第7話
「むしゃむしゃ」
世の中には、マンネリズムというモノがある。
「パクパク」
同じ事を繰り返す事で、決まった話の流れを楽しむというモノだ。
「むしゃしゃ」
悪人に、桜吹雪や、印籠を見せ、
懲らしめるなどだが、
視聴者も、それを期待するところがある。
「ぱくっ、ぱくぱく」
しかし、これはいかがなモノだろうか?
「あの~……?」
「何だよ、ロクスリー?
食わねぇなら、オレがオマエの分も取っちゃうぜ?」
「こらケビン!
勝手に人のモン取ったりしたらアカンねんで!」
「い…良い! 良いです!
もっと叱って下さい、姐さんッ‼」
ケビンさんの、
いつもの痴態を眺めつつ、
「あの~…オイラの記憶が確かなら、
朝もノリ弁でしたよね?」
「ええ、
朝もノリ弁当でしたね。」
トニーさんが頷く。
「で、
昨日の夜もノリ弁でしたよね?」
「ええ、昨日の夜もノリ弁でしたね。」
マカロニさんが、中指でメガネをクイッと上げながら、
何を当たり前なと言わんばかりの目で言って来る。
「更に、今日の朝や昼どころか、
オイラが入隊してから、ここ3日くらい、
朝も昼も晩も、ずっとノリ弁でしたよね?」
「うん、ずっとノリ弁だったね。」
ユリンさんも、
それがどうしたのという顔で言ってくる。
「てか、オイラとトニーさんの入隊祝いした時以外、
ずっと毎食ノリ弁でしたよねッ⁉」
「ああ、ずっとノリ弁だな。
で、それがどうした?」
ケビンさんが、痴態から立ち直って、
ここに来ても、当然と言う感じで言って来るッ⁉
「ちょッ⁉ オカシイじゃないっスかッ⁉
何で、ずっとノリ弁なんスかッ⁉
何で、ここの食事は、ノリ弁しか出てないんスかッ⁉」
「あ~、もうグダグダ言うな!
トロイメンカッツェの食事はノリ弁って決まってんだよ!
ここの食事は、特別な事が無い限り、毎食ノリ弁なんだよッ‼」
なに、それッ⁉
「ミケさんが、年単位で、
ノリ弁を安く仕入れてくれているのですよ。」
年単位ッ⁉
「フリーズドライで賞味期限が長く、コンパクト。
解凍すれば、ふっくら柔らか。
栄養バランスも考え抜かれていて、栄養満点……。」
マカロニさんが、
メガネを光らせながら言っているところで、
「何より、その上、安い!」
ミケさんが、目を輝かせ、
剣の舞いの時のドヤ顔に負けないくらい、
ドヤッ!という顔で言って来る。
オイラが、渋面を作り困っていると、
「大丈夫だよ、ロクスリー君!
ずっとノリ弁ばっかり食べていると、
他の料理の味を忘れるから、
そのうち気にならなくなるよ!」
と、ユリンさんが、
さもフォローの言葉掛けましたと言わんばかりのニッコリ笑顔で、
そう告げるッ⁉
マジもんで、
ノリ弁しか食わせない気マンマンだ、ここッ⁉
ユリンさんのトドメの言葉の後、
意気消沈し、
ず~んと沈み込むオイラ…。
「よし、メシも食うたし、
次の目的地のポートティリアに行く前に、
もう一回、Gデッキに行って、
強奪してきたFGの様子でも見てくるかな!
ロクスリー君、しっかりメシ食っときや!
食える時に食うのもパイロットの務めやで!」
そう言いながら、機嫌が良いのか、
鼻歌を歌いながらGデッキに行くミケさん。
そのミケさんと対照的に、
オイラの心は、ず~んと沈んでる最中なうっていう…。
そのオイラの様子を見ていたマカロニさんが、
「仕方ありませんね。
とっておきの話をしましょう。」
と、切り出して来た。
「とっておきの……話…?」
オイラが、キョトンとしていると、
「実は、このソルファージュには、
ミケさんがノリ弁を仕入れた時に、
試しに数十個だけ買ってある幻のシャケ弁があるのですよ。」
中指でメガネをクイッと上げつつ、
マカロニさんが、そう告げた。
「幻のシャケ弁ッ⁉」
驚くオイラ。
「そんなモノがあったのですかッ⁉」
トニーさんも驚きの声を上げる。
トニーさんも、実は内心、
毎食のノリ弁に嫌気が差しているのかもだね。
「トレジャーを強奪する時などに、
一番活躍した人にだけ、特別に支給されるのですよ。」
と、続けるマカロニさん。
そのマカロニさんの言葉を聞いて、
「オレも、何回か食べた事があるけど、
あの弁当のシャケは、すげぇ良い塩梅で、
めちゃ御飯が進むんだよな!」
「そうそう!
