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短編

サンドウィッチの起源

作者: 赤井夏

 ときは中世、あるヴェネツィアの商人が異教の地で仕入れた商品を自国へ持ち帰ろうと、イフリキアの砂漠を背中に積荷を乗せたラクダとともに歩いていたところ、青い衣の盗賊に襲われた。

 商人は仕入れた商品や、旅費、ラクダなど財産のほとんどを奪われ、たった一人で砂漠のど真ん中に取り残された。

 盗賊どもはせめてもの情けとして、パンだけは奪わないでおいてやったが、その程度では灼熱と極寒が巡り廻る過酷な砂漠の環境に見合うはずもなく、わずか一日で食料は底を尽きようとしていた。

 そんな商人にさらなる危機が迫った。砂漠に棲む人喰い魔女に出くわしたのだ。

「わしの家に無断で入るなんてこの無礼者め。通行料としてお前の魂と肉体をいただくよ」

 魔女は耳まで裂けた口を開き、恐ろしい牙を剥きながら言った。

「ああそんなもったいない! こんな飢えた細い棒っきれのような私を食っても美味くはないでしょう。ここはどうか私にたくさんの食べ物を恵んでください。そのあと存分に太った私を食べればよろしいでしょう」

 商人は肝が飛び出そうなほど驚いたが、落ち着いた口調でこう言った。

「ふむ、確かにそうだな。いいだろう。私の帽子よ、たくさんの野菜に変われ」

 するとどうだろう。魔女のとんがり帽子はたちまちたくさんの水々しい野菜に変わったではないか。商人は手を叩いて喜んだ。

「すばらしい! しかし野菜だけじゃ太ることはできませんなぁ。もっとたくさん食べさせてください」

「そうかえ? ようし、では私の杖よ、たくさんの魚に変われ」

 するとたちまち魔女の杖は大小の塩漬けの魚に変わったではないか。商人は両手を上げて喜んだ。

「あざやか! しかしまだまだ。この程度じゃ太るに足りませんなぁ」

「ふむ、言われてみれば。ならば私よ、たくさんの肉に変われ」

 するとなんてことだろう。魔女自身はハムやらベーコンやら、たくさんの肉に変わったではないか。

 しめた! 商人は肉に飛びついた。そこで騙されたと分かった魔女はもとの姿に戻ろうとしたが、すかさず商人は肉をパンで挟んであっという間に平らげてしまい、やっとのことで魔女が変身を解いた頃にはもう顔の口から上しか残らなかったという。こうして商人を逃れ、無事に故郷へとたどり着いたというわけだ。

 商人はこのパンで肉や野菜などの具を挟むという食べ方が気に入り、ヴェネツィアに戻ってもそれを続けた。その食べ方は商人仲間の間でも好評で、旅先でも手軽に作れ食べられる軽食として大流行した。

 そして彼らは商人の珍事にちなんでそのパンをサンドウィッチ、すなわち砂の魔女と呼んだ。

 しかしサンドウィッチの「ウィッチ」の綴りが魔女“witch”のそれではなく“wich”である理由は、食べ物の名に「魔女」と付くのは不吉だとし、当時のローマ教皇が“t”を抜いた綴りにするよう勅令を出したことに由来する。

サンドウィッチ(普段はサンドイッチと発音しています)のウィッチが魔女のウィッチだったら面白いのになぁと思い思いついた話です。

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