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カエルとウシ

作者: 零位雫記


ある大きな池にヒキガエルの親子が住んでいました。

父ガエルは子供たちにいつもこう言っていました。


「よいか、ワシはこの池の王だ。なぜならこの池にはワシより大きい生き物なんていないからだ」


子供たちは父ガエルのその言葉を毎日ウンウンと頷き聞いていました。

そんなある日、父ガエルと母ガエルが用事で出かけたとき、両親がいないことをいいことに一匹の子ガエルが池の外へと跳ねながら出ていきました。

池の外はその子ガエルにとっては未知の領域だったのでいつかは様子をみてみたいと思い実行したのでした。

子ガエルは初めての世界を目の当たりにして興奮して跳ねにはねました。

そしていつの間にか湿地帯を抜け野原までやってきました。

その野原で子ガエルは気配を感じ振り返ると、すぐそばに白黒の班目模様の大きな何かが野原に生える草をまさぐっていました。

子ガエルは知るよしもありませんでしたが、その大きな生き物はウシでした。


「うわー! これはなんて大きな生物なんだ! この大きさ、父上の数倍、いや数十倍、いやいや数百倍はあるぞ!」


ウシは子ガエルに気が付き、草を食べるのを止め、前足後足を連動させ体を子ガエルの方に近づけ始めました。


「うひょー! これはやばい。大きな足で踏みつけられたらぼくなんてひとたまりもないぞ!」


子ガエルは慌ててその場を離れるべく振り返り、元来た道なき道を無我夢中に飛び跳ねました。

飛び跳ねとびはねしていると運よく自分の住む大きな池に戻ることができました。

子ガエルが池に戻った時、父親と母親が外出先から丁度帰ってきたところで、子ガエルは両親にさっき見た大型生物のことを興奮しながら説明しました。

父親は子ガエルの言うことを聞くと、


「大きな生き物はこれぐらいの大きさか?」


とお腹を膨らませました。


「いいえ、もっと大きかったです」


「これぐらいか?」


父親はもっと腹を膨らませます。


「いいえ、もっともっと大きかったです」


「で、ではこれぐらいか?」


父親は腹をさらに膨らませます。


「いえいえもっとです」


王はさらにもっと腹を膨らませます。


「いいえ、もっと――」


と子ガエルが言ったときでした。


腹を膨らませた父親の体がフワフワと宙に浮かび始めました。


「おおお」


父親は焦る声を出し、宙で両手足をばたつかせます。

空にドンドン上がっていく父親をみて焦った子ガエルは、咄嗟に父親の足に飛びつきました。

でもしかし父親の体はさらに浮かび、彼の足にしがみついた子ガエル共々さらに浮いていき風に流され空を漂い始めました。


「父上! 父上!」


子ガエルは父親の足にしがみついたまま叫びます。


「そのままワシの足つかんだまま頑張れ! 決して離すでないぞ!」


父親は子ガエルを叱咤します。

子ガエルは顔に風を受けながら懸命に父親の足にしがみついています。

そうするといつの間にか父親と子ガエルは野原の上空にやってきました。

子ガエルは膨らんだ父親の腹を見上げながら足にしがみついていましたが、不意に下をみました。その視線の先にはさっきいた野原がありました。

野原には白黒の生き物が数頭点在しています。


「あっ、父上、あれですあれがさっきみた大型生物です!」


「なに、あれか? あの白黒のヤツがおまえが言っていた大型生物か?」


「そうです、あいつです」


「しかしあの白黒、だいぶ小さいぞ。おまえからみてどうだ?」


「本当だ。さっきみたときと違ってあいつかなり小さい」


「だろ? さっきおまえがみた生物は、おまえの目の錯覚でそう見えたに違いない。ハッハッハァー!」


父親は大笑いしました。子ガエルもそうだったのかと大笑いしました。

彼らはその後、かなりの距離空を漂っていました。

しかしやがて父親の腹は急速に縮んできて、高度は段々とさがり、ついに彼らは大地に降り立ちました。

降り立った場所は、ゾウの群れの中でした。




おしまい。


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