ユリンちゃんも、あのシャケの美味しさは、
また味わいたいなって思うね!」
ケビンさんやユリンさんたちが、
幻のシャケ弁当を食べた時の美味しさ思い出した様で、
ノリ弁を食べている最中にも関わらず、
二人とも、じゅるりとヨダレをすする。
「オイラも食べる事ができる日が来るっスかねッ⁉」
皆さんの告げる幻のシャケ弁の、
余りの美味しそうな感想に、夢を馳せつつ聞くが、
「今のままじゃムリだろうな。」
「今のままじゃムリじゃないかな?」
「今のままじゃムリでしょうね。」
「今のままでは厳しいかもしれません……。」
トニーさんも含めた四人が、
同時に、否定の言葉を紡ぎ出して来る……。
「ですよね~。」
と、答えるオイラ。
うん。分かっていた。
だって、マジで、オイラ、いまのとこ、
このトロイメンカッツェで、
ほぼ役に立ってないモンね…。
「まあ、ラフィンスカル絡みや、
フェアタイディゲン絡みのイザコザも終わりましたし、
後は、ゆっくりと、次の目的地のポートティリアで、
強奪したFGの売買、生活用品の補充ですね。」
マカロニさんが、中指でクイッとメガネを上げながら、そう告げる。
「でも、
ミケさんは、アヴァドンって呼ばれる程の、
超有名TSで、
うちは、そのミケさんに率いられてる、
極悪TSチームって、
世間で認識されてるそうですし、
そのポートティリアって町に行って、捕まったりしません?」
「それは無いんじゃないかな?
ポートティリアは、
TSすらも受け入れる代わりに、
荒事はご法度の中立が売りの町で、
どこのTSも、
あそこには敢えて手出ししてないって話だしね。」
「おお! それ良いっすね!
じゃあ、思う存分、羽が伸ばせますね!」
オイラが、ユリンさんの説明に、嬉々として答えると、
「羽を伸ばす前に、
ロクスリー君とトニー君には、ちょっと仕事をしてもらうんやけどね!」
Gデッキから帰ってきたミケさんが、そう告げた。
「仕事っスか? 荒事は勘弁っスよッ⁉」
今までの、このトロイメンカッツェの、
荒事の連続の日々を反芻しつつ、
戦々恐々と聞くと、
「ないない。
ポートティリアは、荒事は、ご法度の、
中立地帯って言ったでしょ?」
と、ユリンさんが、被りを振りつつ言う。
「ロクスリー君と、トニー君にしてもらうのは、
日用品の買出しや!
出来るだけ頑張って値切って来て貰うからな!」
「値切り……っスか…?」
予想外の言葉に、言いよどむオイラ。
「う…う~ん…。
値切りなんてやった事ないですけど、頑張ります!」
と、トニーさんが、健気に言う。
「ま、トロイメンカッツェに入ったからには、
値切りは必須スキルだからな! 頑張ってくれよ、兄弟たち!」
ケビンさんが、ニッコリ笑顔で、檄を飛ばす。
と、そこで、
「リーダー、ポートティリアに着きました。」
と、セリアさんが到着の報を告げる。
「よし、ほな、うちらは、Gを売ってくるから、
ロクスリー君とトニー君は、
このメモの通り、日用品の買出し頼むで。
荷が多いから、
ゲズC²と、アウスブレンデンで、運んでな!
で、渡す資金内で、何とか収め!
でも、資金が余る様やったら、駄賃やと思って、
どこかでお茶とか貰って来てもええからね。
ほな、トロイメンカッツェ、行動開始!」
ミケさんの、指示で、オイラたちは、ソルファージュから出発した。
そして……。
「何とか、渡された資金内で、
仕入れが出来ましたね。」
「値切りなんて自信なかったっスけど、
行けたっスね!」
オイラと、トニーさんが、
笑顔で、仕事の成功を称え合う。
値切りが成功し、
ちょっとお茶して行く余裕すら残る感じで、仕入れが終了し、
一息吐く為に、Gから降りて、
手近なパブを探し歩いている最中なうというところ。
「でも、トニーさん、凄いっスよね。
対応は物静かなのに、
常に強気に値下げする様に食い下がっていたっスもんね!」
そう、トニーさん、物腰は静かなのに、
終始、徹底して、強気に値切りをしてくれたんだよね。
正直、オイラの出る幕なんて無かったね。
「いえ、頑張って、少しでも、ミケさんたちの役に立とうと思ったら、
自然と、ああなって……。
そんなに、褒めて頂いて……恐縮です。」
いつも通り、謙虚で良い人のトニーさん。
「トニーさんは、
その謙虚さが、素晴らしいんスよね!」
「いえ、そんな…。」
と、トニーさんをベタ褒めしていると、
「そこの兄ちゃんたち。
少し前に町に着た、
あのデカいGSから来たんだよな?」
と、栗色の髪で、マッシュショートベースに、
仄かにナチュラルパーマを当て、
サイドの髪をツーブロックにした、
ツーブロックシークレットパーマの、
口元が笑っているのに、目が鋭い感じの、
ちょっと怖い雰囲気を持つ男の人が、声を掛けてきた。
「えと、ソルファージュの事っスかね?」
オイラが、そう聞くと、
「そうそう。
GSの名前は分らねぇが、多分、それだ。
あの、無闇にデカいGSな。
で、アンタら、あのGSのチームの新入り、
とかだったりするんじゃねぇの?」
「良く分ったっスね。
オイラも、こっちのトニーさんも、
トロイメンカッツェに入って、3~4日ってとこっスね。」
「ほうほう。やっぱりな。
じゃあだ、アンタらには、
耳寄りな情報をプレゼントしちゃいたくなったね。」
「耳寄りな…」
「情報…っスか?」
唐突な話の流れに、顔を見合わせる、オイラとトニーさん。
「おっと、名乗るのが先だな。
オレの名前はガス=クランプト。情報屋でね。
こう見えて、色々な話に詳しいんだぜ?」
ガスさんと名乗った、その人の言葉に、
「カラミティークランプト…ッ⁉」
一瞬、大きく目を見開けて、
トニーさんが、驚いた様に、
何か呟くが、
「あ…いえ…その…情報屋さんが、
ボクたちに、どんな話があるんですか?」
と、ガスさんを、少し警戒した雰囲気で、
トニーさんが問いかける。
「フフ……、まあ、そう、怖い顔すんなって!
