11.模擬戦
「あなた方は、一人でもあの群れを退治する力があるんですよね?」
「おう、鎧牛ぐらいじゃ当たられてもなんてことないからな」
兵士というより戦士という方が似合いそうなゴウトクが答えたが、確かにダンプが当たっても平気そうな身体をしていた・・・ダンプってなんだ?
「怪我はしませんが、多少は跳ね飛ばされますよ。勢いを止められるのはゴウトクぐらいですね。まぁ、その前に切り捨ててしまうので当たられることの心配はしませんね」
「当たり前」
バスターにとっても鎧牛は脅威でも何でもないようだった。そしてローランは、話すのがあまり得意ではないようだ。
「それでは、なんで兵士に被害が出ないようにできなかったのですか?」
「私たちは軍に所属しているわけではないですからね」
「傭兵、ですか」
「まぁ、あたり、と言っておきますか。本来は海軍なんですが、オフの時は傭兵のようなことをやっているのですよ。今回の契約には領軍の護衛は含まれていませんでしたからね。まぁ、ここまで被害が出るとは思わなかったですが」
バスターは周囲を見回した。撤退は行ったが、同行できたのは生き残った者たちだけだったので死亡した者たちはこの場に取り残されていた。
「そういうこった。坊主、おめぇさんが貴族の息子だってことはわかっていたが、さっきのはなんだ?それ、刃引き剣だろ?なんでそれでこいつらを切れるんだ?」
「ゴウトク、人の技術を詮索するのは止めなさい」
刃引き剣でなぜ魔物が切れるのか。これについては薄々わかってきたことがあった。自分が相手に対して明らかに戦闘を意識して権を握り相手が明らかな敵意を持って向かって来たときに、握っている剣があたかも神剣であるかのような振る舞いをするようになる。ただ、きっかけが敵意なのか意思なのかは、まだわからなかった。
だが、これらは表面的なことだとも思う。剣の性質を変化させると同時に、自身の中で何かの知識もしくは記憶が現れ、さらに精神的に大きく変わることが自覚できた。どのように変わったかというと、14歳の自分であるはずが、現在では20歳を超えたぐらいの感覚になっていたのだ。別に思い込みというわけでもない。経験がないはずなのに、顔を読み、考えを読む力が増している、年上を見ているはずなの、20歳以下では年下のように感じてしまう。この世界では、成人は15歳だ。おそらく、今対峙しているのは25歳から30歳ぐらいだろう。だが、相手は大人である、という感覚が出てこない。
子供のころは1歳といえども年齢の違いをはっきりと感じ、20歳を超えれば気軽に話かけられないほどの開きを感じ、30歳となれば別次元の存在のようにも感じていた。だが、今、それがない。年上から感じる威圧的な感じが全く感じられないのだ。ちぐはぐな感じに対する違和感はあるが、それを気取られないよう言葉使いは気を付けていた。
「それで、模擬戦ということですが、この場所で行うのですか?」
「おや?嫌かい?」
戦いの跡地であり、死体もまだそのままになっている。模擬戦というには、あまりにも殺伐としているが、バスターたちは気にも留めていないようだった。むしろ、雰囲気があっていいよね、などと言っていた。
「わかりました」
「よぅし、それじゃ俺が一番でいいな。模擬戦という名目だが、おめぇの武器は真剣と同じだ。俺もこれを使わせてもらう」
ゴウトクが名乗り上げ、両手斧をかざした。対してこちらは両手剣、どちらも両手が武器でふさがる格好になる。とすれば、打ち合いに勝った方が勝ちになる。
特に開始の合図は無く、何となく対峙しあい、牽制しあう。ゴウトクが前に出たと認識した瞬間に彼は目の前にいて斧を振り下ろしていた。
「ドガッ!」
慌てて剣をかざして斧を防ごうとしたが、剣ごと吹き飛ばされた。向き合い、剣を握りしめてもあの力は出てこなかった。
「ほぉ、これに反応するか。だが剣はなまくらのままだな。手加減のつもりか?」
舐められてる、と思ったのかゴウトクから圧迫するような感じを受け始めた。再び迫るゴウトクは、手加減無用とばかりに嵐の様な連撃を繰り出してきた。重量のある両手斧だが重さなどないような連撃であった。
『捌くのがやっとだ。だが、お、重い・・・』
先ほどと異なり、両手剣の重みがズシリと手に、腕に、身体にかかる。
「先の戦いでは、もう少しやれるかと思ったがな。これでは腕はそれなりだが、まぁ、それだけだな」
両手斧と両手剣、どちらも重量のある武器同士だが、取り回しでは剣の方に分がある。斧は重量バランスが偏っているため、遠心力がより影響する武器だ。その為、振った後に切り返すのは時間がかかる。だが、ゴウトクは膂力でその弱点を補っていた。振りぬいたと思った矢先に、まるで逆回しを見ているかのように、斧が戻ってくる。両手斧は両刃の斧だ。振った速度と同じ速度で引き戻しができれば、手数は単純に2倍になる。両手剣を防御に使うのが精いっぱいで、攻撃に転じることができなっていた。剣を握りしめ、攻撃の意思を込めるが、先ほどのような感触は得られなかった。
