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わがままな女の子はお好きですか?

 日が昇ったころに、ジュスタはゆっくりと目覚めた。体を起こして腕で目を擦り、背筋を伸ばした。ふと、彼は隣を見て、シバがいないことを確認した。一人になった彼は手のひらを何度か握りしめた。


「どうしようかなあ」


 ジュスタは少し思案した後、部屋から出た。受付の女将に宿代はどうなのかと話しかけると、「お代は貰ってるよ、朝ごはんの分も貰ってるからそこに座って待ってな」と言われ宿に内蔵してある食堂を指差された。


 彼は言われた通りに食堂に向かい適当な席に着いた。朝だからか人は少なくない。


「隣いい?」


 言われてジュスタが振り返るとそこには女の子がいた。不機嫌そうな顔をして、少しだけ威圧感があった。


 ジュスタは無言で頷いた。彼の少し年下に見える彼女は、肩甲骨まで伸びた赤髪を揺らして席に座った。艶やかな髪は、カールがかって高貴な雰囲気を醸し出していた。


 彼女が席に座るのとほぼ同時に、食堂の店員らしき人が二人分の食事のプレートを持ってきた。ジュスタと女の子の分であった。店員は「食べ終わった食器は置いといてください」と言って離れていった。


 食事の内容は、白米、魚、野菜、それとスープという簡素なものであった。


 ジュスタは、「いただきます」と言って手を合わせてから食事を摂り始めた。どれも一般的な食材だが、ジュスタは美味しそうなそれらを頬張った。彼は笑顔を浮かべ、舌鼓をうっている。


 食事を終えて満腹になったところで、ジュスタは一息ついて冷たい水を仰いだ。


「ねえ」


 隣の女の子がジュスタに話しかけた。不機嫌そうな表情ではなくなっていたが、どこか含みのある表情である。


「どうしたの?」


「あなた、上京しようとしてるクチよね? 宿に入ったときの様子見てたけど、田舎者って丸わかりだったわよ」


 女の子は目を細めて言った。からかっている仕草に、幼げながらもどこか妖艶さが見え隠れしていた。


「確かに田舎者かも知れないけどさ、言い方ってもんがあるんじゃないの」


「うるさいわね、質問してるんだから答えなさいよ」


「別に。上京しようってワケじゃないよ。村から出て稼げって言われてここに来たの」


 ジュスタの話を聞いた女の子は、「ふーん」と呟いてそっぽを向いた。


「なんだよアンタ、自分から話しにきたくせに偉そうに」


 女の子はジュスタの言葉を無視した。彼女の態度に腹をたてたジュスタは、コップの中に残っていた水を不満とともに勢いよく飲み干した。


「なあ、嬢ちゃん暇そうだな。どうだい、俺と遊んでみないか?」


 ジュスタが太い声が聞こえて隣の女の子を見ると、ガタイの良い男が彼女を口説こうとしていた。女の子は見るからに嫌そうな顔をしている。


 ジュスタは口出ししようと腰を浮かしかけたが、コップを見つめた後に目を閉じて再び椅子に腰を落とした。


 ちらりとジュスタのことを見た女の子が、大きく頰を膨らませて不満そうにした。


「あら、ごめんなさい。この人が私の彼氏だから、しっかりとお話しつけてちょうだい。私は外で待ってるから」


 女の子はそう言ってジュスタの腕を掴んだ。突然の出来事に、彼は素っ頓狂な声をあげた。


「な、なに言ってんの! 巻き込まないでよね!」

「なんだ弱っちそうな彼氏さんじゃねえか。へへ、話つければいいんだよな?」


「ええ、それじゃ」


 女の子は立ち上がり、足早に外へ出ていった。残ったジュスタと男を、食堂の客は興味深そうに見学していた。


「ちょっとまってよ、どう考えても今のはアイツの嘘でしょうが!」


「言い訳は要らねえんだ、女を口説くには力のアピールってのが大事なんだよ。っちうことで恨むんなら自分の弱さを恨みな……ッ!」


 男は大きく拳を振りかぶり、ジュスタに向かって拳を飛ばす。大振りだったため、ジュスタは半歩だけ体を逸らしてかわした。


「アンタ、いきなり人を殴っていいと思ってんの!」


 ジュスタは男を睨んで怒鳴るが、男は依然いやらしく笑みを浮かべていた。


「もうっ! 怪我してもしらないからね!」


 ジュスタは一歩引いて男と距離をとった。お互いは、拳を構えて臨戦態勢となった。騒がしかった食堂が、二人の喧嘩を面白がって更に騒がしくなった。あまりに大きな歓声だったために、部屋から飛び出してくる人もいる始末だった。


