1:シャーリー攫われる。
短編の連載版です。
展開物凄い遅いうえに、最初主人公虐げられているのでご注意を
シャーリー・アンダーソンは、あの日あった時のことを忘れないだろう。
平々凡々、いつもの日常だったはずなのに、不幸というものは、突然降ってわいてくるのである。おとぎ話でもなければ、貴族が巻き起こしたバカみたいな乱痴気騒ぎでもない。生涯かけて、まったく関係ないと思うようなことが――彼女の身に起きてしまったのだ。
カーテン越しにうっすら朝日が差し込み、ウィルクス王国の城下町がにわかに活気づいた頃、シャーリーも同じように身体を起こした。この前奮発して買ったシーツは貴族や王族が使うものより質素だが、手触りがよく寝やすいのでお気に入りだ。
手作りのカーテンを開き、窓を開ける。さわやかな風が部屋を抜けて朝の空気がシャーリーの身体を包んだ。
「よいしょっと」
そのまま彼女は目の前にある鏡を見ながら、灰銀の髪を簡単にまとめると、パジャマから簡素なワンピースに着替える。着替える途中、視界に入った散らばった本の山々に少しだけ目を逸らし――
「そろそろ部屋、片さないとなぁ……」
なんて呟きながら……。
シャーリーは、今年十七歳になる少女だ。
親は残念ながらいない。
母親はシャーリーを産んですぐに、はやり病にかかり亡くなったと聞く。父親は昨年、彼女の母親と同じ病にかかり、帰らぬ人となった。
残された彼女には、父親が残したわずかばかりの金銭と、彼が趣味で集めた書物があるだけ。今は見かねた近隣の住民たちが日雇いの仕事を与え、どうにか暮らしていける状態だ。
高価な書物を売るだけでも、暫くは暮らしていけるはずなのだが、シャーリーは首を横に振るばかり。
「まだ、父との思い出を大切にしたいのです」
と言われてしまえば、周りの人間は納得するほかなかったのだが。
それでも積まれた書物は多く、天高く積まれている。いつ崩れるかもわからないので、さっさと整理したほうがいいという状況だ。たまたま目についた一冊を手にとり、表紙を読む。
「四元素と精霊について……か
また、魔法に関する資料かな?」
シャーリーの父親が何をやっていたのか、彼女は知らない。幼い時に尋ねた事はあったのだが、彼は少し困ったような表情を浮かべてはぐらかしてきたからだ。それ以降は聞いてはいけないこと、と子供ながらに感じて何も聞けなかったのである。
が、蔵書を見る限りは魔法に関する研究を行っていたのだろう。表紙をめくれば大量の文字の羅列が目に入る。
――精霊はおとぎ話のように人を助け導くものではない。
いきなり夢をぶち壊すような記述に、シャーリーは苦笑する。
――空気や水といった自然物そのものに近いものであるため、互いに干渉することはできない。
――また、精霊に愛され祝福された者は、四元素のうちのどれかが大きく強くなった者を指す。そして、魔法は今でこそ略称された呪文や媒体を使用しているが、元は強い願い(呪いなど)と想像によるものだとされている。
「ふーん……」
つらつらと書かれた文字を読み上げれば、父親から軽く教わったような内容だった。続きが気になってしまうところだが、時間もないので本を元の位置に戻しキッチンへと向かう。
元々本を読むことは好きなのだ。今度じっくり時間をとってもいいかもしれない。
「おはよう、マーサさん」
「おはようシャーリーちゃん」
朝食を食べ終えて仕事に向かうために外に出れば、近所に住むマーサという四十代くらいの女性が、シャーリーの家を通りかかるところだった。父親が生きていたころから、何かと世話を焼いてくれている女性であり、今は買い物に行く途中らしい。
「シャーリーちゃんはこれからお仕事?」
「はい!」
「そう、頑張ってね」
いつも通りの会話。だが、今日は少しだけ違っていた。
「そういえば、また税が上がるそうよ」
「また?」
「ええ……この前も上げたばかりだというのに……王様はいったいなにを考えているのかしら
今じゃ、隣国とも戦争をしているし、この前も徴兵をしていたそうよ
いよいよ、ここも危ないかもしれないわねえ……」
王政であるウィルクス王国は、王が定めた税を修めなければならない……。のだが、今の王が即位してから僅か数年で税は二倍まで跳ね上がり、長年にわたる各国との戦争も重なり、住民からは不満の声も上がっていると聞く。身よりのないシャーリーにとっては、明日生きられるかも怪しいくらいの税になってきているので、少しばかり生活を考えなければいけないのかもしれない。
「困ったわねえ……先代の王様の頃はよかったのに
ここから外れのところは、スラムみたいになっているって聞くから……気を付けてね」
「はい、ありがとうございます!」
ぶつくさ王について文句を言うマーサに返事をして、シャーリーは仕事場へ向かった。
なんてことはない。いつも通り、帳簿の記入や食堂で接客をして、賃金を貰って帰ってきただけなのに、シャーリーの家の前には馬車が停まっていた。
――何かしら?
よく見れば、国が宗教として推薦している教会の紋章が、馬車には刻まれている。馬車の周りには三人の聖職者の姿が確認できた。青い車体に金の紋章はよく映えて綺麗だと思うのに、どこか恐怖を感じてしまう。
そして、その恐怖という直感は悲しいくらいに当たってしまったのだが……。
「シャーリー・アンダーソンだな?」
「え、ええ……シャーリー・アンダーソンは私ですが……」
「よし、今すぐ教会に来てもらおう」
「なっ! ちょ、やめて!」
「黙れ! 抵抗するな! 大人しくしていろ!」
理不尽に怒鳴られ、強い力で馬車に押し込められ、シャーリーは抵抗するも空しく、教会へと拉致されたのだった。
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