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15.火竜討伐戦開戦


翌早朝、エミグレアは買い揃えた防具とドラゴンスレイヤーを持って屋敷を出た。火竜はノーブル領都のあるこの島ではなく、島の北側にある火山のある島に生息していた。火山活動のおかげで1年を通して温暖であり、肥沃な大地による自然の恵みと島から流れ出る豊富な栄養によって周囲の海域も豊かな海産物が取れる島だった。ただ、火竜が島自体を縄張りとしていたため、漁や上陸しての採取には危険が伴うため、豊富な資源があると分かっているにも関わらず手が出せず、ノーブル領で扱いに困っていた領地でもあった。


いまやエミグレアはノーブル子爵の悩みの種ではなく、自身の欲望を満たしてくれるかもしれない希望の星となっていた。


「エミグレア、頼んだぞ。討伐ができれば予選なんぞ怖くはないからな」


「はい、わかりました。このような武具の手配までしていただきありがとうございました」


エミグレアも、精神的にはすっかり大人になってしまってため、火竜の島に向かう船着き場まで見送りに来たノーブル子爵に文句を言うこともなかった。


「そろそろ出港しますぜ」


船は数名が乗れる程度の小型の船だった。大きいと火竜に気づかれる危険も大きくなるので、なるべく上陸まで気づかれないようにするためである。ノーブル子爵とケルマーに見送られながら、船は港を離れ火竜の棲む島へ向かった。


船の上では、エミグレアが装備を検めていた。


「おい、あの剣はどうしたんだ?」


突然声をかけられて、顔を上げてエミグレアは声の主の顔を見た。


「ええ?ゴ、ゴルドさん!?なんでここに!?」


「おう、なんてったてな、俺の打った剣の大仕事だ。自信はあるが、何しろ初めて打った剣だからな。しっかりとこの目で剣の出来を確認したくてよ」


「だからって、よく潜り込めましたね」


「漁師じゃねぇが、島暮らしはみんな船の扱いぐらいは覚えるからな。ちなみに今のこの船の船長でもあるぞ」


どうやら、剣を打つ前から面白そうだということで、ノーブル家からの依頼の時に船についても請け負ったそうだ。


「そうですよ、そんなすごいものならじかに見たくなりますからね」


そう言ったのはケイティだった。


「ケイティまで・・・」


ケイティは、船長がゴルドであることを知って、昨晩のうちに同行許可を取り付けたそうだ。


「船長ぉ、そろそろ奴の縄張りに入りますよぉ」


操舵主からそんな報告が告げられた。ここからは、帆をたたみマストも外して波間に隠れるように島へと近づいていく。火竜は山の上の方にいて縄張りを監視しているそうだ。波間に漂うように漕いでいっても気が付かれそうなものだが、この辺りは時折遠方の島から木々が流れてくることもあるので、帆さえたたんでおけば、見つかることは殆ど無いそうだ。


「だから、船のことはいいんだよ。剣はどうしたんだ?」


「な、なんですか、このチビ剣は!?昨日のではないのですか?あの、大きくて偉そうな剣はどうしんですか!?」


「え?これですよ。今朝起きたらこんな大きさになっていたんですよ」


エミグレアの持っている剣は、あのドラゴンスレイヤーとそっくりだが、サイズがかなり小さかったのだ。昨晩までは確かに3メルほどの大きさで、エミグレアの身長の倍はあった。だが、今は同じぐらいになっていた。


「おお、そうなのか。うーむ、なんか大きさが小さくなった分、迫力がなくなっちまったな。これで大丈夫なのか・・・」


ゴルドは、先ほどまで誇らしげにしていた態度を一変させ、自身のない顔つきになった。


「権を握ってみましたけど、昨日と変わらない感触でしたから、大丈夫だと思いますよ」


「ほんとですかぁ」


ケイティは、剣というよりゴルドの方を疑わし気に見ていた。


「儂も、こんな伝説の剣を打ったのは初めてだし、知っていたのは打ち方と剣が持ち主を選ぶってことだけだからな。持ち主に合わせて大きさが変わるなんて剣は聞いたことはねぇ。だが、伝説の剣だからなぁ、何が起こっても不思議じゃねぇが」


船は火竜に見つかることもなく島に接岸した。不思議なことに、人が作業できるような安全な島ではないが、船着き場があったのだ。


「船着き場があるんですね」


「ああ、ここは昔からあるんだ。自然にできたわけじゃねぇと思うが、誰が火竜をものともせずに作ったかはさっぱりわかんねぇんだがな」


誰が作ったかもわからない上に、ここに停泊中の間は船が襲われることも無いそうだ。安全だというので、皆で腹ごしらえをする。火竜の住む火山に同行するのは、ゴルドとケイティともう一人、成果を確認する役割として同行してきた男の3人と言うことだった。


「嬢ちゃんは、あぶねぇから待ってた方がいいんだがな」


「今更のけ者は嫌ですよ!絶対見に行きますからね」


ケイティにとっては死地ではなく、アトラクションのように捉えているようだった。ゴルドが、しょうがねぇな、といいながらも同行を認めていたので、他に止める人はいなかった。


