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9.ノーブル領軍


屋敷に戻ったエミグレアを迎えたのはケルマーだった。


「ただいま戻りました」


「お待ちしておりました。エミグレア殿が参加される訓練の内容が決まりましたので、お知らせと装備などの調整をしたいと思いますが、お時間は大丈夫ですか?」


そうは言われても特にすることのないエミグレアは、時間は大丈夫ということを伝えた。


「それはよろしゅうございました。まずは訓練ですが、明日の早朝から郊外までの行軍に同行していただきます。その後、行軍先にて軍事演習を兼ねて実戦形式で我が領軍兵士と模擬戦をしていただきます」


「行軍先で演習を兼ねての模擬戦ですね」


「はい、その通りです。エミグレア殿はエッダ男爵様の領軍の中では敵無しだと伺っていますので、我が領軍の中でも腕利きを用意いたしました。入団試験に備えていくばくかはお役に立てるかと思います」


「わざわざありがとうございます。助かります」


エミグレアは、自分の為に強者を手配してくれたケルマーに感激してお礼を言った。同じ貴族とはいえ、格下の貴族、しかも次男で爵位継承もない身分の自分の為に尽力してもらえるとは夢にも思わなかったからだ。だが、強者を用意されてお礼を述べるなど、心情を知らない者にとっては傲慢な振る舞いともいえる。そして、ケルマーにとって、エミグレアの返事はまさに傲慢そのものだったのだ。明らかに不快な顔を浮かべたケルマーだったが、エミグレアは舞い上がって気が付かない。


「なるほど、さすがに腕自慢というわけですか。私どもも、エミグレア殿がどれほど抵抗していただけるか楽しみにしておりますよ」


ケルマーがとげのある言葉を放った瞬間、エミグレアは自分の回答が如何にのぼせ上った回答だったか気が付いたのだった。


「も、申し訳ありません。私を鍛えてくださることに感動してしまって、妙なことを言ってしまって・・・」


「いえいえ、お気になさらずに。それでは、装備の方はどういたしましょうか?」


ケルマーもエミグレアに不振を抱かせるわけにはいかないので、すかさず失態を取り戻すべく振舞った。


「そうですね、行軍があれば身軽な方が、あ、いや、そのあと模擬戦であれば防具ぐらいは・・・」


逡巡しているとケルマーから提案があった。


「それでしたら、皮鎧がよろしいですね。軽量で、模擬戦で使用する武器程度では命を落とすこともないでしょうから」


「わかりました」


「皮鎧は、明日の朝までに用意しておきます。剣の方も行軍で使用する重量のある模擬剣を持っていただきます」


「何から何までありがとうございます」


「いえ、これも我が領主の意向でございます」


その夜、エミグレアはノーブル子爵と夕食を共にし、エミグレアはエッダ領のこと、父親のことそして時期男爵である兄のことを話し、ノーブル子爵からは嘗ての邪教徒討伐戦の話や、昨今のノーブル領の話を聞かされたのだった。


翌朝、まだ日も出ていないうちにエミグレアはノーブル子爵領軍の集まっているところにやってきた。装備は約束通りケルマーが準備していてくれた、鹿の皮を鞣した皮鎧と重量を稼ぐことに特化した刃引きされた模擬剣を身に着けての参加である。


エミグレアの到着を確認した指揮官が前に立ち、領軍に軍事演習の説明を始めた。その内容はいつも通りの行軍演習とその後の戦闘訓練ということだった。軍の規模はエッダ領軍より大きかった。全員で500人ほどだろうか。エッダ領軍では10人もいない魔術使いも50人ほどいるようだ。


