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13.討伐準備


行軍演習でノーブエウ子爵領領軍は半壊となってしまった。その為、領軍は新たな兵の募集と新兵育成に時間を割かねばならず、エミグレアが参加して訓練するどころではなくなってしまった。そして、模擬戦で対戦した3人も領地を去ったと聞かされ、2,3日は休めと言われた。力の反動が来たのか、動くたびに痛みが走る身体だったので、休みはありがたかった。


屋敷で休んでいる間、エミグレアは自分を振り返り、そしてまた新たな知識を得ようと書庫に通っていた。


『あれは、そういうことだったのだろうなぁ』


精神年齢が進んでしまったエミグレアにとって、自分の置かれた境遇を客観的に判断するのは難しいことではなかった。そこで判断できたのは、明らかにあの3人は自分を殺しにかかってたということだった。


『契約と言ってたな。とすれば、回りは皆敵とみなしたほうが良い、ということか。契約主はノーブル子爵もしくはケルマー執事だろうな』


そして、エミグレアは自分の力についても分析をする。


『あの力、明らかに常人離れしている。刃引きの剣で魔物が切れる、それどころか斧の刃という鉄塊も切断した。そして、引き伸ばされたような時間感覚は、思考と感覚もかなり早くなっているということか』


精神だけだはない。身に着けた覚えはないが、考えれば湧き出てくる様々な知識が分析を助ける。


『この知識も不思議だよな。この屋敷にある本はあらかた目を通したが、この知識に類似するものはなかった』


思いつくままに思考してみると、湧き出る知識は、物理、化学、工学、医学と幅広く出てくることがわかる。いずれもこの世界では基礎的な知識ですら誰も知らないと言えるほどのものだった。


遠心力や慣性の法則、燃焼の理屈、動力機関というもの、動脈と静脈、この世でもしも同じ知識があれば恐らく禁忌もしくは門外不出の知識となるだろう。


『魔術や魔法については全然知識が湧いて出ないな』


それも不思議な話だった。湧いて出る知識は、まるで魔術や魔法など存在しないかのように、それらの体系に触れない知識だった。


『そして、あの力は、明らかな殺気、殺そうとする意志に呼応して生じるのは間違いなさそうだ』


模擬戦の後、帰路の中で力はすっかりなりを潜めてしまったのだ。


『そしておそらくこの力は、あの夢の中で出会った少女によって与えられた。だが、この世界は魔の支配とは思えないほどの秩序を保っている。どういうことなんだ?』


力は確かに出る、だが話の中にでた混沌という言葉が、あまりにもこの世界と合わない。この世界は、王を抱き、貴族社会と平民による統治社会が敷かれており、人々はその中で秩序を保ち、生活し、子を育み、生活を営んでいる。


『まだ知らない側面がこの世界にあるということか』


2,3日の休みとのことだったが、ノーブル子爵から呼び出しを受けたのは、さらに数日経ってからだった。エミグレアは執務室で、今まで通りの対応をすることに気を使いながら、警戒しながらノーブル子爵とケルマーに対峙していた。