ホントに耳寄りな情報なんだって!」
「ま、まあ、トニーさん。
聞くだけ聞いてみるのも良いんじゃないっスかね?」
オイラが、そう諭すと、
「ロクスリーさんが、そう言うなら……。
情報屋さん、どんな話なのですか?」
何とか納得してくれて、
ガスさんに、話の先を促す。
「それがな、
この町の北東に少し行ったところに、
地下の旧市街地の、
G基地跡への地下通路があるのを、
オレ、最近、見つけたんだよな!」
「地下の、旧市街地の、
G基地跡への地下通路っスか?」
「それが、どうしたんですか?
そんな、町から近いところなんて、
この町のTHたちの、
恰好の餌場になって、
もう何もトレジャーなんて残ってないんじゃないですか?
それが、どう、耳寄りな情報なんですか?」
トニーさんが、いつもと違って、
少し、トゲのある聞き方をする。
でも、そうだよね。
そんなとこ、普通に考えたら、
もうトレジャーなんて残ってないよね。
そんなとこの情報が耳寄りな情報って、どういう事なんだろう?
「兄ちゃん、焦るなって、
ここからが本番なんだよ。」
ガスさんが、笑い顔ながら、
目だけ鋭い感じで、続ける。
「その地下道の入り口な、
最近、この町に、地震があって、
その余波で、現れたみたいなんだよな!
で、今まで、そんなとこは、見つからなかったし、
余りに町から近いから、町のTHたちも、
まさか、そんなご近所に、そんな穴場があるなんて、気付いてねぇんだよな!
アンタら、運が良いぜ!
オレ、さっき、ちょっと、
町のパブでのポーカーで、大勝してな!
懐が温かくて気分が良いから、
この情報を、無料で誰かに流してやろうって思っていたとこなんだよ!
アンタらがこの情報聞いた1番最初のラッキーマンって事だ!
他の奴らに見つかる前に、
G基地跡の、
Gデッキに眠ったGたちを、
たんまり頂いて、ガッポリ稼いじゃいな!」
マジでッ⁉
それって、そんな凄い状態なら、オイラ! オイラッ!
「マジっスか⁉
そのG基地跡の、
Gデッキに眠っている、
Gを全部手に入れたら、
オイラでも、幻のシャケ弁を貰えるっスかねッ⁉」
意気込んで聞くオイラ!
だって、この情報が正しければ、
オイラ、Gを大量に発掘して!
ミケさんに褒めて頂いて!
幻のシャケ弁が、ぐっと近づくんじゃないのッ!?
「余裕、余裕!
アンタらのリーダーも、
Gをガッポリ手に入れれば、
喜んで、最高の報酬を出してくれるって!
Gを見つけたら、
リーダーに内緒で土産で、1機、持って行っちゃいなよ!
その方がサプライズになって、
リーダーも喜ぶって! って事で、早く行っちゃいな、兄ちゃん!」
ガスさんが、また、笑い顔で、言って来る。
これは……これは……ッ⁉
これはチャンス!
このチャンスを見逃すワケには行かない!
オイラは、幻のシャケ弁を、
是が非でも味わいたいんだ!
もう、ノリ弁だけの生活は嫌なの!
「ガスさん、ありがとうっス!
オイラ、さっそく行って来るっス!」
オイラが意気込んでそう言うと、
「ロクスリーさん! そんな上手い話が……」
トニーさんが、言い終わる前に、
「兄ちゃん!
早く行かないと、他の奴らに、先にGを発掘されちゃうぜ?
チームのリーダーには、内緒でな。
さっき言った様に、サプライズで驚かした方が、
報酬も良いのがでると思うしさ!」
ガスさんが、笑顔で、アドバイスをくれる!
「よし! やってやる! やってやるっス!
オイラはノリ弁の呪いから解放されるんだッ!」
「ちょッ…⁉ ロクスリーさん!」
トニーさんが、なおも何か言っているけど、気にしな~い。
38を連れて、
超ダッシュで、ゲズC²に乗り込み、出撃!
速攻で、ガスさんの言っていた、
町の北東の、旧市街地の、
G基地跡への地下通路を探し出す!
『マスター。
この選択で、本当に良いのですか?
この選択は、いつにも増して、
無謀だと進言します。』
「良いの!
