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16.火竜討伐完了


ゴルドを含む3名は離れたところから火竜とエミグレアの戦いを見ていた。


「おお、火炎弾を切り捨てたか。自分が打った剣だがこの目で見ても信じられねぇな」


「ちょっとぉ、ゴルドさん、大丈夫な剣を渡したんじゃ無いの!?」


「そのはずだがな。伝授された工程で打ちはしたが、竜殺しなんぞ一生に一回打てるかどうかの代物だぞ。威力なんざ、伝説でしか伝わってないわ」


その言葉を聞いて、今まで殆ど口を開かなかった男が話しかけた。


「なるほど、あの剣はあなたが打った剣ですか。それであなたはご自分の作った剣が実際にどのような物なのか確認する為に同行されたのですね」


「そういうこった。おっと、それだけじゃねぇぞ。この島に上陸できるのも、ノーブル領じゃ儂だけだ。他の奴なら島に近づく前に沈められるか、荒波で島に叩き付けられるかしかできねぇからな」


「ここまでの道程も把握していた、ということですか」


「昔、運良くここまで来れたことがあったんだ。鍛冶素材を探しにな」


「手に入ったのですか?」


「いや、火竜に見つかりそうになって逃げ帰ったよ」


「ふむ、あなたがここに居る理由、ここまで道案内できた理由がわかりました。で、そちらのお嬢さんはどうしてここに?」


「え、えーっと、あの人貴族なのに従者が誰も居なかったみたいじゃ無い?だから従者にしてもらおうかなぁって。そんなことよりあなたは何なの?」


ケイティの言葉に応えることも無く男はさらに詰問してきた。


「従者ね。確かに彼には従者は付き添っていません。だとしても、貴族でもない町娘に従者が務まると思いますか?」


「確かに今は町娘で、街の酒場で給仕の仕事していますけどね。これでも貴族様のメイドを務めていたこともあるのですよ」


ふふん、とケイティは胸を張って答えた。


「貴族の屋敷でメイドをしていて辞めたというのですか?」


「そうよ・・・・」


詳細は言いたくないとばかりにケイティは目をそらした。


「そんな話は聞いてないですね。どちらの貴族にお仕えしていたのか答えてもらえますか?」


そう尋ねた男から僅かに殺気が漏れていた。


「え、う、うーん、言わなきゃダメ?」


「ダメですね。答えられないとなれば無断で貴族のメイドを辞めたことになります。これがどういうことかわかりますね?」


「わかったわよっ、私が働いていたのはグレアム・ハミル伯爵様のお屋敷よ。ちゃんと辞めますって言って出てきたんだからね」


「ハミル伯ですか。あの人はそう言うところがありますね」


最後の方はつぶやきに近かった。


「で?あなたは何なの?」


「従者になろうというなら言葉使いも気をつけた方がいいですね。私は今回の近衛騎士団入団試験の選別官を任ぜられたエキドーナ・ファスト公爵様の執政官ザミエルです」


名乗りを聞いたゴルドが目を剥いた。


「こ、公爵様の執政官だと!?そんな大物が、なんでこんな辺境に!?」


「彼をとても気にしている方がいらっしゃいましてね。その力を見極めて、適切なランクで受験させよとお達しが出ているのですよ」


「で、あんた、いや、ザミエル様が見極めを担当されている、と?」


「そうなりますね。おっと、火炎弾が効かないので、火竜が次の攻撃に移ったようですね」


「なんだありゃ?牙が紫色に光っているぞ。まさか、雷撃かっ!!」


雷撃、人としての使い手はいないとされている攻撃で、魔法攻撃でも物理攻撃でも無い自然を操る攻撃であり上位精霊相当の魔物しか使えないと言われていた。音速を超える攻撃は発動してから避けることが不可能で、必中必殺の攻撃とされている。


火竜の口元がまばゆく輝き、轟音が辺りに鳴り響いた。


『なんだと・・・』


必殺を信じて疑わなかった雷撃を放った後に、エミグレアは傷一つなくその場に立っていた。その結果に火竜は信じられないものを見た、と言わんばかりの感情をぶつけてきた。


『光の速度で放つ雷撃を避ける人間など居るわけがない、いや、居てたまるか!』


「避けたわけじゃない」


『なに!?』


「確かにすごい雷撃だった。だが、これから雷撃が来ると分かれば対処の方法はある」


『我の知らない知識を持っているというのか』


「そんなことより、飛び道具は終わりか?ならば力比べと行こうか」


『この世界の生物の頂点ともいえる竜と力比べをするか、面白い。では、いくぞ!』


どのようにして雷撃を避けることができたのか、興味は尽きないが力比べと言われたことが知的好奇心を凌駕したようだった。火竜は身体を流れ落ちる溶岩を身震いと共に振り落とし、突進するべく身構えた。溶岩の中にいて焼き尽くされることのない体表は黒光りし、四つ足の高硬度な岩石の塊のであった。火竜の図体はでかいが、鈍足と言うわけではない。むしろ俊足と言っても良い。ずんっ、という音を残して火竜があっという間にエミグレアに近づいた。

