新エネルギー実験
複合型大型衝突型加速器
A国の郊外に作られたそれは全周100kmと言う巨大なリングを三つ持つ巨大な構造物だ。
その加速器制御室にあるスクリーンの前で白衣を着た中年の男が熱弁をふるっていた。白衣の男の前にはメモと筆記用具を持つ、彼らは実験の説明を聞く記者団の様だ。
「いいかね。我々のいる世界はこの本の1ページのような物だ。そしてその隣にはページの内容が異なるように異なる世界が無数にある。この世界の隣には全く異なる法則で成り立つ世界、例えば魔法が使える世界が存在するのだよ。」
白衣の男はそう言うと分厚い本を開き、開いたページに水を垂らした。
「重力とはこの様に水の様に広がり近くのページにも影響を及ぼすものだ。」
垂らした水は開いたページに広がり、その下のページにも大きくシミを作ってゆく。
「この水の様に重力は別の世界に影響することが出来る。」
「では博士、今回の実験の目的は……」
「互いに廻りあう三つのマイクロ・カー・ブラックホールを使い時空に穴をあけるのだよ。その穴から次元の異なる、新たなエネルギーを取り出す実験だ。」
「時空に穴ですか?あけてエネルギーを取り出しても大丈夫なのですか?」
「問題はない。穴をあけるとしても、マイクロ・ブラックホールはホーキング輻射により僅かな時間で蒸発する。その時に観測される余剰エネルギーを調べることで新たなエネルギーが得られると考えている。言ってみれば薄い膜に穴をあけるだけで膜自体は割れることはない。影響があっても極めて小さなものだよ。」
だが博士と呼ばれた男は気づかない。世界を隔てる膜の向こう、その世界からエネルギーが流れ込むと言う事がどの様な事を意味するのかを。
そしてその影響の大きさを。