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2.訓練

「構え―、突撃!」


「えいっ、とぉー」


エッダ領主であるクロイン・エッダの屋敷の庭では、領軍の訓練が行われていた。領軍とは名ばかりの総勢30名程のこじんまりとした軍ではあるが、辺境は人手の入っている地域が少なく、人に害なす魔物もそれなりに存在しているため、領主としては群を編成し、領地内の安全を図る必要があった。


その中に、エッダ領の時期領主とその弟の姿もあった。時期領主のロイドは、身体鍛錬の一環と領主たる父の代行も務めるため、軍の指揮について学んでいた。そして、弟のエミレグアも領軍の訓練に参加していた。エミレグアには目標があった。別れ別れになった幼馴染を見送った後も、枯れることのない思慕の念が彼の行く末を決定させたのだった。それは、王都の近衛騎士団への入隊することだった。


『ミレーヌは王都に行ってしまった。もう戻ることはないだろう。それならば、僕が王都に行けばいいんだ』


子供の淡い恋愛感情かもしれないが、領地は兄が継ぎ、身の振り方を考えなければいけない次男としては、至極まっとうな考えだと思った。クロインに近衛騎士団に入りたいと語ったところ、少し困ったような顔をしたが、文句を言わずに了承した。


「エミレグア、近衛騎士団への道のりは厳しいぞ。覚悟があるのであれば、まずは領軍の訓練に値を上げずについていけるようにならないといかんぞ」


そして参加した領軍の訓練。12歳の領主の息子といえども、軍は軍。まだ体も出来上がっていない身には、回りについていくだけでも大変だった。救いと言えば、物心ついた時から習っていた剣技を生かせる試合形式の訓練だけだった。小さいとは軍として機能するためには、糸乱れぬ行軍、命令による即時対応や撤退戦も盛り込まれており、力尽きて倒れても、水をぶっかけられて続けさせるほどのスパルタ式であった。これには、親心もあって、きつい目に合わせれば、すぐにネを上げるだろうという軍を率いる隊長にクロインが頼んでいたのだった。


クロインが諦めさせたいと思うほど、近衛騎士団の入団の条件は厳しいものだったのだ。だが、エミレグアは泣き言も言わずに訓練についていった。


「クロイン様、エミグレア様は見込みがありますよ。本格的に近衛騎士団を目指して修業した方がよろしいかと」


「うーむ、そうか。騎士団に入団できるなど、夢のまた夢、難易度ははるかに難しいのであきらめてほしかったのだが」


「そうは申しましても、エミグレア様の熱意は本物です。例え入団できずとも無駄にはなりますまい」


「そうか、そうかもな。それにしても、あの熱意はどうして沸いたものやら」


父であっても、息子の恋心などわかるはずもなかった。父親とは、いつの時代も鈍感なのである。


隊長の勧めもあり、クロインはロイドと同じようにエミグレアを鍛え始めた。実のところ、クロインも若いころは騎士団を目指していたが、厳しい入団試験に受からなかったのだった。だが、受けた実績が役に立ち、その後王国に貢献する活躍を示すことができたことから、男爵の爵位を賜ったのだった。次男は爵位を継げないが、自分と同じように爵位を賜る機会に恵まれるかもしれないとも思ったのだった。


訓練の内容は多義に渡った。剣技、魔法、軍の訓練への参加、訓練が無い時間の多くはこの世界の知識を習得する時間に割かれた。


エミグレアにとって多忙は嫌なことではなかった。女々しい思慕にとらわれることなく没頭する毎日であった。だからと言ってミレーヌを忘れているわけではなかった。できるようになることが楽しかった。わかる事が面白かった。時間が過ぎていくのは、あまり気にならなかった。


エミグレアが14歳になり、見るからにたくましい若者になっていた。領軍の中でも、剣技は兄と1,2位を争う腕前となり、近隣の領軍との合同演習では指揮官として働き、その冴えを見せることができた。魔法については、才能の問題なのか標準以下の実力しか身につかなかったが、それを補って有り余るほどの成長を見せたのだった。


そんなある日、エミグレアは領地の巡回警備をしていた。力量もかなりついてきたので、今回の巡回は単独で行っていた。巡回と言っても、街道の警備であり、滅多に魔物が出るようなところではなかった。


「そろそろ昼かー、あ、泉で昼ご飯にしようっと」


エミグレアが目指したのは街道から少し外れた、小さい滝が落ちている泉だった。小さい頃から度々足を運んでいた場所で、魔物が出てきたことは一度もないと言われていた。そんな泉のそばで、やや苔むした岩に腰かけた。


「しばらく来ていなかったから、岩とか苔が生えてしまってるなぁ。最近は子供たちはここまで来ないのかな?」


昔は、それこそミレーヌと他の友達とともによく来ていた遊び場でもあった。だが、最近は子供達もここまで足を運ぶことが無いようで、椅子替わり、テーブル替わりにしていた岩には苔が生えてきていた。だれもここで遊んでいないことは一目瞭然だった。


『そういえば、この場所を見つけたのは誰だったかな??』


誰かに連れられてきたような気もするし、たまたま友達の誰かが見つけたような気もしていた。この場所については特に疑問もなかったので、家族にもこの場所について話をしたことはなかったな、と気づいた。


「変だな?」


何が、というわけではない。が、何かが引っかかっていた。思い出せず、もやもやしていると、泉に落ちている滝の横で、何かが光っているのに気が付いた。


「なんだろう?」


近隣の魔物であれば、すでに一撃で仕留められる腕前は持っていた。ましてや、今の自分は警備をしているのだ。気がかりなものがあれば調査するのは当然だ、と誰に言うではなし、自身に言い聞かせて、光ったところを注意深く調べた。


「木彫りの像?」


そこにあったのは、水にぬれて陽の光を浴びて光っている木彫りの像だった。


「似ている・・・」


それは、嘗て夢で出会った少女に似ていた。夢のことは、いままですっかり忘れていたが、像を手に取った時に不意に思い出したのだ。その時、頭の中で声がした気がした。


『この世界を取り戻してください』と。



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