。中身はどうやら水らしい。


「飲める?」

「……」


 軽く頷いて身体を起こそうとしたのだが、完全に衰弱しきっているらしい。


「ゴメン」


うまく動かす事もできずいれば、何かを察したのか青年が謝罪してから椀の中の水を口含むと、そのままシャーリーの顎に優しく触れた後で口づけてきた。


「ん……」


 隙間から水が流れ込み、喉を潤していく。暫くそうしていれば、やっとヴァイスが離れていった。


「大丈夫そう?」


 聞かれてこくりと頷く。喉の渇きはもう感じない。その言葉を聞いて目の前で口移ししてきた張本人は安心させるためなのか、ふにゃりと笑ってみせる。


「よかった」


 ヴァイスは、シャーリーの頭を撫でて痛いところはないか、気持ち悪いところはないかと一つずつ確認してくる。それに頷いたり否定したりを繰り返す。

 どうしてそうまでしてくれるのか、シャーリーにはわからない。


 そこまでする義理も彼にはないし、助ける理由もわからない。


 ただ、漠然とあの時死んでいればよかったのに、なんて嫌な考えだけが渦巻いている。


「どこか痛む?」


 だから甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる、知り合ったばかりの人狼に申し訳なさしかなかったのだ。


「見つけたときは本当に死にかけていて慌てたけど

 君が生きていてよかった」


「なんで……」


 ヴァイスの言葉に、シャーリーの目から涙が零れ落ちていく。彼に当たり散らすのは違うと思いながらも溢れかえった感情はとどまる事を知らない。どうやって制御するのかもわからず、ヴァイスに訴えかけた。


「なんで、そのままにしなかったの……

 なんで死なせてくれなかったの……」


 ぼろぼろと流れる涙は止まることを知らず。ぐちゃぐちゃの感情のまま大声を上げて叫んでしまいたかった。

 あのまま死んで終わりにすれば、もしかしたら父や母に会えたかもしれない。理不尽に虐げられることだって、なかったかもしれない。


 けれど、ヴァイスは何も言わず、そっとシャーリーの身体を起こして抱きしめた。彼の服にじわりとシャーリーの涙が吸われていく。


「ごめん、君を助けたのは俺のエゴだ……

 君を見捨てるのが、俺はすごく嫌だった」

「なんで……」


 同じ言葉を繰り返すシャーリーに、ヴァイスは困ったように彼女の背中を撫でる。


「わからない

けど、君を助けるのに理由はなかった」


 それだけ。と告げる彼に、シャーリーはとうとうわからなくなった。自分は助けるに値しない。だって、自分は廃棄されてしまったのだから……。目のを困らせたくないのに、苦しいくらいに涙が出てしまう。


「私、そんな価値ありません……助ける意味がありません……」


 聖女でもなんでもない、ただのシャーリーに価値はあるのか。と訴えても、ヴァイスは首を振る。


「なら、今だけでいいから……俺の為に生きてよ」


 優しい肯定に、シャーリーはとうとう大声を上げて子供のように泣き叫んだのだった。


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