表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

12.模擬戦2


バスターの首に蹴りを入れた時に、「獲った」という気持ちと「しまった」という気持ちが同時に起き上がった。戦いには勝てたかもしれない、だが明らかに命が助かる様な攻撃では無かった。やらなければやられる、と反射的に取った行動だった。


「あの、首大丈夫なんですか?すいません、首が折れるとは思わなくて」


ローランが名乗りを上げたが、それはひとまずおいておこうと思った。名乗りを無視されたローランが不機嫌そうな顔をした。


「ん、いや、なに、こうしてればそのうち治る」


バスターは両手で自分の頭を支えながら答えた。


「がっはっは、バスターの首を折るかよ。たいした力だな」


「だから、私の番」


仲間の首が折れたというのに、ローランと名乗る女性は気にもしていないようだった。


「首が取れたわけじゃ無いから問題ない。折れる程度ならすぐ治る」


普通は治るとかじゃなくて死んでしまうと思うのだけど、この人達は違うという。


「いや、首が折れたら死んでしまうものではないですか?」


ローランが面倒臭そうな顔をしたので、それを見たゴウトクが代わりに答えてくれた。


「海軍だといっただろう。この国の海を守る海軍の軍人は、みんな力を持っているんだよ。特に攻撃に対する耐性はみんな高いんだぞ」


「油断していたと言い訳させてもらうが、それでも君の力は充分海軍で通用すると思うがね」


もうバスターは両手を頭から離していた。


「その話は私が負けた場合。二人とも任務失敗。取り分はなし」


ローランが戦いを促す。二人は肩をすくめてならんで離れた。落とした剣を拾い上げてローランと対峙する。ローランは変わった剣を両手に持って腰を低くして構えた。その剣は握りの部分に手を覆うようなガードがついていた。よく見るとガードの部分にも刃がついているようだった。


「双剣使いは初めて見ました」


双剣を扱う者と対峙した時は気をつけろと言われていた。この世界では、魔物が跋扈するため、防御を取れない双剣は危険度が高い。それ故に多くの者は片手剣と盾を持つか、防御を兼ねた重量のある両手武器を使うかが殆どである。なにしろかすっただけで致命傷になる魔物も多いのだ。このような事情から魔物を相手にする事が多い兵士には双剣使いは存在しない。つまり、双剣を使うと言うことは、主な相手は魔物では無く人である。そして双剣使いの必須条件、それは速度である。高速起動と手数の多さが双剣を扱うには欠かせない条件となる。つまりローランと言う女性は対人戦に特化しており、姿を見失えば倒される事と同義である言うことだ。


見失わないように、注意深くローランの動きを見る。先ほどの力がまだ継続しているらしく、集中するほど時間の経過が緩慢に感じてくる。こちらの動きを警戒しているのかローランも拙速に動こうとはしなかった。対峙したまましばしの時が流れる。痺れを切らしたのはローランだった。ゆっくりと回りこむように動き始め、徐々にその速度が上がっていった。かなりの速度で移動し始めたが、充分目で追える速度だった。後ろに回り込んだ時に、ローランが踏み込んできた。移動速度から考えると、急激に移動の向きを変えた攻撃は、普通なら反応できないかもしれない。


「ギィィィン」


ローランの双剣を両手剣ではじいた。


「この程度では捌かれるか」


面倒くさそうにローランがつぶやいた。その攻撃は一振りではなかった。都合4回の神速とも呼べる斬撃だった。力を保ったままではあったが、その斬撃をはっきりと識別できたわけではなかった。だが、まだ軌道として見て対応することはできた。


「ほほう、ローランの斬撃すべてを捌きましたか」


「俺には一振りにしか見えなかったぞ、バスター、お前全部見えてるのか」


「見えませんよ。何とか二振りですね、それ以上は・・・多分ですが四振りぐらいしたのかもしれませんね」


「精進が足りない、戻ったら修業をつけてあげる」


ゴウトクとバスターのやり取りを聞きつけてローランが口を挟む。藪蛇とばかりに二人はしかめっ面を浮かべていた。


軽口をたたかれている、ということは判った。このローランという女性は、明らかに他の二人とは実力が違う。先ほどから意識に浮かんだ物理という知識が、頭の中でローランの攻撃を分析していた。自分の周りをまわる速度はおおよそ50㎞という速度、この世界の速度で言えば1時間当たり50000メルを移動できるほどの速度だった。そのような速度から、鋭角にこちらに向かって来た。慣性という法則を力でねじ伏せていた。そして双剣の剣戟は、1合目ではじかれることを想定して、はじかれた勢いを利用しての2合目、3合目、4合目と続いた。飛びかかってきた速度のままの連撃であるため、4合まで剣戟を繰り出しながら、対角線の位置まで移動していた。どうやら、油断をしてくれる気はなさそうだった。


