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17.凱旋そして出航

ノーブル領都に到着した後、上陸前に先触れが出たのか港はエミグレアの偉業をたたえる人々でごった返していた。


「こりゃなんて人手だ。祭りの時でもこんなに人なんか集まらねぇぞ」


「そりゃぁ、あの火竜を倒した英雄ですもの」


「なんで嬢ちゃんが偉そうなのかわからねぇが、まぁ、ノーブル領の歴史上は初の偉業だな」


「ゴルドさん、顔がにやけてますよ?」


従者の名乗りを上げたケイティとゴルドは、憎まれ口をたたきつつも新たに主人となったエミグレアが称えられていることの嬉しさが隠せないようだった。


だが、当のエミグレアは別のことを考えこんでおり、人々の賞賛に対して軽く手を上げるだけだった。


『あの雷撃を受ける寸前に、また知らないはずの知識が浮かんできた』


火竜の雷撃は避けられるはずは無かったのだ。だが、雷撃だと感じた瞬間に避雷針という聞いたことも無い知識が浮かんだのだ。


『雷は電気で、アースを取っている金属に誘導できる、僕はこの知識は一体どこから得たというのだろう?それに、自分の年齢に自身が無くなってきている。僕は本当は何者で、何歳なんだ?』


「ご主人様?」


ケイティが、難しい顔をして黙り込んでいるエミグレアの顔を覗き込んできた。


「え?なに?っていうか、ご主人って僕のこと?」


「帰りの船の中で言ったじゃないですか!聞いてなかったんですかー」


エミグレアは帰りの船の中でも、火竜が身体に吸い込まれたこと、雷撃を防いだことなど先ほどと同様に答えが出ることもなく考え込んでいたため、ケイティやゴルドの話は覚えてなかった。


「あ、ごめん。火竜のこととか、戦いのこととか思い出してて、ちゃんと聞いてなかった」


「まぁ、実際凄かったですからね。火の玉を防いだり、雷撃を防いだりして最後はばっさりと切り込んで火竜が光と共に消し飛ぶなんて、どんな技だったんですか?」


ケイティが周りにも聞こえるように質問をしてきた。周囲の人間たちは、英雄の活躍を聞き逃すまいと必死に耳を傾けていた。


『消し飛んだ?火竜が身体に吸い込まれたことは見えてなかったのか』


「ああ、うん。あれは多分、この剣の力だと思うんだ」


そう言ってエミグレアは背中に背負った剣を指さした。


「竜殺しの剣ですものね。それって今でも元のサイズになるんですか?」


「どうなんだろう?手に持った感じじゃ変わらないみたいだけど・・・」


「それじゃ、そこに置いてみてくださいよ。戻るかもしれないですし」


エミグレアはケイティに言われるように地面に剣を置いてみた。すると、剣はサイズを変え、元の人の倍はあろうかと言う大きさに戻っった。


「うぉぉぉぉ、すげぇ!それが竜殺しの剣か!初めて見たぜ!!」


周りを囲んでいた人々から歓声が上がる。そのうちの一人、剣士と思われる人が問いかけてきた。


「その剣があれば火竜も退治できるというわけか。それなら、私が持てばもっと強い魔物も倒せそうだな。持ってみてもいいか?」


どうやらその剣士は腕自慢らしく、エミグレアの腕については自分よりはるかに下だと思っているようだった。


「いいぜ、持てるもんなら持ってみな」


ゴルドが面白くなさそうに言い放った。


「君のような一介の船長風情が、この剣の扱いを勝手に決めていいのかい?」


「それは儂が打ったもんだからな。持ち主はぼうず、いや、御主人様のものだが剣の手入れとかは儂の仕事だからな」


「君が打った?ああ、ドワーフだったね。竜殺しの剣の打ち方ぐらいは知っていたというわけか」


そういいながら、その剣士は剣に手をかけて持ち上げようとした。だが、剣士が顔を真っ赤にして力を入れても、剣は地面に横たわったままびくともしなかった。


「あんたみたいな剣士ぐらいじゃ、この剣に拒絶されるってことだな」


「剣が持ち主を選ぶだと?戯言を抜かすな!まったく、これは何か仕掛けがあるに違いないな」


持ち上げることができなかった剣士は、そう言い捨てると人込みに紛れて、そそくさと去っていった。


「英雄になんて言い草だ、まったく。まぁ、あんな風にご主人様を妬むやつはこれからも増えるだろうな。気にすんな」


エミグレアのことをご主人様と呼ぶ割に口調は変わらないゴルドだった。


「その、ご主人様って止めません?」


「私は呼びたいけどなー」


「そうだな、儂も柄じゃねぇしな」


「エミグレアかグレアでいいですよ」


「さすがに名前を呼びつけるわけにはなぁ。せめて人前では主殿程度は言わせてくれ」


「私も人前ではご主人様って呼ぶね。メイド魂が燃えるわ!」


そう言われてはエミグレアも代案も思いつかず苦笑いを返すだけだった。


人込みの後方から何か声がして、人をエミグレアの元に招くかのように人込みが割れていき、ノーブル子爵がエミグレアの元へ向かってきた。


「エミグレア!見事な成果だ!これでノーブル領もさらに反映するだろう!祝宴を上げたいのだが、中央領から使者が来ててな。今晩にでもエウリュア伯爵領へ向かって欲しいそうだ」


