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5.試験に向けて

近衛騎士団の入団試験を快く思ってなかったと思われる父から突然の入団試験受験の指示で、エミグレアはより一層の修練を始めた。特に、あの泉で像を拾い上げてから身体能力や苦手だった魔力の使い方まで、それまでとは段違いの力を出せるようになっていた。


「よし、それでは、始めっ!」


領軍の隊長の掛け声とともに、10人が一斉にエミグレアにかかっていった。領軍の武器は実剣であった。エミグレアの技量では領軍との1対1ではもはや練習にすらなっていなかったのだ。なので訓練では複数人でかかるようになっていた。始めは2,3名だったがすぐに10名まで同時に切りかかるようになっていた。そして、入団試験に臨むのであれば、命を差し出すほどの覚悟が必要だとバローヌからの指示もあり、領軍はエミグレアに対して訓練用の木剣ではなく実剣を使うようになっていた。対するエミグレアは木剣のままである。


10人が同時にかかれるわけではない。軍としての訓練も兼ねているので、10人はエミグレアを囲み5人がに同時に切りかかり、最初の5人が攻撃をした直後に次の5人が切りかかるという波状攻撃を意図したものだった。エミグレアに劣るとはいえ領軍に抜擢されるほどの腕前である。素人目には剣が振り落とされたこともわからないほどの速度である。


前後左右から剣がエミグレアに降り注ぐ、通常であれば1つ2つの剣は防ぐことはできても、残りの刃が身に及ぶ。そして、次の5人が間髪入れずに切りかかれば絶命は必須のはずであった。だが、エミグレアは最初の剣を防ぎ、捌き、あろうことか5人全員へ打ち込みまで行った。次の5人であっても、態勢すら崩していないエミグレアにとっては変わらなかった。5人の波状攻撃をいともたやすく凌いだエミグレアは、10人が倒れ伏す真ん中でただ一人立っていた。


「う、うむ、凄まじいな。エミグレア様、お見事です」


対するエミグレアは頷くだけだった。


『人の動きが手に取るようにわかる。人だけじゃなく、剣の軌道やわずかなタイミングの差ですら容易にわかる』


エミグレアはいままで感じたことのない力を確かに感じ取っていた。


「隊長、今の攻撃ですが、5人のタイミングでずれがありました。そのずれに対応すれば、対応が個別でできますので同時攻撃の優位性が無くなると思うのですが」


それを聞いた倒れている兵士が目を見開いた。


「いや、確かに同時に・・・」


「いや、わずかですが剣先が届くのに個々でずれが出てましたよ。なので先に届くものから防いでいったので対応は1対1と変わりませんでした」


兵士も隊長も絶句していた。わずかに届く時間が違うとしてもそれが何になるというのか。時間にして1秒もない時間である。そんな時間で、5つの剣の速度を見極め、捌く順序を組み立て、捌く時間の合間を縫って剣戟を繰り出すなぞどうすればできるようになるのか見当もつかなかった。噂や言い伝えでしか聞いたことのない達人、いやもしかしたらそれ以上かもしれないと隊長は思った。


「申し訳ありませんが、両軍の訓練では、もうエミグレア様の修練にすらならないようです」


「では、魔法と剣の両方で攻撃をしてもらえませんか?」


「魔法ですか?エッダ領では魔法を戦闘にまで使える人がいないので、難しいかと」


「そうですか・・・」


エミグレアは入団試験に備える修練がこの地では難しいということを改めて認識した。


「それでは、ノーブル子爵の領軍に相手をしてもらってはどうでしょう?」


そういったのはバローヌだった。


「おお、バローヌ殿はノーブル子爵様に使えていたのでしたな。ノーブル領軍は魔法にも長けていると私の耳にも届いています。エミグレア様、これ以上の訓練はこの地では難しいと思いますので、バローヌ殿が仰る様にノーブル子爵様へお願いした方が良いかと思います」


「わかったよ。バローヌ、ノーブル子爵様へお願いできるかな」


「心得ました。すぐにでも連絡をつけましょう。エッダ家はノーブル子爵にとっても子のようなもの。問題ないでしょう」


そう言ってバローヌは踵を返し、早々に連絡を取りに屋敷へと戻っていった。


「それにしても、すかkり追い抜かれてしまったな。いつの間にそんなに腕を上げたのだ?」


10人がかりの訓練を見学していたロイドが話しかけてきた。


「父さんに入団試験の許可をいただいた日に、なんとなく身体が軽く感じたんだよ。それからかなぁ?」


「入団試験許可が身体を変えたっていうのか?そんな馬鹿な、と言いたいところだけど実際に腕前を見るとそう思うね。僕も許可してもらった方がよかったのかな?」


「ロイド兄さんも近衛騎士団に興味があったの?」


「そりゃそうだよ。近衛騎士団と言えばファスト王国最強の騎士団だろ?憧れない人の方が少ないだろう。まぁ、僕は領地を継がないといけないからね。許可は下りたないと昔から諦めてたよ。だから、エミグレア、頑張って入団してくれよ。エッダ領の誇りだよ。」


おもわず兄からの激励を受け、エミグレアははにかんだ。


「うん、頑張るよ」


その晩、バローヌからノーブル子爵領軍の訓練に参加しても良いとの連絡をもらったと伝えられた。こんなに早く、とは思ったものの、近隣貴族間では緊急時の連絡用に通信魔術が施されている手段があることを思い出した。自分の事が緊急なわけではないと思ったが、バローヌが急いでくれたのだと思うとうれしかった。


ノーブル子爵領は、エッダ領の南に位置しており、港から領島が見えるほどの距離だった。出発も明後日と急な話にもかかわらずあっという間に決まったようだった。


出発当日、ノーブル子爵領とエッダ領の交易船に同乗することになった。幼いころには何度かノーブル領へ遊びに行ったこともあり、別に身構えるほどの旅ではなかった。船には互いの領地で交易をする商人たちと、船乗り、そして護衛たちがすでに出港準備をしていた。


「入団試験の予備試験はノーブル領で行われる。ノーブル子爵様には予備試験が終わるまでの滞在をお願いしておいた。かなり吹き込んでおいたから頑ばるのだぞ」


クロイツは父らしい顔でエミグレアを励ました。


「エミグレア様、先方では第1執事のケルマーが迎えに来ることになってます。港に着いたらケルマーに従ってください」


「うん、わかったよ、バローヌ。いろいろありがとう」


母と兄も見送りに来ていたが、4時間程度の船旅であること、今生の別れというわけでもないことから、食べ物に気を付けて、だとか、子爵家に迷惑かけないようにといった簡単な話で終始した。エッダ領に人間にとってノーブル子爵領は、海を渡るとはいえお隣さんであり、行き来も頻繁に行われており、特に気負うような船旅でもなかった。


「時間ですので出港します」


船長が大声で船の上から宣言して、船は桟橋を離れていった。


見送りの人々が桟橋を後にする中、クロイツとバローヌが並んで顔を合わせず佇んでいた。


「これで良かったのか」


「最善かと」


「そうか・・・」


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