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魔法の世界が現れる

「なんじゃこりゃ?」


 朝起きて寝室の窓を開けると目の前に森林の緑が飛び込んできた。

 俺の家は二階建ての一戸建てで庭は結構広い。同じ様な周りの家が森林に飲まれていたのだ。しかし、不思議な事に俺の家の周囲だけが元のままの状態である。

 この森林はどのくらいの大きさなのだろうか?


 気になって二階のベランダから辺りを見回す。


「……」


 人はあまりの出来事に遭遇すると無口になるらしい。今の俺がそんな状態だ。


 俺が二階から眺めた視線の先には天にも届くかのような大木が存在した。大木の枝はこの辺り一帯に広がっている様で太陽が見えないほどなのだ。大木自体が微かに光っている為薄暗くない。大木が生えているのは方向からすると公民館がある公園の付近の様だ。


「取り敢えずあの木の付近まで行ってみるか。」


 そちらへ行く道は草木が生い茂っており半袖では危険だろう。俺は登山で使う服装に着替えた。

 ロングのTシャツにロングのパンツ、足には登山靴、携帯食料ビスケットやチョコレートが入った背嚢バックパックと水筒を手に大木を目指す。

 目的地まで十分と掛からない距離のはずだが、少し遠くなっている気がする。


 生い茂る木々をかき分け記憶の上では道だった所を進む。他の場所に比べて進みやすい所を考えると、今進んでいる場所も道なのだろう。


「ふぅ、やっと到着だよ」


 家から十分のはずが木々の生い茂る道に替わっていた事を考えても時間が掛かりすぎている。やはり距離が遠くなっている様だ。


「しかし、こうして見るとでっかい木だなァ。」


 家から見た時よりも間近で見るとさらに大きく感じる。公民館のあった公園が丸ごとはいる様な大きさだ。

 判り易く言うと野球場ぐらいの大きさのある大木、いや大樹がそこにあった。


「家の近所に何でこんな物があるんだ?公民館は何処へ行った?」


 俺が大樹の周りをウロウロしていると不意に黒い影が足元に飛び込んできた。


トスッ!


 見ると足先数センチに位置に矢が突き刺さっていた。


「止まれ!人間!ここに何の様だ!」


 見上げると10mほど上にある大樹の枝から耳の長い金髪の男が弓を構えているのが見える。



 どう見ても、エルフ(トールキン版)である。何時から日本はファンタジー世界になったのだろうか?

 俺がエルフを見て首をかしげていると、当のエルフの男から恫喝を続けた。


「すぐに立ち去れ!出なければ次は当てる!」


ムッ


 これが高慢ちきと言われるエルフか。腹が立つ言い方しかできないのか?

 知性は高いけど賢くない典型的な例のように思える。なまじ自分達は他よりも賢いと思い込んでいる人なら遣り様はあるか……。

 それにエルフの男の言葉から人間と言う種族が別に存在することも判った。


「この状況が判らないとはエルフと言うのは思ったよりも愚かな種族なんだな。」


 俺はそう言い放つとわざとらしくため息をついた。


「何だと!50年ほどしか生きることのできない人間が何を言うか!」


 人間の寿命が50年?ここは中世並の医療技術しかないのか?俺がまだ立ち去らないのを見るとエルフの男は更に恫喝を続けた。


「精霊が集う大樹に人間ごときが触れる事があってはならないのだ!触れればお前を魔法で凍結させるしかない!」


 ふむふむ。

 精霊に魔法か有意義な情報だ。ますますファンタジー世界に迷い込んだみたいだ。

 だが待てよ?魔法があると言う事は物理法則はどうなっているのだろうか?これは研究所で検証する必要がある。

 普段使っている力と別の力があると言う事は何かしら影響をもたらしているはずだ。


「ぐっ!これほど言っても判らんのか!どうやら愚かな人間らしく痛い目に会わないと判らないみたいだなっ!」


 俺がいろいろ思案しているとエルフの男はしびれを切らした様だ。

 ファンタジー物ではエルフは思慮深いと言われているがどうやらその様な事はない様だ。人とあまり変わらない。


「私が氷魔法しか使えないと思っている様だな?だが私はこの様に火炎魔法も自在に操ることが出来るのだ!」


 エルフの男は左手に氷の塊、右手に炎の塊を出現させた。あれが魔法か、実に興味深い。

 しかし、大事な木の近くで火なんて使っていいのだろうか?