「ダメっぽいな。それじゃ、しょうがねぇ、これも仕事だ。悪く思うな」
ゴウトクから凄まじい殺気が放たれた。問答無用で殺しにかかってきたとはっきりとわかる殺気だった。急激に剣が軽くなり、刃がうっすらとした光を帯びた。
「手抜きはしないぜ、ぬぅん」
休むことなく連撃を続けていたゴウトクだが、それでも様子見だったようで本気の斬撃が放たれた。はたから見れば何本もの斬撃が同時に放たれたように見えただろう。だが、剣が戻り斬撃がはっきりと見えた今では脅威にはならなかった。
一つ目を弾き、二つ目を弾き、三つ目を弾いた時にゴウトクの顔に驚愕が宿った。そして四つ目の斬撃に合わせて剣を振りぬいた。
「ゴシュッ」
斧はそのまま振り下ろされたが、刃の部分が半分になっていた。そしてもう半分は振り下ろした勢いそのままに、自分を後方へ飛んで行った。
「斧を切っただと・・・しかも刃の部分を・・・」
ゴウトクの動きが止まった。
「ゴウトクの負けだね」
「ちっ、しょうがねぇな。武器を持ってくればよかったぜ」
「駄目ですよ、あれは陛下から賜った武器なんですから。軍務以外の使私用で持ち出せるわけないでしょう」
「わかってると、それよりも、だ」
ゴウトクが残りの二人に向かって言った。
「こいつ、このまま軍に引き込まねぇか?戦力になるぜ」
「ふぅむ、魅力的な提案ではありますね。しかし、お仕事がまだ途中です」
「仕事熱心だよな」
「ま、あなたの取り分は無くなりましたから、そう言うのはわかりますがね」
そういいながらバスターが前に進み出てきた。
「次は私ですよ」
ローランのいる方向に向かったゴウトクは。もったいねぇな、とつぶやきながらその場を後にした。そして、進み出てきたバスターは右手に諸刃の片手剣を持ち、左手には小型の盾を構えていた。盾は六角形の珍しい形で顔が隠れるぐらいの大きさしかなかった。
戦いは一段落したが、力は去っておらず、握った剣は軽いままで、刃に宿った光は消える事無くうっすらと纏ったままだった。
「ふむ、どうやら、ゴウトクの時とは違い、初手から本気でやらねばいけないみたいですね」
バスターが警戒したまま盾を掲げた。盾を持った戦い方には大きく分けて二つのやり方がある。一つ目は、盾で己を隠し、剣筋や狙いを見せないことで戦いを有利にすすめる方法と、相手の体制を崩すことで反撃を防ぎ確実に攻撃を与える方法である。だが、どちらも盾は大きい方が有利であり、小型の盾ぐらいでは相手の攻撃をいなすことぐらいしかできない。ただし、それも相手が同じ片手剣程度であれば、である。ゴウトクの使った両手斧や、この両手剣では修了があるため小型盾程度では防げないのだ。だが、バスターは笑顔のまま対峙する。
「初手は譲りますよ」
それで、相手の手が分かった。
「後の先・・・」
「なんですか、それは?」
「後手に回ることで、次の先手をとる、だったかな?」
バスターの笑顔が凍り付く。
「知っていたのですか?」
どうやら当たりだったらしい。なんでこんなこと知っているのか、自分でもわからない。初手を譲られたが、どうやら対策があるらしいことはわかった。で恐れが何かはわからないので、言われたまま先攻で攻めに入ることにした。
上からでは盾でいなされて、懐に入り込まれるので、剣を横に走らせた。
「わかっていた訳ではないみたいですね」
上からでも横からでもどちらでもよかったようだ。剣の速度に盾を合わせ、横に振られた剣の上を盾で滑るように距離を詰めてきた。剣を引き戻して迎撃しようにもバスターが剣の上にいる限り、剣で反応することはできない。
「あっけないですね」
剣の上からバスターが自分の件を振り下ろしてきた。間に合わないと判断した直後、剣を手放した。
「な!」
バスターの振った剣は目の前を通り過ぎていった。その直後、体が勝手に動き、バスターの頭に回し蹴りを入れたのだ。脛の部分には、唯一鉄の装備が入っており、普段よりもはるかに早く重い蹴りを放つことができていた。思わぬ反撃で、バスターは盾をかざすことも交わすこともできず、首にその蹴りを受けてしまい、そのまま十数メルほど吹き飛んでいった。
「はっはぁ、バスター、瞬殺じゃねーか」
ゴウトクが笑ってバスターをからかう。あの一撃は、おそらく首の骨を折ったはずだった。倒れているバスターから目を離さずに、剣拾い上げ、握りしめた。何となくだが、終わっていないと感じたのだ。
「やれやれ、甘く見ていたのは私の方ですか」
バスターは立ち上がった。その首は確かに折れており、頭はあらぬ方向を向いていた。
「これは、なるほど、継続は難しいですかね」
両手で頭の位置を治すバスターが、そんなことを言った。「人間なのか?」
「んじゃ、これで坊主の勝ちだな。でよ、海軍に入らんか?」
バスターを見て思った疑問は無視されてゴウトクにそう言われた。バスターが人間かどうかは気にすることではないとばかりに。
「まだよ、私がまだいる」
ローランが名乗りを上げた。




