翼
なぜだろう、こんな酷い光景を目の前にしてどうして自分は普通でいられるのだろう。もしかして、自分はおかしいのか?いや、そんなはずはない。これは、こいつらが受けるべき制裁を受けたのを見ただけなのだから、自分がおかしい訳では無い。
私は、人よりも臆病だった。自分から話しかけることはあまり好きではなかった。とはいえ、一人でいるのが好きだというわけでは無いので、話しかけられたら嬉しかった。世界は優しいものだと思っていた。
キャーッという悲鳴が商店街を歩いていると聞こえてきた。驚いて振り返るとナイフを持った男が叫んでいるのが少しだけ見えた。
「死ね、死ね。誰でもいいから殺してやる」
そんなことを言いながら男が来る。男はまるで周りが見えていないかのような雰囲気でナイフを振り回しながらゆっくり歩いている。たぶん、そこで逃げれば良かったのだろう。周りの人のように。私は逃げようとした、しかし逃げられなかった。腰が抜けたのだ。恐怖のあまり。
「いや、来ないで」
そう呟いた私をまるで獲物を見つけた獣のような鋭い眼差しを向け、男は突進してきた。私は逃げようと背中を向けた。
感じたことのない痛みと熱さが背中にはしる。男は何度も何度も私の背中を刺した。どうして、どうして私がこんな目に合わないと行けないの?そんなことばかり頭で考えていた。10回ぐらいだろうか、痛みがしなくなった。すると、私の体が勝手に動き男のナイフを奪い、首の動脈を断ち切った。そこからは覚えていない。ただ、まるで自分の中に新しい自分が生まれたような気がした。
目がさめると、私は自分の部屋にいた。なんだ、ただの夢か。そう思い、立ち上がった。そして、真紅に染まったベッドシーツと上着が目に入った。そして、黒いぬめりのあるものが頰に触れた。急いで私は部屋から出て、洗面器で自分を見た。そこには、物語に出てくる悪魔の羽と尾がある自分がいた。
「なに、これ」
そんな言葉が口から漏れた。怖くなって、自室に急いで戻った。そして、携帯で母さんに連絡した。
"私、人間じゃなくなった。羽と尾がついてる"
正直、こんなことが子のメールから届くと、頭がどうにかしたと親は思って仕方ないだろう。しかし、私はこんなことしかその時は混乱して打てなかった。
"こんな、ふざけたことを送りつけてくるためにあんたに携帯持たせてるわけじゃ無いのよ。仕事中なんだから、もう変なこと送ってくるんじゃ無いわよ"
なんで、なんで母さんは助けてくれないの。そんな風な絶望感が心を占める。でも、よく考えれば母さんが帰ってくるまで部屋でいればいいだけじゃ無いかと思い。震えながら、自室で布団を頭までかぶった。
「ただいま〜」
母さんの気の抜けるような声がした。私は急いで玄関に向かった。そして、、、
「ば、化け物」
視界が赤く染まった。しばらくして、意識が戻ると首のない、そして大量に血を吐き出す胴体が見えた。そして、自分の手が持つものを見ると見慣れた母の顔がそこにはあった。自分の口角が、上がっているのが頰に手を当てた瞬間分かった。心が魂がぐちゃぐちゃになるのを感じた。
昨日、商店街で刃物を持った男がいると通報を受け、警察が駆けつけると首のない男の死体が見つかりました。犯人はまだ、捕まっていないとのことです。また、500メートル先の住宅では、42歳の女性が同様の状態で死亡しているのが見つかり、、、
チヲアビルノハキモチガイイナァ
そんな慟哭が、夜の街に木霊する。