「早いってことは判ったけど、見えないわけではないね」


多少なりとも、相手の隙を得たくて話しかけてみた。


「む、人格まで変わった?」


今まで目上相手の丁寧な言葉使いを使うようにしていたのだが、精神的な年齢上昇の影響か話し方が変わってしまったようだ。自分で変わった意識がないのはまずいかもしれないとフォローを入れてみた。


「対等な物言いをすれば、隙が見れるかと思ったのですけど」


返答はなかった。その代わり、目の前から姿が消えた。


『やばい!』


そう、見失ったのだ。力を得ていても見失うとは、どのような速度なのか。焦った瞬間、首の後ろにチリチリとした感じがして慌てて剣を首の後ろに添える。


「チィィィィン」


「なっ、これも反応する!?」


偶然だった、と思う。だが、ローランは攻撃することを躊躇い始めたようだった。とはいえ、こちらからもうかつに攻撃できない。あの速度で迎撃されたら受けきる自信はどこにもなかったからだ。再び対峙し、両者の動きが止まる。


しばらくにらみ合ったままだった状況を打破したのは、領軍の逃げた方向からかけられた声だった。


「おおーーい、無事なのかー」


その声で、戦闘は終了した。ローランが攻撃態勢を解除して殺気を引っ込めたのだ。


「引き分け」


彼女はそう宣言して武器をしまった。


「がはは、みんな失敗だな」


「そうですね、まぁ、しょうがないですね」


「修業はつける」


ローランがボソッとそう言い放つと、二人は慌てた表情を浮かべた。反論するかと思ったが、声の主が近付いてきたからか、それ以上は話そうとはしなかった。声をかけてきた主は指揮官だった。援軍を連れて再びこの地に戻ってきたそうだ。


「無事だったか、それにしてもこの数の鎧牛を4人で退治するとはね」


4人とは言ったが、指揮官はエミグレアを除く3人がほとんど倒したのではないかと思っている表情を浮かべていた。


「援軍を連れてきたが、まぁ、大丈夫そうだな。本日の行軍演習は中止だ。町に戻るぞ」


4人は指揮官と援軍とともに街へ帰還した。


その夜、ノーブル子爵邸にて、ケルマー、バスター、ゴウトク、ローランそしてノーブル子爵が集っていた。エミグレアは領軍の慰労会に参加させており不在だった。


「失敗した、というのか」


ノーブル子爵が声をにじませる。


「片手間に何とかなるような相手ではなかったな。あの力は海軍向きだ」


「それに、沈着冷静な対応、とても14歳の子供とは言えませんでしたね。あの歳で何を経験したというのやら」


「そんなことを聞きたいわけではない!あれは、エミグレアは邪神の影響を受けている可能性が高いのだ。王国に仇なす可能性は摘み取らねばならん」


「邪神アマト?」


ローランの発言にノーブルは顔色を変えた。


「その名を出すな!誰が聞き耳を立てているかわからんのだぞ!」


「そういう情報は先に教えていただく必要がありましたね。邪神に対するのであれば、こんな装備では歯も立ちません。失敗は必然というわけですかね」


バスターが非難めいた口調でノーブルに応える。


「邪教徒が生き残っているとすれば、下手をすれば爵位の剥奪、だから人知れず始末したかったってわけね」


ローランの口調が一転して滑らかになる。


「あの力が授けられた力であれば、反転させることでシヴァ神の加護にすることができる。であれば、あれは有望な王国の戦力になる」


「な、なにを??」


ノーブルとケルマーが怪訝な顔をして、態度の一変したローランを見詰めた。


「あの子は、希望通り近衛騎兵入団試験に送り出しなさい。王都には、有望な人材が来ると報告しておく。身分と地位の心配は不要よ」


「あ、あなたは?」


「ヴィリトラ・ドゥルジに連なる者。ドゥルジ家の力は知っているか?」


ドゥルジ家といえば、王家に連なる公爵家である。ノーブルとケルマーは慌てて床に跪いた。そして、公爵家の力についてノーブルは知りえなかったが、ケルマーは知っていたようだった。


「ドゥルジ公爵家はシヴァ神の巫女の力をお持ちだと聞いておりますが」


「まぁ、そんなに畏まるな。今は身分を隠しているからな。ドゥルジ家の力には邪神の力をそのままに反転させて、シヴァ神へ帰属させる秘技がある。入団試験は、そのような場所にうってつけと言えよう」


「では、このままで?」


「まだ力をつける可能性もある。試験まで1か月、その間にこの地でできる限りの対応をしなさい。そうね、この地で討伐不可能と言われた火竜にでも挑ませなさい」


「か、火竜ですか。討伐できなければ、この地も滅ぼされて・・・・」


「そのぐらいの力が無ければ試験を受ける意味もないわ」


ノーブルが懇願したこの地の安寧は無視された。


「やれやれ、ローランが欲しいみたいですね。我々はあきらめましょうか?」


「俺の部下に欲しかったんだがなぁ」


バスターとゴウトクはローランの言葉にそう応えるしかなかった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