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3:望まぬ婚約

 半日ほどかけてたどり着いた王城は、教会と同じように豪華なのに息の詰まるような場所。王都にいるものの、王城から遠い場所に住んでいるシャーリーは、こんなところだとは思っていなかった。

 馬車は無情にも進み降ろされてからも、脇を聖職者に固められる。永遠とも思える長い廊下を抜けて謁見室に出れば、豪華な玉座にふんぞり返っている王と、隣に控える若い男性が一人――おそらく立場から見て彼は王子だろう――立っていた。


「おお、かの聖女というのは貴殿か」


 まるで興味がないように――聖職者同様に笑顔を張り付けたまま、王はわざとらしく告げる。その言葉に背筋が凍り付いたように、シャーリーは何も言えなくなった。



 ――かの王の歪んだ笑顔を、シャーリーは生涯忘れることができないだろう……。


 王は彼女を値踏みするようにじろりと見つめたあと、まるで唐突に思い出したように王子に尋ねてくる。


「ふむ……ふむ。なるほど

 一度その力を見せてもらってもいいかな?」


 有無を言わせず、連れてこられたのは怪我を負った兵士だった。目をそむけたくなるほどの痛々しさに、シャーリーは脇にいた聖職者に背中を押され、息が詰まるような思いで、兵士に近づき治療を施す。


「にげろ……」


 治している途中で、ぽつりと兵士がそんな事を言った気がしたが、彼は治った途端引きずられるように、またどこかへと連れていかれてしまった。


「素晴らしい!!」


シャーリーが兵士に何か言う前に王子が拍手し、感情の無い声で褒め称える。異様なまでの空間に、臣下や近くにいる近衛騎士たちは何も言わない。ただ、皆が皆怯えたように、無表情を貫き通していた。

 王子はそんな彼らなど最初からいなかったかのように笑うと、シャーリーの肩を掴む。ぎりっと嫌な音が聞こえ、痛みで呻いたが、彼にはそれすら聞こえないらしい。


「君は素晴らしいよ!

 父上、彼女にアルス皇国の国境付近に行っていただきましょう!

 彼女であれば兵力を回復することもできましょう」

「なっ!」


 冗談じゃない! そこまでする義理もない、家に帰してくれ! と叫ぼうとするが、王と王子は目の前にいるはずのシャーリーの意見も聞かずに続ける。


「そうだな

 では聖女……ええっと、シャーリー・アンダーソン……と言ったかな?

 貴殿は我が国、ウィルクス王国とアルス皇国の国境付近に赴き、兵の回復に努めよ」


 これは王命である。


 言葉にしなかったものの、含んだ言い方は何の権力も持たないシャーリーにとって死刑宣告も同義だった。戦いすら知らない少女が、よりにもよって一番戦火の大きいところに行かなければならないのだから。

 開いた口がふさがらないシャーリーを見て、王は首を傾げる。まるで、泣いて喜ぶべきところである、と言わんばかりに。


 そうして、再び見当違いも甚だしい事を口走った。


「あぁ、褒美の事を忘れておったわ

 そうだな……我が息子、フィリップとの結婚などどうだ?」

「――――――は?」


 王の唐突な言葉に、頭の中が真っ白になった。

 一体この人は何を言っているのだろうか……。


もはや考える事を放棄しかけたシャーリーが頷かないのを見て、フィリップと呼ばれた王子は、彼女の頭を押さえつけ無理やり頷かせる。痛みで抵抗しようものなら、頭蓋骨を握りつぶされるような勢いで、更に押さえつけられた。嬉しいよな、と強制的に言葉を吐かせ望まぬ婚約を結ばれたのである。

 ぱちぱち、とまばらな拍手が聞こえ王子の手が離れる。


「では、聖女シャーリーの門出を祝おうではないか!」


 王はそれだけ言った後、興味なさげに玉座に座り直す。その姿を見て、聖職者たちはシャーリーを立たせると、抵抗しないように歩かせ再び馬車に押し込んだ。


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