 男は一呼吸すると、腰をひねって力強い右拳を真っ直ぐジュスタに向かわせた。重さがのった腕がうねりながら風切り音をたてる。


 ジュスタは敢えて男に近づいた。懐に潜り込むように男の拳をかわすと、男の腕を掴みあげてもう片方の手で相手の襟を握りしめる。ジュスタはそのまま体をひねり、男を強めに背負い投げた。


 空に浮き、テーブルや椅子にぶつかりながら男が吹っ飛んだ。手慣れた動作によって投げられた男は、なにがあったのか分からないといった様子で目を見開いていた。


「投げちゃって悪いね、それじゃあ俺はもう行くから。追いかけないでよね!」


 ジュスタはざわつく食堂を後に、逃げるように店を出た。彼は辺りを見回し、何かを確認すると頭を掻いた。


「外で待ってるって言ってたけど、そりゃあいるワケないよなあ」


「いるわよ」


 ジュスタが呟くと、宿屋の横から先ほどの女の子が出てきた。ジュスタは少し驚き、小さく声をあげた。彼女は口元にささやかな笑みを浮かべていた。


「見てたわよ。あんなガタイのいい男に勝つなんて、なかなかやるじゃない。なにか武道とかやってたの? 窓から見てたけど、あの背負い投げってかなり綺麗に決まってたわよね」


「村の方針で子どもの頃に武道全般と剣術、弓術は習わされたよ。あんまし得意じゃなかったけどね」


 女の子は「ふーん」と言って、ジュスタに背を向けて歩き出した。


「ちょっと、どこ行く気なの」


「来たら分かるわよ。ついでにいい儲け話も知ってるわ、どう? ついてくる気になった?」


 ジュスタは考える仕草をしたが、女の子は歩き続ける。


「どうすんのよ、早く決めてよね」


「わかった! ついて行くからちょっと待ってくれよ!」



 ジュスタが女の子について行って到着した場所は、町の中心部であった。そこは、他の場所よりはひらけた場所であり、待ち合わせ地点となって人が溢れかえっていた。


 先ほどジュスタは女の子に、「待ってなさいよ」とだけ言われたので、なにをするのか聞かされないまま待ちぼうけていた。


「待たせたわね」


 ジュスタは声をかけられ、そちらを向くと例の女の子ともう一人見知らぬ女性がいた。紫色の長い髪をまとめ、ポニーテールにしている。赤髪の女の子の可愛らしい服装と違って、上半身にはジャケットを着用し、下半身にはホットパンツとタイツいう動きやすそうな服装をしていた。ジュスタが不思議そうに彼女を見つめた。


「私の仲間よ。それじゃあ自己紹介でもしましょうか。私の名前はマカ=アルフレッド。この紫髪のはアザミ=マリセンス」


「俺はジュスタ=セルファー。好きによんでいいよ」


 ジュスタも続いて自己紹介をした。アザミが優しい笑顔を浮かべて、「よろしく」と言った。マカとは対称的に、大人びた雰囲気を醸し出していた。


「それじゃあね、さっき言った儲け話ってやつだけど、聞く?」


 マカに問われたジュスタは、首を縦に振った。


「儲け話って言うのはね、私の護衛よ。東にある都市マドラスまで護衛して欲しいの。ほら私って、か弱い美少女だしナンパとか野生動物とかに免疫ないから」


 マカは大袈裟な身振りをして話した。ジュスタは訝しげにマカを見つめた。彼女はその視線に口を尖らせた。


「なに? 疑ってるワケ? 確かにジュスタ、あなたを誘う予定はなかったわよ。でも食堂でガタイのいい男をいともあっさり倒したのを見たら、護衛に欲しくなったの。以上!」


 ジュスタは「そういうことね」と言って、乾いた笑い漏らしながら納得した。


「それじゃあ、後ろのアザミさんも護衛なのか」


 アザミは「そうだね」と言って手を差し出した。ジュスタは一瞬なにかと警戒したものの、それが握手を求める行為だと気がつくとこころよく握手に応じた。


「仕事の内容は分かった。稼ぐアテなんてないんだし、やるっきゃない。マドラスってとこまで、よろしくね」


「ええ、よろしく。今からでも出発したいのだけれど、準備はできてる? それと、きっと一日くらいは馬車の中で寝泊まりすることになるかもしれないから、そこも了承してちょうだい」


「寝泊まりはどこだっていいけどさ、準備は待って欲しいかな。いきなり言われたもんだから、食べものだとか持ってないし」


「分かったわ。それじゃあ準備もろもろするとして、一時間後に町の東口に集合よ。馬車を待たせておくから、遅刻したら置いて行くわよ!」


 マカは真っ直ぐに伸ばした人差し指を、ジュスタに突きつけた。


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