すれ違う思い
前回までのお話
主人公、三木結は15年後、32歳になった友人2人と共に未来の自分を助けることになった。
1度は諦めかけたが、獏良を作れるようになった3人。
3人に未来の結を救うことはできるのか?
8
私達は早速、獏良の作成に取り掛かった。
花は画像や動画を厳選し、私と春はどうすれば将来の私にバレることなく自然に夢の中に私達の思いを上書きすることが出来るかを話し合っていた。
私達は寝る時、夢を見ることがある。獏良は夢を見ている間に上書きさせるのだ。
ちゃんと夢を見るタイミングを図り、上書きする内容が全部入るように調整までしてくれるという。
また、起きても忘れないようにもなっているらしい。
確かに本当に夢のような機械である。
売れるのも無理はない。
「将来の私も獏良を作ったことはあるんでしょ?」
「うん。私と花と同じように大学でね。だからさっきみたいな失敗はもう出来ない。」
私と春は真剣だった。
特に私は、未来に来れる日にちが限られている。機械を作って将来の私に試す時間を考えれば時間はたっぷりあるわけではないのだ。
それにそう何度も失敗は出来ない。
将来の私を敵に回してしまったら不利な状況になってしまうかもしれない。
私達に緊張が走った。
「もう一度今の……将来の私の様子を見てみない?自然に夢の中に溶け込ませるならちゃんと観察も必要だと思うし……」
私の言葉に春はあまり乗り気では無かったが、小さく頷いて画面を見せてくれた。
言葉ではあんな風に言っていたけど、心では何か動かされたのではないか……
そんな微かな希望を持っていたが、初めて見た時と変わらない怖い表情で、また機械をいじっていた。……いや、初めて見た時よりも恐ろしく、殺気が感じられた。
あの時もっと早く本題に入っていれば……将来の私の機械が故障しなければ……
私の頭にはそんな思いがグルグルと回っていた。
「あれ……この写真……」
そう春が呟いたことでまた現実に戻された私は、視線を画面に戻した。
将来の私は不意にタブレットのようなものを取り出した。
見ていたのは、その中にずらりと並べられた沢山の写真だった。
そこには私の幼い頃からの写真が載っていた。
家族で海に行った写真。そこには旦那さんの顔と娘の音の顔も映っていた。
家族で温泉に行った写真。そこには今よりもだいぶ老けてしまったお父さんとお母さんも映っていた。
花や春と遊園地に行った写真。そこには3人の満面の笑みが映っていた。
勿論最初の方の写真は私も知っているものばかりであったが、最後の方は私の知らない沢山の思い出が載っていた。
どの写真もみな幸せそうに微笑んでいた。
春の方に視線をうつしてみると幸せそうに、また懐かしそうに微笑みながら、今より少し成長した私と、春と花の3人で写っている写真を指さして思い出話を私にしてくれた。
まだ私の知らない少し未来の思い出に胸がワクワクした。
将来の私はというと、微かではあったが、幸せそうな優しい目に戻った気がした。
―だがそれも気のせいだったのかもしれない。
そこに映された写真を一通り見ると指でそれをなぞっていった。
そして将来の私は削除のボタンを指で押した。
沢山の思い出で埋め尽くされていた写真はみるみるうちに消えていき、気づいた時には写真のフォルダーは0になっていた。
そして、0になったフォルダーを見ると
「これでいい。」
そう将来の私は真顔で言うとタブレットのようなものをしまった。
「結……どうして……」
春は弱々しい声でそう言った。
涙は出ていなかったが、やはりショックは大きかったのだろう。
目は潤い、頬はピクピクと痙攣したように震え、唇を噛んで、涙を堪えているようにも見受けられた。
「春……」
何か声をかけなければと思ったが、何も言葉が浮かんでこなかった。
私は開きかけた口を閉じ、目を伏せた。
「春、結どうしたの?」
先程まで無我夢中でタブレットのようなものをいじっていた花が私達の異変に気づいたようだった。
私は伏せていた目をあげ、春の方を見ると、春は
「ごめん。少し頭を冷やしてくるから。」
と言い、急いで会議室を出た。
残された花は何が起きたのかわからないというような表情でこちらを見ていた。
とてもスラスラと話せる内容では無かったが、残された私は春に変わって花にさっき起きた事を説明した。
私が話し終わるととても落ち込んだ表情をして見せたが、深く溜息をつくとすぐ笑顔になって私に春を呼んでくるようにと言った。
私は花の言葉に少し驚いたが、小さく頷いて花を探しに出かけた。
工場の中をひたすら探していたが、あまりにも広くて1人で見つけるのは困難を極めた。
それでも、これは将来の私がしたことである。
あっちへ行ったり、また戻ったり……
そんなことをしているうちに段々と疲れ、お腹がすき、力がなくなっていくのを感じた。
グーグー鳴り響く私のお腹に私は誰もいないのに……いや、誰もいないからか、恥ずかしさが胸の底からふつふつとこみ上げてきた。
15:00にお昼食べたのに……食いしん坊かよ?!
自分のお腹に自分でツッコミを入れるという、なんとも寂しいことを繰り返しながら私は春を探していた。
とうとう私は屋上の扉の前までたどり着いた。
外は雨である。季節は冬。時計を見ると針はもう少しで19:00をさそうとしていた。寒くないわけがない。
「流石にここには人は来ないよね。そもそも、屋上なんて開くわけ……」
そう思っていたのとは裏腹に、いとも簡単に扉は開いた。
鍵は付いているのに……誰かが開けたのだろうか?
そう思いながら恐る恐る扉を開くと奥に人影が見えた。
ぽつぽつと灯る電灯がなければ気づかなかっただろう。
外はすっかり暗くなっていた。
「そこに誰かいるんですか?」
私は恐る恐るその人に近づいた。傘を持っていなかったので着ていたパーカーで雨に濡れるのを凌ぎがら近づいていった。
……全くもって凌げていなかったとおもうけど……
バッ
私はその人の手を咄嗟に取った。
なぜなら、そこに居たのは春だったから。
春が立つ少し前には柵があったがよく見てみると人が通れるであろうほどの大きさに穴があいていた。
この穴を抜ければ飛び降りることも出来るだろう。
「結?」
春は不思議そうにこちらを見ていた。
「春、死んじゃダメだよ。確かに辛かったかもしれないけど……でも、こんなことで死んだらダメだよ!!春がいなくなっちゃったら私、私!!」
興奮のあまり私は寒さを感じる身体とは裏腹に目頭が熱くなってきた。
「結……何言ってるの?私死ぬ気別にないけど……」
……へっ?春の言葉に私は思わず間抜けな声が出た。
恥ずかしさのあまり咳払いを1つして、立て直そうと思ったのだが……
「だって、この穴!なんでこんなややこしいところにいるのじゃ?!」
さらに酷いことになってしまった……
……興奮のあまりか将又、寒さのあまりか私はわけのわからない言葉を話始めた。
いや、これは寒さのせいにしておこう。
しまった!と思ったが、私の言葉に春はお腹を抱えて笑い出した。
それを見て私も思わず笑ってしまった。
「それで、なんでこんなところにいるの?」
雨は先程よりだいぶ弱まってきたが寒さは相変わらず尋常じゃなかった。
それでも、慣れか、ただ自分の身体が麻痺しただけか、寒さを感じなくなっていた。
私の質問に春はこれ、と指をさして応えた。
春が指したのは大きな穴……ではなく微かにその右斜め上の方だった。
「春、これ……」
私の言葉に春は小さく頷き、私の顔を見て優しく微笑んだ。
10日間のうち4日目
未来 3日目