指揮官の説明が終わると、隊列を組み、行軍が開始された。エミグレアは行軍の中央に配置されていたが、周囲と比べて浮いている自分に身を竦めていた。領軍の装備はフルプレートアーマーで、光沢のある金属の兜、鎧、ブーツでり、帯同している武器も、斧やヘビーランス、刃引きされていない両手剣など実戦の装備であった。たしかに後方には弓士や魔術使いなど遠距離職は軽装な装備をしているのもいたが、近接職ではエミグレアだけであった。エミグレアは自分がまるで軍隊に守られた迷子の子供のようだと思ったが、ケルマーから言われたこと、そしてノーブル子爵の意向ということも聞いているので、「これは訓練」と割り切って行軍についていった。


行軍すること3時間、すっかり陽も上り、開けた地で朝食となった。行軍中の食事は、大抵固くなったパン、干し肉と、お湯で溶いた薄いスープが基本である。輜重隊によって食事が配られるが、隊列は維持される。その為、隊列を組んだまま順番に配膳されている場所に行って食事を受け取るのだった。


食事中は隊列を崩すことは許されないが、その場で座ることは許可されていたため、皆思い思いの格好で座って、雑談を始めていた。


食事を受け取って隊列に戻ったエミグレアは隣合わせになっていた兵士から声をかけられた。


「そこに座りなよ」


「ありがとうございます」


「エッダ領から武者修行としてこの演習に参加する者がいるって聞かされたけど、あんたがそうなんだろ?」


「はい、そうです」


「その装備がエッダ領の正式装備なのかい?


「いえ、これは演習に参加する装備としてお借りしたものです」


「そうなのか?それにしても、行軍演習というものがどういうものか聞いてなかったのかい?」


「と言いますと?」


「演習とはいえ、巡回警備も兼ねていて、魔物が生息している地域を横断するんだ。いつ戦闘が起きてもおかしくないから通常装備で行うものなんだよ」


「そうなのですか・・・ケルマーさんからはこの装備で参加するようにと言われたのですが・・・」


「ケルマー?ああ、領主様の執事だな。軍の中だから安全だと思ったのかねぇ。武者修行だからって自分から魔物に向かっていくとか無茶はしないでくれよ」


「わかりました、気を付けます」


行軍演習のあと模擬戦だと聞いていたが、この行軍は魔物が巣食う所を抜けていくようだ。自分を買ってくれているのか、とも思ったが、自領を思い浮かべれば、フルプレートアーマーは高価だったことを思い出した。軍で支給されるこの装備は人数分を揃えるだけでも大変だったのだ。おそらくノーブル領もこの辺りの事情は変わらないのだろう。では、刃引きの剣を渡されたのはなぜだろう?魔物に遭遇して戦闘になれば軍は指揮官以下で統率された行動をしなければならない。自分はこの軍の集団戦闘について何も知らないのだから、戦列を加わることはないだろう。そう考えることで自分に武器を持たせなかった理由も腑に落ちた。つまり自分はあくまでも模擬戦要員なのだと。


朝食の休憩も終わり、再び行軍が開始された。隣の兵士とは話をしたことで少し打ち解けた感じだった。兵士が言うには、あと1時間もしたら魔物が徘徊する領域に入るということだった。魔物が離れたところに生息しており、領都近郊に現れないのは何故かと尋ねたが、わからないと言われた。なにか魔物除けの工夫がしてあるのだろう。そのことを証明するかのように、1時間ほどして、何かを通過した気がした。


前方より指揮官の声が飛んできた。


「散歩は終わりだ。巡回警備へ移行する。全員周囲に気を配ることを怠るな!」


領軍が張り詰めた雰囲気を纏った。先ほどまでとは打って変わったように兵士が緊迫していることが感じられる。


「右前方に魔物らしき移動物体を発見」


エミグレアのやや前方にいた兵士が叫ぶ。右前方の小高い丘の上に目をやると、そこには確かに生き物らしきものの存在が認められた。


「戦闘準備!近づいてきたら直ちに先頭に移れ!近づくまでは不用意な行動は起こすな!」


魔物発見即殲滅というわけではないようだ。だが、魔物はゆっくりとこちらに向かって移動してきた。


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