「ずいぶん待たせてしまい、すまんな」


「いえ、行軍演習では体の負担も大きかったので、時間を取っていただいて助かりました」


「そうか、入団試験までは、もう日にちもあまりない。少々きつい修行になるが挑んでみる気はあるかね?」


『来た、次の罠か?』


エミグレアは内心の警戒心のレベルを上げた。


「入団試験に挑むために必要な修練でしたら望むところです」


「そうか、君と模擬戦をした3名から提案があってね。入団試験に臨むなら、この領地に巣食う火竜討伐に挑ませるべきだとね」


『おや?』


警戒心をもって様子を見ていたが、今までとは打って変わったように親身な気配がにじんでいることに気が付いた。


「火竜ですか、とすれば装備などもそれなりに必要ですね」


「ああ、そうだとも。火竜討伐は領地内の悲願でもあったので、対応する装備はいろいろ造らせていた。街の鍛冶屋と武装関連を扱う武具屋には頼んである」


今度の装備は自分で調達するという、前回とは異なる対応にエミグレアは少々混乱していた。


「火竜とはどのようなものなのですか?」


「私から説明するよりも、鍛冶屋や武具屋の方が詳しいだろう、ああ、そうそう、指揮官も以前火竜討伐に参加したことがあったな。彼に聞いてみると良い」


敵として警戒していた相手の手のひらを返したかのような対応に、エミグレアは判断をしあぐねたまま、言われたことを了承して退室した。


「自分の領地から近衛兵が誕生するかもしれないというのは、領主冥利に尽きるな」


「そうですね。後顧の憂いもなく、純粋に成長を促し、その成長を楽しみにするというのはこの年寄りも久々に心躍ります」


先日まで、どのようにして問題を表面化させずにエミグレアをこの世界から抹消するかと画策していたことを棚に上げて、自分たちが育て上げたこちにすればいかほどの功績として認められるかを心待ちにするような態度になっていた。エミグレアはクロイツの息子であるが、鍛え、成長を促したの自分たちだであると主張すればよいだけで、濡れ手に粟の如く手に入るであろう栄誉を微塵も疑っていなかった。


戸惑いながら屋敷を出たエミグレアは、最初に鍛冶屋に向かった。


「こんにちはー」


店に入りそう声をかけると、中から野太い声が聞こえた。


「誰だかわからんが、今手が離せねぇ、こっち来てくれろや」


奥に進むと、そこは工房だった。そして、工房で一心不乱に武器を打っているいる男が手元から目を離すことなく話しかけた。


「すまんな、今、領主様直々に依頼された武器を打っているところでな。で、なんだい?」


「あ、それ、もしかして火竜用の武器ですか?」


「おう、よくわかったな」


男の体格はがっしりしており、手に持った槌は常人が両手でも持てるかどうかというような代物だった。


「領主から鍛冶屋で火竜用の武器を頼んでいると聞いていましたので」


「ん?てことはおめぇさんがこれを扱うのか」


男の手が止まり、作業を中断してエミグレアの方を向いた。


「エミグレアと言います」


「あ、いや、こりゃご丁寧に。おれぁ、ゴルドという。まぁ、見ての通り、ドワーフ族だ。来てくれて助かったよ。使い手がいるなら、それに合わせられるからな」


ガハハと言って笑顔を向けてきた。ドワーフと言えば石工、鍛冶、建築などの技術に秀でた種族である。職人気質で研究熱心で暑苦しい種族なのだ。その笑顔は、なれれば人懐っこいと言えるかもしれないが、初対面では、かなり濃い笑顔であった。


「来てくれたなら、これは後だ。まずは、力量を見せてもらわないとな。ついてきてくれ」


エミグレアの返事も待たずに、ゴルドはすたすたとさらに奥へ向かった。慌ててついていくと、周囲をかなり厚みのある土壁に囲まれている浜辺であった。


「ここは、俺のところで管理している試技場だ。見ての通り、海に面しているから、かなりの剣戟でも放てるぞ」


そういいながら、ゴルドはエミグレアの身体を触り始めた。


「うーむ、見た目通りの体つきだな。筋肉が多いわけでもない。まだ成長する身体だな。とすれば、あまり負担の大きい武器はやめといたほうがいいか・・・ちょいとあそこに立っている人形あいてに思いっきり切りかかってみてくれ」


「これは?」


「ゴルド様特製の剣戟測定器だ。打ち込むと、その剣戟の力と速度などを測定するって代物だ。測定する際、魔法陣が展開されるから、ちょっとやそっとで壊れることもない。これはな・・・」


得意げに、測定器である人形の技術的な解説を始めてきた。技術屋の性質とは、自分の技術を人に説明するときに、相手の理解などは考慮せずに滔々と技術を語り始める者なのである。当選、話は終わる気配がない。そばにあった剣を手に取り、エミグレアが話に割り込んだ。


