ああ、先入観
”ゴブリン”と聞いていい意味を連想する人は、この日本には少ないだろう。
かく言う俺もその一人だ。
「ルシェン!早く上がれ!ゴブリンだ!」
俺は慌てて早く温泉から上がるようにルシェンを促した。
「?ゴブリンじゃな。……マチャアキ、お主は何を慌てておるんじゃ?」
ルシェンは呆れた顔で俺を見ている。
「いやだって、ゴブリンだぞ、ゴブリン。ゴブリンと言えば人やエルフの女性をさらって巣穴に……。」
それを聞いたルシェンは大きくため息をついた。
「はぁー。お主は小説の”小鬼狩りさん”の影響を受けすぎじゃ。あれは小説の中の事、事実とは違うフィクションじゃ。」
「いや、でもゴブリンだよ?ゴブゴブ言ってるし……。」
「小説の中には銀行員になっているゴブリンもいるじゃろう。それを思い出すのじゃ。」
確かに世界的に有名な魔法使いの話ではゴブリンの銀行員が出てきた。
「それにおぬしらが数を減らした原因の一つも覚えているだろう。」
文明世界が崩壊した原因の一つに魔獣の被害がある。
しかし、それは魔獣が人間を襲った結果、被害が大きくなったわけではない。
魔法の世界が現れた事と魔獣が現れたことで一部の人間が”今日から俺は冒険者だ!”といって魔獣を狩ろうとして反撃を受けたのだ。
中には巣穴から魔獣の子供を攫っていったものもいたそうだ。その攫った者は親の魔獣によって周り共々手痛い反撃を受けた。それが超大型の魔獣だっただけだ。
我々は魔獣と言っているが、ルシェンに言わせると元々そこで住んできた動物に過ぎないのだそうだ。動物の子供を攫うのだから、反撃を受けるのは当然だとも言っていた。
そうやって魔獣から反撃を受け多くの建物が被害を受けた後、疫病が蔓延し文明は崩壊した。
「大体、お主。オルクス族の武、封、宇の三兄弟の件を忘れたわけではあるまいな?」
世界の変化は俺の周りでも例外ではなかった。町内の集会場は世界樹になりその周りがエルフの住む森林になってしまった。集会所の周辺にいた住人は皆エルフになった様だ。
近所にあったリサイクルショップの店員はオルクスと言う種族に替わった。
武、封、宇というのはそのリサイクルショップの店員の名前だ。
「いやでも、オークいやオルクスがエルフを襲っている様に見えたから……。」
ルシェンはずかずかと僕に近づくと俺の頭を指さした。
「お主の体の上についている物は飾りか?あの時お主が病で倒れなかったらどうなってたいか忘れたのか?」
あの時、リサイクルショップへ行くとオークじゃなかった、オルクス三人にエルフが今にも掴みかかるような形相で睨み合っていた。
その時のオルクスの三人が武、封、宇で、エルフがロリ巨乳のルシェンだった。
「……お主、今失礼な事を考えていなっかったか?」