オイラは、もうノリ弁だけの生活は嫌なのッ!
絶対に、Gを大量発掘して、
幻のシャケ弁を頂いちゃうのッ!
つべこべ言わず、38も地下通路、探すの!」
『マスターの横暴さは、
酷すぎると判断します。
ですが、仕方ありませんね。』
何とか、38を説得完了。
しばらくの間、
オイラが地下通路を探していると、
『マスター。
地下通路と思われる場所を発見。
ここから2時の方角に2キロです。』
「でかした、38ッ!」
38の見つけた地下通路に入り、
地下に潜って行く。
通路を下って行き、
旧市街地に到着。
少し先に、ガスさんの言った通り、
基地跡と思われる建物がある。
外壁をグルッと周り、入り口を見つけ、
G基地跡に進入!
「なんて順調なのッ‼
後はGを探し出してミケさんに報告すれば、
幻のシャケ弁がオイラの腹にッ!
そして幻のシャケ弁は、
オイラの腹と共に舌と心を満たし!
満たされた全てが、
オイラを仏國土の涅槃にも到達する勢いで、
至高の領域へと到達させ!
オイラの中の何かがマイレボリューション!
その時、大地は裂け、天を偉大なるシャケ弁が覆い、
世界を宇宙基地落しが襲う!
それこそが新世界の天地創造の為の聖なる黙示録の大破壊!
そしてオイラこそが新世界のアダムとなる!
フハハハハハ!
イブたん!(オイラの脳内彼女。推定年齢15歳。外見年齢8しゃい。)
オイラと共に、
あはん、うふんで、
あげな事や、そげな事を成して!
その無い胸の感触により、
さらなる高みへと達する!
オイラのメギドの炎は、
黙示録の大破壊のラッパを鳴らす一歩手前!
ブルマのテカリが、
更なるラグナロクの訪れを導き!
スパッツも捨てきれない、この胸のわだかまりを、
スク水で補い………!
ネコミミなど不要な…………!
イブたんのエロかわいさは、世界一ィィィィィィィィッ‼」
『マスターッ!
現実に戻って来て下さいッ!
現在、マスターは、とても危うい世界に突入していますッ!』
「ハッ⁉」
38の一言で、我に返る。
「余りの嬉しさに、トリップしていたよ! でも……」
目の前のGデッキに並ぶFGたち。
ゲズやジーナが多目だけど、ザヌスやガトナスも居るッ!
「オイラ、パライソに到着せり!
後は、Gを、
発掘し放題ですよ、38さん!」
やったよ!
これで、ミケさんに報告して、
全機、頂いちゃえば、幻のシャケ弁が、オイラの腹にッ!
『マスター。
Gは発見できたのですから、
直ぐにミケさんに報告をして下さい。』
「何言ってるの、38!
せっかく見つけたんだから、
ガスさんの言っていた通り、
何か1機、ミケさんに内緒で、
お土産で、持ってっちゃうんだよ!
よし、あのガトナスにしよう!」
オイラの操縦で、
ゲズC²が、
手近なガトナスに触れると……、
ビー。ビー。ビー。
アラート音が鳴り出したッ⁉
「何⁉ 何なの⁉
このヤバ気なアラート音はッ⁉」
オイラが戦々恐々としていると、
『マスター、
Gデッキ下方から、
多数の熱源反応接近。』
Gデッキの周辺のところどころの地面が開き、
多数のGにしては骨ばった機体たちが現れるッ⁉
「うぇッ⁉ 何なのッ⁉」
『この基地跡のGを守る、
スプリガンだと思われます。』
スプリガンッ⁉
父さんから聞いた事がある。
基地跡のGデッキなどは、
稀に、スプリガンという、
G強奪者を排除する事を目的とした、
警備ロボが守護している事があると。
過去の時代には、
今の時代以上にGの強奪者である
TSが横行していたとかで、
スプリガンは、その頃に建てられたG基地などに、
常設で、配備されている事が多いんだそうだ。
で、スプリガンには、
色々なバリエーションがあるみたいだけど、
共通している事は、
無人のAI稼動であり、
防御行動や回避行動を取るという考えを排除し、
各々のスプリガンの得意距離での攻撃に特化させ、
他を排除して徹底的にローコストで作られており、
捨て駒として人海戦術で運用する事を前提として作られ使われている、
という事。
だから、トレジャーとしての価値が低いし、
人間が運用するのにも向かないから、
THたちからすれば、
邪魔者以外の何者でもないんだって……。
って事は…つまり……、
『マスター! スプリガンが、特攻して来ます!』
もちろん、こうなるよねッ⁉
「マヂでッ⁉」
ちょっ、マジ勘弁なんだけどッ⁉
スプリガンの格闘戦部隊がレーザーブレードを振り回して突撃してくる⁉
「ちょッ⁉ まッ⁉」
何とか盾でいなしつつ、
脚部のホバーを切り、
G基地が舗装されている為、
より有用だと思われるライドブレードを、
代わりに展開し、
ダッシュで後方に逃げる!