「あ、わ、わかりました。これを攻撃すればいいんですね、剣はこれでいいですか」


「お、おぅ」


説明を途中で遮られたので、ゴルドは若干不満そうな声で答えた。どうやら、剣にも細工がしてありそうだった。エミグレアは剣の練習として木人と呼ばれる人を模した人形を相手にしてたこともあったので、切りかかるのは手慣れたものだった。


「これでいいですか?」


「ちょっと待ってな。お、その剣もこっちへ」


ゴルドは測定器人形と剣を調べ始めた。


「力は、まぁ、普通だな。強くもなく、筋肉相応ってところか。速度は、お、こっちは結構早いな。戦士よりは剣士向きか・・・」


普通であれば、ゴルドの分析は正しいと言えるだろう。だが、あの力が出た時はどうなるかわからない。エミグレアは、あの力を身に宿した時も測定しておく方が良い気がしてきた。何しろ、相手は火竜である。あの力抜きには耐えられないと思われたのだ。


「あの、ゴルドさん」


「ん?」


「すいませんが、殺す気で私にかかってきてもらえませんか?」


「なんだ?何がしたいんだ?」


「ちょっと試したいことがあって。その後、もう一度測定してほしいのです」


「なんだかわからんが、人殺しは御免だぞ。鍛冶屋の親父だが、ドワーフはその辺の人間より強いぞ」


「大丈夫です」


腑に落ちないゴルドだったが、エミグレアに従うことにした。ゴルドの武器は斧だった。


「いいか、本気で行くぞ。ちゃんと避けろよ」


そう言って、ゴルドが構えた。見る見るうちに怒気が膨れ上がり、身体が膨れ上がった。


「もともと、タイタンに連なる一族だ。ドワーフの本気なんぞ、受け止められると思うなよ」


そう言ってゴルドは切りかかってきた。その直前、凄まじいほどの怒気を浴びたエミグレアは、あの力が身体に宿ったことを認識した。そして、ゴルドの振り下ろした斧をなんなんく受け止めていた。


「なんだと・・・避けずに受け止めただと・・・」


「この状態で、もう一度人形を攻撃してみます」


「わ、わかった」


危険を感じたのか、ゴルドはドタドタと張りながらかなりの距離を取った。再び人形と向かい合い、振るえる力を惜しみなく使って切りかかった。


「ゴシャァァァァァ」


「うおぉぉぉぉいっ」


自慢の人形が、木っ端微塵に破壊されて、ゴルドの顔から血の気が引いていた。


「壊れましたね」


「あ、ああ。壊れちまったよ・・・結構高いんだぞ、これ・・・」


「あはは・・・」


「というか、なんだその力。この測定器で測れないほどの力ってことか、初めて見たぞ。ちと剣を見せてみろ・・・・こっちももう使い物にならんな。んんーー!あ、ありえねぇ。あの一瞬で30以上の剣戟を繰り出しただと!?」


人形の跡と剣を調べたゴルドが唸った。


「これほどの力なら、竜殺し(ドラゴンスレイヤー)を作っても使えそうだな」


「竜殺し?」


「おうさ。常人なら絶対振るうこともできない、伝説の英雄が使ったと言われる剣だ。だが、おめぇなら扱えるかもしれねぇ。俺も作ったことはねぇが、工法は伝え聞いている。鍛冶屋の夢みたいな武器だがな。1週間待っててくれ」


ゴルドの職人魂に火が付いたらしく、試技場にエミグレアを放置したまま工房へ駆け戻っていった。工房に戻ったエミグレアには見向きもせず、すでにドラゴンスレイヤー製作しか目がない状況だった。声もかけずらいので、エミグレアはそのまま工房を後にした。


次に武具屋で、防具を求めたが、こちらはゴルドのようなことは無かった。というのも、ノーブル領で扱っている防具類は、最高強度のものでも鎧牛の鎧皮を使ったスケールメールしかなかったからである。昔は竜のうろこをを使った防具があったそうだが火竜を始め滅多に討伐されないとのことで、今は入手できないということだった。


ゴルドが武器を作り上げる1週間後、それがエミグレアが火竜討伐に向かう日となった。


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