残念エルフ
兎も角、現状はおおよそ把握できた。
A国の実験で次元の膜に穴が開き銀河系規模で異世界が出現したと言う事だ。異世界が現れた場所と現状のままの場所があるがそれは空間の揺らぎに起因すると考えられる。今の所これ以上の変化は無い様に思えるが大きな周期で変化が起こるとも考えられ予断は許されないだろう。
「なんじゃ?うんうん唸って、便秘か?」
「別にトイレに行きたいわけでは……確か俺は熱病に倒れていたんだよな?」
「うむ!三日間高熱でうなされておったのをこのわしが看病したのじゃ!感謝してよいぞ。」
ルシェンは大きな胸を揺しながらふんぞり返っている。右手の手のひらを俺の方に向けている所を見ると感謝=チョコレートが欲しいと言う事だろう。
物欲的なエルフの姿にため息をつきながらチョコレートを一枚、ルシェンの手に載せてみる。
「ウキャー!うんまいのぉ!うんまいのぉ!ほっぺが落ちそうじゃ。」
チョコレートを貪るその姿は残念エルフにしか見えない。ひょっとしたらエルフの姿をしているだけで他は人間と同じか?俺のエルフに対するイメージが崩れてゆく。
「む?なんじゃ、残念そうな顔をして。貰ったチョコレートは返せんぞ。」
「いや、チョコレートは家に帰ってまた作ればいいからそれは問題ない。それより……。」
「なに!このチョコレートとやらはお主が作ったのか!!」
ルシェンはチョコレートを握りながらキラキラした目でこちらを見ている。何か余計な事を言ったようだ。このままだと話がそれすぎて聞きたいことが聞けない。
それにこの残念エルフはチョコレート一枚でホイホイついて行きそうだ。知らない人について行ってはいけませんと習わなかったのだろうか?
「そ・れ・よ・り・もだ。」
「むう、今後のチョコレート入手は重要課題なのじゃが……。」
「で、だ。俺は三日間寝ていたんだよな。」
「そうじゃ。三日間ワシが看病しておったのじゃ。」
「……トイレはどうなっている……」
「?その寝床でいたら排泄物はおろか体の老廃物も吸収してくれるぞ?病人に使われる一般的な魔道具じゃぞ?」
俺はそっと布団(のようなもの?)をめくってみる。
何の跡も無い。
服をめくってシャツやパンツを確認。
何もない……というより洗い立ての様に綺麗だ。
何と言うファンタジー、何と言う魔道具。このベットさえあればトイレも風呂もいらない。寝心地は最高、夢の寝具が今ここに!ひょっとしたら全裸でも良いかもしれない。
「まぁ、その魔道具は死んだら死体もすぐに吸収するから、助からなくても安心じゃ。」
おい。
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俺は病人用と言われている魔道具であるベットから降り、背嚢を手に取る。
「おぬしこれからどうするつもりじゃ?」
「一先ず家に戻って周辺を探索してみようと思う。」
すぐ近場である公民館でさえこんなに変わってしまったのだ。他の所、特に職場はどうなっているのか想像もつかない。
「なら、ワシも用意するか……。」
「用意?」
「うむ!良くなったとはいえワシが見ていた患者じゃ。いつ何時病気が再発するとかもしれぬ。ここは面倒を見ていたワシがついて行くのが筋と言う物じゃろう。」
じーっ
「決してチョコレートにつられたわけじゃないぞ。ま、まぁくれるなら貰う事も吝かではないが……。」
やはりこの残念エルフはチョコレート一枚で知らない人について行きそうだ。