でも、射撃戦部隊が、
水平ミサイルを放って来るッ⁉
「いやじゃぁぁぁーッ‼」
苦し紛れに、頭部バルカンで何とか撃ち落そうとしてみるが、
何発かは落としたけど、やっぱり、オイラの腕じゃ、全部はムリだッ⁉
「死ねるかぁぁぁぁーーッ‼」
レーザーソードで切り払うなんてオイラじゃムリだ!
なら、これで!
「ウキー! できるだけ撃ち落す!」
両外腕部のレーザーガトリングで、
水平ミサイルを、無理やり撃ち落す!
「基地跡の中は、舗装されているし、
狭いんだからッ‼」
更に、ライドブレード、最大加速!
壁に乗り上げ、天井にまで達しながら、
立体的な軌道でミサイルを回避!
しかし、それでも、数発、胴体部に受けてしまう!
「あぅッ⁉ コックピットが揺れるッ⁉」
衝撃を受けつつも、何とか、
狭く舗装された、
基地跡の地の利を生かし、
ライドブレードとブースターを最大限に使った立体的な回避機動で、
基地跡の入り口の方向に逃げるが……。
『マスター、入り口付近に機体反応多数。
スプリガン部隊の増援部隊の模様です。』
目視では通路の壁に阻まれて見えないけど、
入り口付近にも、スプリガンが現れたのッ⁉
「マジでッ⁉」
その増援のスプリガンが、通路の先からワラワラと現れ、
先発の格闘部隊がレーザーブレードを構える⁉
更に、オイラが通ってきた後ろのスプリガンも、
水平ミサイルを発射体制だぞッ⁉
「流石に、物量が違いすぎる⁉
オイラ一人じゃ、もうムリだーッ⁉」
その最悪の場面で、
「ロクスリーさんッ‼」
通信の声と共に、
角の先で見えない入口方面から爆音がしたかと思うと、
アウスブレンデンが、突撃して来て、
オイラに迫っていたスプリガンの格闘部隊を、
グレネードランチャーで撃墜!
そのまま、オイラの居る基地跡の中程まで、
アウスブレンデンが飛来する!
更に、
90mmパラベラム機銃で、
後方のスプリガンの水平ミサイルを撃ち落す!
「と…トニーさはぁぁぁぁ~~んッ‼」
涙目で、、
縋り付かんばかりに、
トニーさんを呼ぶオイラ。
トニーさん、マジ、エンジェル!
「やはり、情報屋に、
一杯食わされた様ですね。」
冷静に分析するトニーさん。
「食わされるのは、幻のシャケ弁が良いのに‼
幻のシャケ弁を胃に収めて!
オイラは、
イブたん(しつこく言うが、オイラの脳内彼女。
更にしつこく言うけど、外見年齢8しゃい。)
と、あはんな世界に到達するんスッ‼」
「誰ですか…イブたんって……ッ⁉」
トニーさんが、オイラの気合の言葉を聞き、
引き気味に呟く。
その時……。
『マスター。
下方より、更に熱源反応。
スプリガンの増援、更に来ます!』
「マジでッ⁉ どんだけ居るのッ⁉」
更なるスプリガンの増援が、
オイラたちを囲むッ⁉
「スプリガンは、徹底的にローコスト化が図られ、
使い捨てとして作られています!
という事は、防御力はFGなどに比べて、
非常に脆いという事です!
ミケさんたちには、もう、救難信号を送っています!
ミケさんたちが来るまで、何とかボクたちで凌ぎましょう!」
トニーさんが、冷静に状況を分析し、
凛とした目で、オイラに指示を出す。
「使い捨てで脆いって言っても、この数っスよ⁉
トニーさん、ミケさんが来るまで、何とかして下さい!
オイラじゃムリっス‼」
涙をチョチョ切らせながら懇願するオイラ。
「分りました。何とかします!
ロクスリーさんは、当たらなくて良いので、
ガトリングで牽制して下さい!」
そう言いつつ、アウスブレンデンが、
キャノン砲を増援のスプリガンに放つ!
「け…牽制射撃…できるのか、オイラ⁉」
何とか、迫って来るスプリガンの群れに、
レーザーガトリングガンを放つオイラ。
そのオイラたちの攻撃に、
スプリガンたちが、次々に撃墜されて行く!
コイツら、本当に、
防御は紙クズみたいに脆いぞッ⁉
行ける! オイラでも行けるぞ!
そう思った矢先に……。
『マスター、上方より、新たな熱源反応。
更にスプリガンの増援の模様。』
「ちょッ⁉ どんだけ居るのッ⁉」
天井に穴が開き、
そこから、スプリガンが降って来るッ⁉
天井から降ってきた格闘戦用のスプリガンが、
オイラのゲズC²目掛けて、
レーザーブレードをぶん回して、迫って来るッ⁉
「ロクスリーさんッ‼」
オイラに迫ったスプリガンを、
アウスブレンデンのグレネードランチャーが何とか撃墜!