「自らの愚かさを後悔するがよい!くらえ!」


ボシューツ!


 今にも投げつけられそうだった氷の塊と炎の塊が一瞬でかき消え別の声が響いた。


「愚か者!この場所をなんと心得るか!」


 お?もっと偉いエルフが登場か?

 俺が声のする方を見るとエルフの男が立つ枝より少し高い位置に杖を持ったエルフの女?が立っていた。


「しかし、こいつは人間です。精霊が集う大樹に何の害をもたらすかわかりません!排除すべきです!」


「相手が人間だからと言って火を大樹の傍で使うのはもっての外である!」


「あっ!」


 エルフの男はエルフの女に指摘され真っ青になっている。指摘されるまで気が付かないのはどうかと思うが、おとなしくなったのは良い事だ。


「それに昨晩の異変をお主も知っているだろう。」


 昨晩の異変?俺が寝ているときに起こったと言う事だろうか?エルフの女の言葉を聞いて何か引っかかるものがある。

 俺が寝ている間に何かが予定されていたような気がする。


「確かA国での新エネルギー実験、次元の壁に穴をあける実験だったか……。」


 俺の独り言が聞こえたのかエルフの女がエルフの男を引きるれてゆっくりと俺の隣に降りてきた。


「ふむふむ、お主はエランドより思慮深そうだな。」


「ぐっ」


 エルフの男はエランドと言う名前らしい。下である人間の俺が自分より思慮深いと言われ下唇を噛んで臭しがっている様だ。


「私は千貫ちぬき 真彰まさあきと言います。自宅近くにこの様に立派な大樹が出現したので調べに来た次第です。」


「ほう、自宅近くに……左様か。おっと、私の名を名乗っていなかったな。これは失礼した。私の名前はケレブレス。この大樹に住まうエルフのリーダーをしている。」


 エルフの女はこの大樹に住むエルフ(住んでいるらしい……)のリーダーをしているらしい。所謂、エルフの女王と言うところか。

 しかし、女王が先頭に出ていいのだろうか?


「エルフの社会では上に立つ者は率先して物事にあたる必要がある。マサアキ殿との交渉をするのも私の仕事になるのだよ。」


 俺が疑問に思っていたことを推測したのだろうか?だとすれば、ケレブレスは慧眼の持ち主の様だ。


「先ほどマサアキ殿が呟いていた実験について伺いたいのだが?よろしいか?」


「ええ、問題ないです。たしかA国、私に自宅がある日本国ではない国ですが、そこで行われた実験で、次元の壁に穴をあける事件だったと記憶しています。」


 ケレブレスは少し考えた後、確認の為だろうか俺に質問を返した。


「次元に穴とは世界をつなげる実験と言う事でしょうか?」


「ええ、その認識で間違いないと思います。ただその実験では影響は極めて小さなものだと聞いていましたが……。」


 何か俺の頭に引っかかる。極めて小さな影響……。



「そうか!確かに極めて小さな影響だ!だがそれは宇宙全体に比べてだ。ならば地球の大きさだとどのぐらいの影響になるのか……。」


 俺は簡単に暗算する。

 宇宙の大きさを観測可能な範囲とすれば半径450億光年、約426×10の21乗km、

 銀河系の大きさが半径52850光年、約5×10の17乗km。

 これはあくまでも半径だから、体積だとそれぞれを3乗する必要がある。

 宇宙の大きさ÷銀河系の大きさは8.5×10の15乗。


「……銀河系規模で異変が起きている?」


 俺がそう呟いたところで不意に頭がぼーっとしてきた。なんだか体も熱っぽい。


 そうしている内に俺は意識を手放した。

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