0.プロローグ0
見切り発車状態・・・ゆっくり進行で。
すべてが白く光っており、回りに何もないようなところだった。だが、しばらくして、光に目が慣れてくると、そこは白亜の宮殿ともいうような場所だった。静謐な気で満たされており、周囲には見たこともない白く輝く石柱が無数に立ち並んでいた。上を見ても空は見えず、建物の中なのか外なのかもわからなかった。
「ようこそいらっしゃいました」
突然声がかけられた。声の主はまだ見えず、いずこから声がしたのかと思って見回すが、人の姿は見あたらなかった。
「あなたにお願いがあります」
目の前にぼんやりと人の姿が見えてきた。いったいどこから来たのだろうか?自分の目の前に現れた人影は、次第にその輪郭も見えてきて、やがてその姿をはっきりと見て取れるようになった。
一言でいえば、絶句、である。言えてないけど。正真正銘の美少女とはこういう人のことを言うのだろう。体格では少女、だが顔に浮かんでいる笑みは慈母の笑み。その場にいるだけで、自分が赤子だったころに感じていたであろう安心感、すべてを委ねてしまうほどの安堵感に包まれた。
しばし心地よい空間に身を委ねていたが、先ほどかけられた言葉が蘇ってきた。
「あ、ああ、お願いとはなんでしょう?」
そう答える事で、現実が戻ってきた。
「世界を、混沌と化し神々の加護を失った世界を取り戻してください」
「せ、世界ですか!?」
「そうです。この世界は魔によって神々の加護が届かない世界になりました。このままではいずれ世界は消滅してしまいます」
はっきりしてきた意識で言われたことを考えてみる。
どうやらここは神々の世界らしい。そして世界というのが魔に支配されているという。だが消滅とはどういうことだ?
「質問させてもらっても良いですか?」
「はい、どうぞ」
「魔が世界を支配していると言われましたが、それならば消滅することはないのでは?いくら魔といっても自分を消滅させはしないでしょう?」
「生と死、光と影、明と暗、神と魔はそれぞれが存在と消滅の対となる存在なのです。魔はそれ自身が望まなくとも自身を含め消滅を目指す存在なのです」
「魔に支配されてしまった世界はどのように消滅をするのですか?」
「完全に魔に支配された世界は、支配が完了するとともに世界は星とともに虚空へ転移します。虚空とは私たち神や魔なども存在しない場所です。そこではすべての存在が消失し、虚無へと還元されてしまいます」
「そういう世界があるということをなぜ認識できるのでしょう?」
そう、自分自身が存在できない世界であるならば、そんな世界自体を認識できること自体が成り立たない。虚空だ、消滅だと言っても認識できなければ妄言でしかない。確かに目の前の少女は、美しく、慈愛に満ち溢れ、神だと言われても納得である。だが、魔の存在を示唆された段階で、魔によって欺かれた存在である可能性もあるのだ。
「慎重なのですね。だからこそお願いするに値する人物だと判断させてもらいました。」
「え、いや、そういわれても。ところで、先ほどの質問には答えてもらえないのですか?」
「納得いく答えになるかわかりませんが、我々とて『創造された存在』なのです。そして造物主より真理を、この世の理を伝えられ、世界の維持を命じられた存在なのです。」
「造物主が虚空の存在を神に伝えた、というわけですか」
なんだかややこしい。人は神が造物主だとして神を信仰する。だが、神も造物主によって創造されている。話を聞く限り、造物主とはこの世とは異なる存在ということになる。さらに質問を重ねてみる。
「人間の造物主は神だと言われています。そして神もまた造物主によって創造されたと。造物主とは何なのですか?」
少女はその質問に対して、困惑したような笑顔を向けた。
「人と神では役割が異なります。我々神は人に直接的な干渉はできないのです。加護を与え、信託を与え、導くのみです」
「人も神も同じ造物主によって創造された?」
「少し違いますね。間接的にはそうだともいえますが、人とは、造物主が作ったこの世界によって生み出されています」
ますます混乱してくる。人とは神とは何なのか?そして魔とは?
「だんだんわからなくなってきました。話を最初に戻すと、魔も造物主によって創造されたわけですか?支配してしまえば消滅するというのに?」
「造物主のお考えまではわかりません。神と魔は、お互い干渉しあうことはできません。唯一人だけだ、神と魔の間をつなぐことができるのです」
「だが、今の世界は魔しかいない、と」
「まだ、一部の人たちが神とのつながりを保っています。その人たちが魔に取り込まれれば、その時点でこの世界は消滅することになります」
「では、その人たちと共に魔を滅せよ、というわけですか」
「そうです。そのためわずかではありますが、あなたに知識と神の祝福を与えます。魔の存在が薄くなればあなたにさらなる神の加護が与えられるでしょう」
「わずか、ですか?」
「魔の支配力が強すぎて、充分な祝福を与えられないのです。どうかお願いします。この世界を救ってください」
そして、再び目の前は白い光で満たされ、意識が遠のいた。