でも、彼我の数が明らかにヤバいッ⁉
だって、さっき上から降ってきたの合わせて、
ざっと見て、50機ほど居るのよッ⁉
「ちょッ⁉ 何なの、この数ッ⁉ マジ勘弁ッ⁉」
「この数を、捌くのは、
アウスブレンデンとゲズC²だけでは……。」
トニーさんが、苦しそうに呟く。
そうこうしていると、増援のスプリガン部隊が、
ミサイルを一斉に構えたッ⁉
『スプリガンのミサイル。
こちらをターゲッティング。来ます!』
「ちょッ⁉」
一気にミサイルが迫るッ⁉
「ロクスリーさん!」
トニーさんのアウスブレンデンが、
90mmパラベラム機銃を、
放って撃ち落とすが、数が多すぎるッ⁉
「死ねるかッ!」
オイラに迫って来るミサイルを、
出来得る限り、
ガトリングガンと頭部バルカンを総動員で撃ち落とす!
でもダメだッ⁉ 数が多すぎるッ⁉
撃ち落とせなかったミサイルを、
盾で防ぐが、
数がダンチだッ⁉
盾が吹き飛ばされ、
盾を構えていた左手が吹き飛ぶッ⁉
更に続くミサイルを、
ライドブレードの立体軌道で回避しようとするが、
腹部を掠め、腹部の装甲が抉られるッ⁉
「ロクスリーさんッ⁉」
トニーさんのアウスブレンデンは、
何とか被弾を抑えた様で、
トニーさんが、気遣わしげに、オイラを呼ぶ。
そこで、入口付近から来たスプリガンのミサイル部隊が次弾を構えるッ⁉
「も…もうダメだぁぁぁッ⁉ これは死ぬぅッ!
ああぁぁぁぁッ⁉
し…死ぬ前に、ミケさんの魅惑の無い胸バディーに、
身を埋めたかったぁぁぁ‼」
その、いまわの際のオイラの叫びに、
「誰が無い胸やねんッ⁉」
角の先の入口付近から、またも爆音が轟き、
純白のシルエットと、青いシルエットが、
こちらに向かいつつ、
前方で構えていたミサイルを装填したスプリガン部隊を、
銃剣状のレーザーソードで切り払い殲滅!
そのままの勢いで、
オイラたちの居る基地跡の、
通路中央付近に到着‼
「じゃーん! 騎兵隊、ただいま参上!」
ケビンさんが、得意げに、そう告げる!
「ミケさはぁぁぁーん! ケビンさはぁぁぁーん!」
お二人に縋り付くオイラ。
このタイミングでの到着、マジ、ゴッド! ハラショー!
「全く…。
救難信号を受けて来てみたら…。
しゃあない子やなぁ君は…。
大方どっかの裏の筋の奴に、
美味い話をされて来たんやろうけど、
見ての通り、ここは無人とはいえ大量のスプリガンで、万全の警備や。
つまり君は、警備のスプリガンを作動させて、
君に一機でもスプリガンを破壊させて数減らさせてから、
後で美味いとこもって行こうとしている奴に、
騙された訳や。
せっかく、うちらが合流したとこやけど、
ゲズC²は、
だいぶやられたみたいで危なそうやし、
足の問題で、修理装置のあるエンジェルシードや、
フェストゥングは置いてきたから、
これも、ロクスリー君を騙した奴の筋書き通りやろうけど、
うちらが、道を開くから、ここは引くで!
痛い目を見たんは授業料やと思い!」
ミケさんが、そう諭してくるけど、
「なに言っているんスか⁉
ミケさんたちが来てくれたんスから、
こんな無人機のスプリガンたちなんて楽勝っスよ!
ここまで来たんスから、あと一歩っスよ!
スプリガンを蹴散らして、
FGを、ごっそり頂いちゃうんスよ!
そしてオイラは幻のシャケ弁をゲットするんスよ!」
意気込むオイラ!
こんな目の前にニンジンがぶら下がっているのに、
撤退なんて嫌だ!
ここまで来たら、オイラは、絶対に、
FGを大量発掘して、
幻のシャケ弁を手に入れるんだ!
そんなオイラに、
「君こそ、そんなボロボロでなに言うてんねん!
ここは撤退が定石や!」
ミケさんがトライバレルのレーザーで、
スプリガンを蹴散らしつつ怒鳴りつけて来る。
「こ…こんな奴ら…人が乗ってないんだッ‼
こんな奴ら! オイラでもッ‼」
スプリガンたちに、レーザーガトリングを掃射しつつ、
背部の垂直ミサイルを展開!
更に、大型バズーカもぶち込む!
オイラの攻撃で、どんどん破壊されていくスプリガンたち!
「ほら! こんな奴ら! オイラでも! だからオイラは!」
だけど、そこで、
『マスター、上方より、熱源接近!』
「えッ⁉」
オイラが、
目の前のスプリガンたちの殲滅に夢中になっていたところに、
天井から、レーザーライフルを構えたスプリガンがぶら下がって、
攻撃で手が塞がっている、
オイラのゲズC²の胸部コックピットを狙って、
レーザーを放ったッ⁉
「ロクスリーッ⁉」
「ロクスリーさんッ⁉」
ケビンさんとトニーさんの叫び声の中、
突然の急所への攻撃に、キュッと瞼を閉じるオイラッ‼
でも、あれ?