エミグレアを含めた4人は、火山へと足を向けた。


「それにしても、見事な森ですね」


山裾は鬱蒼と生い茂る森林だった。


「ああ、山裾は雨も多いからな。それに地面は火山のおかげで温かく保たれてる。森にはうってつけの環境なんだろうよ」


「魔物はいないのですか?」


「いるぞ。ここは火竜を頂点として、黒狼、火熊、サーベルボア、魔猿がそれぞれ縄張りを持って他の魔物を統率しているし、スライムや角ウサギ、岩鹿といったほかの島でもいる奴は、それこそ普通にいる。ただ、森で気を付けるのは、っと来たな」


チィーーンという金属が擦り合うような音が近付いてきた。


「キラービーだ。羽に気をつけろ。首なんか触れられたら、その場で首無し死体の出来上がりだぞ」


ゴルドが背中に背負った片手斧を両手に持って構えながら説明してくれた。音がさらに高くなり、明かにこちらを狙って近づいてきてることが判る。だが、周囲が気に囲まれているせいで、音のする方向が定まらない。成果を確認するといった男は、特に何を構えるわけでもなくやや後方に陣取って近くの木に寄りかかっていた。


突如後ろから音がした。気に寄りかかっていた男が、自分の脇を通り過ぎようとしていたキラービーを両断していた。


「あ、掛かる火の粉ぐらいは払いのけられるので、私のことはお気になさらず」


何をやったのかはわからなかったが、相当強い相手だということはこれで確認ができた。ゴルドも怪訝な顔をしていたが、何も言わなかった。


「あの人、なんだか怖いです」


ケイティがエミグレアの側に来て、小さな声でそう言った。


「そうは言っても、あの人がいないと討伐が認められないって言われたからね」


ケイティは不満そうだったが、しぶしぶ引き下がった。ケイティはキラービーと言われても何のことかわからなかったみたいで、少し外れたところで突っ立っていただけだった。ゴルドに、少しは身を屈めるとか、何かしておけと言われていた。


その後、森を抜けるまでは魔物との遭遇は無かった。


「妙だな?森の中でもっと襲われるものだと思っていたが」


ゴルドが不思議がるが、答えられる者はいなかった。その後も、魔物がいると思われるところを通ったが、目にすることすらなく、山の頂きに到着した。一人討伐を指名されてるエミグレアだけが火竜が住んでいるであろう火口に進んでいった。ゴルドやケイティはあくまでも付き添いであり、観戦者に徹すること、それがもう一人の同行者が出した条件だった。


エミグレアが火口に近づくにつれて、火口から多少噴き出していた真っ赤な溶岩が激しく舞い上がり始めた。そして、熱さに耐えながらさらに近づいたとところで、火口から黒い姿が上がってきた。それはエミグレアの数倍を優に超える巨体、身体にまとわりついた溶岩が水滴のように流れ落ちているが焼け跡さえ残らないような鱗、黄色く光る目、人のサイズ程もある牙と岩石のような四肢を持っていた。


「これが火竜か・・・竜と言うより怪獣だよな」


この世界には4種の竜がいる。火竜、水竜、風竜、土竜である。魔物の上位種とされ、それぞれの属性の精霊の集合体であるという説もある。討伐自体は珍しいことではないが、非常に困難とされていた。さらに上位には、魔物と言うよりは神龍と呼ばれる龍種が存在する。神に匹敵する力を持つと言われてるが、数百年ほどは目撃すらされた事は無い。竜が魔物とされているのは、龍と違い人語を介さず、縄張りを持ち、本能で襲い掛掛かるためだ。


エミグレアはゆっくりと剣を両手で構えた。


『ふむ、お前がそうか』


突然、頭の中に声が響いた。


「だ、誰だ!」


『大声を出さずとも聞こえている。我が先触れを倒したようだな』


どうやら、キラービーは火竜の先触れだったらしい。尤も倒したのはエミグレアではなかったが、それはどうでもいいようだった。それにしても、竜は人語を介さないという話だったが、頭の中に響く声は明らかに目の前の火竜だった。


「は、話せるのか?魔物じゃないのか?」


『人のような発声器官は有していないのでな、普通は出会えば戦って終わりよ。だが、お前は力がある。その力を正しき力として振るえば我を苦も無く倒せよう』


「どういうことだ?」


『それは己が身で知らねばならん。我を倒すしか道はない。行くぞ?』


火竜の全身が火口から現れ、盛り上がった背中から火焔が次から次へと飛び出した。そのすべてが、エミグレアと同じ大きさの火焔弾だった。


「教えてくれる、ってわけではなさそうだな」


『知りたくば勝つが良い』


手加減してくれるというわけでもなく、あたりを真っ赤に染め上げながら切れることなく火焔弾が降り注ぐ。エミグレアは火焔弾を避けながら剣を握りしめた。すると2メルもなかった剣が元のサイズである3メルを超えるサイズに変化した。エミグレアは剣に力込めて直撃しようと迫ってくる火焔弾を切りつけた。火焔弾は溶岩に匹敵する熱量をもっていたが、エミグレアの大剣の一振りで火焔を散らし消失した。


『なるほど、その剣、竜殺しか。ではこれならどうだ』


そう言うと、火竜は火焔弾を切れ目なく放ちながら黄色い目を白く輝かせた。牙に紫電が宿り雷撃がエミグレアを襲った。




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