エミグレアはいきなり目の前に近づいた火竜に驚くこともなく竜殺しを下段から上段へと振り上げた。


『ぬぉっ、さすが竜殺しというわけか!我の身体を切り裂くとは!』


エミグレアの件は火竜の体表を、まるで糖負荷何かのように易々と切り裂いていた。


「竜殺し、というのは伊達じゃないようだったな。その身体、鱗と言っていいのかわからないけど、魔力で造られているのか」


『そこまで判るのか。だが切られたのは表面のみ。さすがに中まで剣が届くことはないようだな』


火竜は、体の大きさを利用してエミグレアを物理的に潰しに来た。


『所望の力比べと行こうか。これを覆せればお主の勝ちとしてやろう』


エミグレアは火竜が上から押しつけてくる前足を剣の腹で受け止めた。最初の踏み付けに耐えていると、次第に重さが増してきた。


『我の重さはあってなきがごとし。故に重さなど思うがままよ。最初で沈まなかったのは誉めてやろう。だが、これには耐えられまい』


火竜の重さが増すにつれ、エミグレアは身体がミシミシと音を立てているのを感じていた。


「ここで負けていられれない!」


エミグレアの叫びと共に剣が光りを帯びた。


「軽くなった!?いまなら返せる!」


剣が光を帯びたと同時に火竜の重さを感じなくなっていた。エミグレアは渾身の力で火竜を押し返した。


押し返されるとは思ってなかったのか、火竜の身体は上方へ跳ね飛ばされていた。


『ど、どこからそのような力が!竜殺しにそのような力はなかったはずだ!!』


地響きを立てて火竜はあおむけにひっくり返された。


「力比べも、私の勝ちだ」


『う、うむ・・・認めよう。我を調伏したと。では、盟約通り我の力を授けよう』


火竜はそう言うと光の粒子に姿を変えエミグレアに吸い込まれていった。


火竜が姿を消すと、隠れていたゴルド達がエミグレアの元に移動してきた。


「すげぇもん、見せてもらったなぁ。ちと剣を検めさせてくれ」


そういってエミグレアから剣を受け取ったゴルドは剣をまじまじと見詰めた。


「大きさは元のままだな、刃毀れ一つねぇ。火竜に踏み込みに耐えたというのに反ってもいねぇ。自分の打った剣だが信じられねぇな」


「お見事です。今回の火竜討伐は、入団試験の予備審査として充分な結果となりました。あなたの入団試験は執政官ザミエルの名において最終予選からの参加を認めましょう」


「執政官?」


「そ、そうなのよ!この人、試験の関係者だったのよ。すごいじゃない!」


「なるほど、力量を図るために同行していた、と言うわけだったのですね」


「そうそう、それで、私はあなたの従者になったから、これからよろしくね」


「え?」


「まぁ、従者なき試験参加者もいないわけではないが、最終予選ともなれば従者付きでないと色々困ることもある。それと・・・」


「それと?」


「おそらく従者にしないと、彼女は捕縛されることになるだろうね」


エミグレアはケイティの顔を見た。ケイティは困った表情を浮かべていた。


「おいおい、執政官殿。さっき嬢ちゃんはちゃんと辞めてきたって言ってたじゃねぇか」


「貴族、とくに上位貴族ともなればメイドの動向も監督されなければなりません。少なくともここ数年の間にメイドが辞職したという報告は上がってきていないのです」


「あんた、メイドの去就は全部知ってるというような口ぶりだな」


「まぁ、細かくは話せませんが、そういう仕事も一部あるとだけ言っておきましょうか。そういうわけで、彼女があなたの従者でないとなれば私としては見過ごすわけにはいきません」


ケイティの顔色が真っ青になっており、エミグレアを縋るような眼で見ていた。


「一人でも、と思ってはいたけど、そういう事情ならいいですよ。というか、執政官様?そんな情報言ってもいいのですか?」


「どこに居るか、が重要なのですよ。抜け出したというんもであっても、それ自体は雇い主たる貴族の責任。ファスト王国貴族の元にいるとなれば私の仕事はありませんからね」


「おお、ついでに従者というか専属鍛冶師もどうだい?」


ゴルドも同行を名乗り出た。


「え?お店の方はいいんですか?」


「儂の打った剣がどこまで高見に登れるか見てみたいんじゃ。店の一つや二つ惜しくなはいわい」


「二つもないでしょ」


「さて、お話もまとまったようなので、戻りませんか?私も急いで結果を報告しなければならないので」


港へ戻る道でも魔物が襲ってくることはなかった。


「帰り道も平和なもんだなぁ。火竜討伐者ってのは、魔物も避けるってわけかね」


ゴルド達は火竜が最後にエミグレアに取り込まれたところは見てなかったようだった。だが、魔物が近寄ってこないのは取り込んだ火竜の力と自分の力がいまだ融合していない為、魔物がエミグレアを火竜だと認識しているせいだとエミグレア自身は気が付いていた。おそらく、島を出て自分の力との融合が進めば、魔物からは火竜ではなく人として認識されるようになるのだろう、ということも自然と理解していた。


「おそらく、今だけですよ。時が経てば、また魔物に襲われるようになっちゃいますね」


「ふーん、そんなもんかね。ま、行きも帰りも魔物に襲われることもないってぇのは心強いからいいがな」


あまり深く考えていないであろうゴルドは気楽そうにそう言った。


「火竜を倒した力ですか。是非ともファスト王国の戦力として役に立っていただきたいですな」


益体も無いような話をしながら、船まで戻ったエミグレアたちは、その後も魔物に襲われることなくノーブル領都へ凱旋した。


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