予想していた、いつもの死ぬほど痛い感触が無い。
オイラが恐る恐る、瞼を開けると、
ゲズC²の前に、
タイニーダンサーが覆いかぶさる様に立っているッ⁉
その腹部が、抉れている⁉
オイラを…オイラを庇って被弾したのかッ⁉
「み…ミケさんッ⁉」
「雑念で無謀な戦闘しとったら…足元すくわれる…。
それは…あかんやろ…ッ⁉」
ミケさんが、苦しげな顔で、通信をして来るッ⁉
「ミケさん! ミケさんッ‼ だ、大丈夫っスかッ⁉」
叫ぶ、オイラに、
「機体は…。
ちょっとヤバイけど…。
うちの方は…ただの軽い…脳震盪や…。
ちょっと休めば…大丈…夫……。」
大丈夫と言うミケさんの言葉に反して、
ミケさんは、とても大丈夫そうには見えない弱々しい声を出すッ⁉
「姐さんッ⁉」
ケビンさんが、ミケさんを見てから、
「てめぇ! ロクスリー!
ぼさっとしてねぇで、姐さん連れて早く脱出しろッ‼」
苛立ち紛れに、オイラに指示を出す!
「は…ハイっス!」
ゲズC²の、
無事な右手でタイニーダンサーを肩に担ぎ、
ブースターを全開にし、
展開したライドブレードを補助動力にし、
出来得る限りの力で、
出口に向かって突っ走るッ!
その、
タイニーダンサーを担いだ、
オイラのゲズC²に、
『マスター。スプリガンのミサイル、
こちらをターゲッティング。来ます!』
スプリガンのミサイルが迫るッ⁉
「やらせるかよッ‼」
そのミサイルの一斉掃射を、
ラーゼンレーヴェのAトライバレルのレーザーソードが、
凄まじい勢いで切り払って行く!
「牽制射撃をします!
ロクスリーさんは、ミケさんを連れて、全力で逃げて下さい!」
トニーさんがグレネードランチャーを、
出口付近のスプリガンに掃射する!
その攻撃に、スプリガンたちが怯んでいる隙に、
ライドブレードに火花を散らさせる勢いで、
通路の角を曲がり、一気に出口に駆け抜けるオイラ!
そこに、スプリガンの格闘部隊が、最
後の抵抗とばかりに、一気に、こちらに突撃して来るが、
「やらせねぇって言っているんだ! アリーエルスラスターッ‼」
アリーエルスラスターを発動したラーゼンレーヴェが、超加速で爆ぜる!
一気にオイラを後にし、
突撃してくるスプリガンを、
Aトライバレルのレーザーソードで、
バッサバッサと斬り払って撃墜して行く!
「出口を抜けたッ‼」
基地跡の出口を抜ける!
その上で、
舗装された道が無くなった為、
ライドブレードを収納し、脚部のホバーを展開、
アウスブレンデンと、ラーゼンレーヴェが、
追って、基地跡を脱出した!
そして……。
何とか、ソルファージュのGデッキに、
腹部を被弾したタイニーダンサーを伴って、
オイラは帰還した……。
そのタイニーダンサーの損傷を見て、
「り…リーダーッ⁉」
「み…ミケさんッ⁉ だ…大丈夫なのですかッ⁉」
ソルファージュ内で待機していたらしい、
ユリンさんとマカロニさんが、
驚愕の声を上げる。
「姐さんッ⁉ 大丈夫ですかッ⁉」
ケビンさんが、気遣わしげに聞く。
「ミケさん! 直ぐに医務室に行きましょう!
一人で降りられないなら、
オイラが負ぶってセリアさんに見せます!」
オイラがミケさんに、そう声を掛けると、
「うぅ…まだ眩暈…するけど…大丈夫や…。
心配せんでも…一人で降りれる…。」
弱々しい声音で、そう告げて来た。
全然、大丈夫じゃないじゃないかッ⁉
「み…ミケさん‼ ミケさんッ‼
申し訳…ないっス…。
オイラ……オイラ…ッ‼」
余りの申し訳なさに、
思わず、言葉が詰まるオイラ…。
「気に…せんで…ええ…。」
ミケさんが、声も絶え絶えに、
でも、オイラを気遣って、
声を掛けてくれる。
でも、その姿は、余りにも痛々しい。
それから、直ぐに、医務室に向かい、
セリアさんに、ミケさんを見て貰い…。
「リーダーの言う様に、脳震盪ですね…。
外傷はありません。
ただ、リーダーが言う程、軽くはなく、
今日1日は、この医務室で安静にしてもらいます。」
セリアさんが、そう診断した…。
「てめぇ、ロクスリー! ふざけんなよッ!
危機探知能力とかが、
あるんじゃなかったのかよ⁉
旨い話に釣られて、
ひょこひょこ出て行きやがって!
姐さんを、こんな目に合わせやがって!
何が危機探知能力だッ!
オレは、ぜってぇ許さねぇからなッ!」
ケビンさんが、激情のまま、怒鳴りつけて来る。
何も言い返せない…。
オイラは…。本当に、今回ばかりは、
丸で言い訳ができない…。
「ケビン…。
ロクスリー君を…それ以上…責めたら…アカン…。
失敗は…誰にでも…あるんや…。」
ケビンさんの激情の言葉を聞き、こんな苦しそうな状況なのに、
なおもオイラを気遣って、
ケビンさんを諭すミケさん。
「姐さんは甘すぎなんですよ!