「エウリュア伯爵様の領地ですか?試験はエミル子爵様の領地のはずでは?」


「なんでも、同行した方から推薦があって、予選の参加は不要ということになったそうだ。だから、次の選別で勝ち残れば晴れて近衛騎士と言うわけだ。本選出場者など、私が領地を治めるようになってから誰も辿り着いたことが無いからな。私も鼻が高いよ。良くやってくれた!」


「ありがとうございます」


一時は命を狙われたことはあるとはいえ、ゴルドに引き合わせてこの剣に巡り合ったのは、ノーブル子爵のおかげであるのも事実だった。その剣は、まだ地面に置かれていたので、ノーブル子爵が興味深そうにその剣を見詰めていた。


「この剣が火竜を退治した竜殺しの剣なのかね?随分と大きいが・・・持ってみても良いかね?」


「ええ、構いません」


ノーブル子爵が持ち上げようとしたが、先ほどの剣士と同様、びくともしなかった。


「これは持って戦う剣ではないのかね?全く持ち上がらないのだが」


エミグレアがノーブル子爵に代わって剣を手に取った。それまでと違い、鳥の羽でも拾い上げるかのようにエミグレアは剣を片手で持ち上げた。剣は持ち上げた途端に大きさを縮め始め、半分ほどの大きさになった。


「な、なるほど。竜殺しの剣は、剣そのものが所有者を認めると言われていたが、本当だったのだな」


先ほどの剣士と違い、どうやら貴族の間では、剣が持ち主を選ぶという話は当たり前のように伝わっていたようだった。


「ゴルドよ、お前が竜殺しの剣を打てるとは知らなかったよ。よくやってくれた。褒美は何が良い?」


「いやぁ、こんな剣を打てること自体が褒美みたいなもんでさ。それと、これからはエミグレア様の専任鍛冶師としてついて行こうと決めましたので、それを許可していただけると助かります」


「なに?そうなのか。我が領地としてもお前のような有能な鍛冶師は得難いのだがな、まぁ、褒美と思えばよいか。わかった。その代わりしっかりとエミグレアを助けてやってくれ」


「お話はついたようですね、出向の時間が近付いております。お急ぎください」


話に割り込んできたのは、漁港といっても差支えが無い港にはそぐわない立派な制服を着た船乗りだった。なんでも、この港では中央領へ向かう船が入港するには浅すぎて入れないため、小型の船で沖合の船まで向かうとのことだった。


「かなり大きいですね」


港からでは大きさが実感できなかったが、近づくとかなり大きい船であることが分かった。


「辺境領から中央領まではかなり時間がかかりますからね。大型の海棲魔物が現れる領域も通りますから、相応の船が必要なんですよ」


エミグレアの感想を耳にしたのか、案内をしてくれている男がにこやかに説明してくれた。男の先導で小型の船を接舷し、中央領域の船に乗り換える。


「ようこそ、『波のゆりかご』号へ!」


船に上がると、乗組員が迎えてくれ、そのまま船室へ案内された。


「これが貴族の船室なんですね!あ、ちゃんとベッドもありますよ」


船室に入ったケイティが、ベッドやソファーなどに触発され船室を見て回りながら子供のようにはしゃいでいた。船室は広く作られており、リビングと広めの寝室とやや狭い寝室に区分けされていた。リビングには豪華とはいえないまでもソファーとテーブルがあり、窓の側に据え付けられていた。辺境となるノーブル子爵領から、中央領であるエウリュア伯爵領までは3週間ほどの航海が必要になるので、貴族の船室ではそれなりの設備がそろっていたのだった。


「確かに貴族の船室だけど、いいのかな?正確に言えば、僕はまだ貴族ではないのだけど・・・」


エミグレアの独り言に、船室まで案内をしてきた船員が答えた。


「執政官ザミエル様より、最上のもてなしでお送りするよう言いつかっております。数年ぶりの近衛騎士団員の誕生になると伺っています。我らファスト王国民にとって王国守護者は最上の礼と敬意をもって接するもの。ご要望などありましたら遠慮なく申し付けください」


船員の説明によれば、大きな寝室はエミグレアが、小さな寝室は従者であるケイティとゴルドで使ってくれとのことだった。


「えー、ゴルドさんと同じ部屋なのー」


「儂は、このソファーで寝るから、寝室は一人で良いぞ。そもそも、あんなに柔らかいものの上ではよく寝れんからな」


「やったー」


ふと外を見ると、いつの間にか出航していたようで、近くに見えていたノーブル子爵領が徐々に小さくなっていた。


「結構速いな」


「中央領ってのはどこにあるかよくわからんが、航路は外洋に出ると聞いたことがある。まぁ、それにしたってこれだけでかい船だ。速度もそれなりだろうさ」


ゴルドが元船長らしく解説してくれた。


「中央領って、場所は知らないのですか?」


「うーん、辺境領はそれぞれで貿易もしているから航路は判っているが、中央領ってのは辺境領から訪れることが禁止されていてな。なので辺境領では中央領がどこにあるかわかる奴はいなかったな。そういやケイティはハミル伯爵のところにいたんだよな?わからんか?」


「うーん、私は船乗りじゃないからハミル様の領地から出た船がどうやって辺境に来たかはわからないよ」


「船員に聞いても、多分教えてはもらえないんだろうがな」


どこにあるかわからないという中央領、なぜ自分の国のことなのに知らずに済んでいるのか、エミグレアは自分のことを振り返りつつ疑問を持ったが、今まで自分が国のことについて、あまりよく知らずに来たことを考えると分からない方が普通だったのかと納得したのだった。だが、何故自国の地理について民は知らされることのないままでいるのか、そこについては若干の不安を覚えたのだった。


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