クッ…もう、こんな奴の顔も見たくねぇ!
オレは部屋に戻る!
二度とオレにツラ見せんなよ、ロクスリー!」
そう吐き捨てる様に言って、
ケビンさんは居住ブロックに移動した。
「ケビンさん……。」
痛ましいまでの激情のケビンさんを、
オイラは、ただ見送る事しか出来なかった…。
「ケビンの気持ち…分かるな…。」
ユリンさんが、
そう言って、オイラを睨み付ける。
「今回の行動は確かに軽率でしたからね。
トニー君の判断がなければ大変な事になっていたでしょうね。
正直ボクも、ロクスリー君には失望しましたよ…。」
マカロニさんも、
口調こそ冷静だけど、
オイラを嫌悪の籠った目で見つめて来る。
「ユリン…。マカロニ…。
ロクスリー君を…責めたら…アカン…。
失敗は…誰にでもあるんや…。」
ミケさんが、息も絶え絶えながらも、
オイラを気遣って、言を紡ぐ。
「リーダー…。」
「ミケさん…。」
その痛ましい姿に、ユリンさんも、
マカロニさんも、庇ってもらったオイラも、言葉を失う。
その沈黙を破る様に、
「マカロニさん。
タイニーダンサーとゲズC²の損傷は酷いですし、
修理しないとダメですよね?」
トニーさんが、マカロニさんに、問う。
「ええ、2機とも、かなり酷い損傷ですから、
急ピッチで修復しないとダメですね。
それがどうしたんです?」
眼鏡を中指でクイッと上げながら、
マカロニさんがトニーさんに、そう聞き返すと、
「そこで、提案なのですが、
この機に、タイニーダンサーと、
ゲズC²を含めた、
皆さんのG全機を、
ボクが修理と整備と補給をしようかと思うんですけど、
どうでしょうか?」
と、トニーさんが、提案して来た。
「トニーさんが、
G全機を修理と整備と補給…ですか?」
「ロクスリーさんの今回の凶行を止められなかったのには、
ボクにも責任がありますし、
正直マカロニさんは、最近、働き詰めでしたから、大変だったでしょうし、
マカロニさんに、たまには息抜きをして貰おうかと思いまして。」
出過ぎたマネで恐縮です、と言わんばかりの、
少し縮こまった感じで、トニーさんが、マカロニさんに問う。
「非常に嬉しい提案ですが、良いのですか?
ボクたちのGは、かなりクセが強いですよ?」
マカロニさんが、逆に、そう問うが、
「良いんじゃないの?
トニー君の整備と補給の腕は、
前に見せてもらった通り、良い腕前なんだし、
マカロニも、たまには休まなくちゃ。」
と、ユリンさんが、トニーさんに賛同の意見を述べる。
「トニー君は、良い子やね…。
マカロニ、ご厚意に甘え…。」
ちょっと前よりは、少しは、息が整ってきた感じの声で、
ミケさんがトニーさんを称え、マカロニさんを諭す。
「分かりました。
タイニーダンサーと、ゲズC²の修理だけは、
流石に丸投げすると作業が難航しそうなので、
ボクがやりますが、整備と補給の作業は、
ご厚意に甘えて、
トニーさんに、全部、お願いします。」
「了解です。
少しでも、マカロニさんが楽を出来る様に、
頑張ります!」
トニーさんの、その意気込みに、
「トニー君は、本当に良い子だよね。
物欲で迂闊な事する誰かさんと違って…。」
と、ユリンさんが、オイラを睨みながら言ってくる。
そのユリンさんの無理からぬ言動に、胸が締め付けられる感じがして、
「あの…。
ゲズC²の整備と補給だけは……、
せめて……せめてオイラがやります…。」
と、提案するに至った。
このオイラの提案を聞いて、
「まあ、そのくらいは当然よね。
今回の失敗の度合いからしたら。」
「下手に弄って、
Gを壊さないで下さいね。」
ユリンさんとマカロニさんが、
刺々《とげとげ》しい言葉を紡ぎ出してくる。
その目は、オイラを、
到底容認できない、
と、言わんばかりに細められている。
「ユリン! マカロニ!」
ミケさんが、お二人を、たしなめると、
「さて、ユリンちゃんも、部屋に行こうかな。」
「ボクは、
タイニーダンサーと、
ゲズC²の修理を終わらせて、
その後は、トニーさんに甘えてゆっくりさせてもらいますかね。」
と、ユリンさんは、居住ブロックに帰り、
マカロニさんは、Gデッキに向かった。
「ロクスリー君…。
あんまし気にしたらあかんで…。
失敗は誰にでもある…。
次に同じ事をせぇへんかったら良いんや…。
うちは全然気にしてへんし…。
皆は、うちのことを心配してくれる余りに…、
ちょっと勢いが付きすぎているだけやねん…。
しばらくしたら…、
また楽しい仲間に元通りや…。
そやから…な…。」
ミケさんの、その気遣いの言葉に、
胸が締め付けられる。
「…はい……。」
ただ、そう答える事しか…今のオイラには…できなかった…。
天国の父さん、母さん。
オイラは……オイラは…ッ‼