もう1度
前回までのお話
主人公、三木結は15年後、32歳になった2人の友人と共に未来の自分を助けることになった。
iceでの失敗を経て諦めかけたが、結はあるアイデアを思いつく。
結が思いついた方法とは?!
3人に未来の結を救うことはできるのか?
6
パスタを食べ終わると私は早速話を切り出した。
「ね、3人での思い出とかないの?」
春と花は暫くポカンと口を開けたままだった。
最初に応えたのは春だった。
「え……何急に……」
「そりゃ、それなりの付き合いだし……ないことはないよ……」
ねぇ、と春と花は声を揃えて言った。
遊園地やカラオケに遊びに行ったこと、カフェを巡ったこと、家でお泊まりしたり、勉強会したり……
沢山の思い出を花と春は楽しそうに話した。勿論私が知っていることもあったが、知らない事の方が多い気がした。
「じゃぁさ、3人で撮った写真とか動画とかないの?こう、思い出を思い出せるような……」
「それはあるけど……確か花のパソコンに全部まとまってなかったっけ?」
「うん。あるよ、あるけど……結、何が言いたいの?何に使うの?」
私がニヤリとすると真剣な眼差しで……でも何処か怯えているように2人は見つめてきた。
「私、褒めてもらうのが好きなの。よく勉強するの好きなの?とか聞いてくる人がいるけど、別に勉強が好きなわけじゃない。
ただ、1位になると皆褒めてくれるから。だから今の所はずっと試験でも学年1位なの。」
「うん。知ってるよ。結のことずっと追いかけてたもん。卒業するまでずっと学年1位キープしてたし。
1回くらいは超えたかったな……」
「そういう春だってずっと3位以内キープしてたじゃない。」
「え、花もでしょ?まぁ、私達はずっとお互いがライバルってとこ何処かにあったよね。」
春と花はいいライバルだねと嬉しそうに話した。
私は話を続けた。
「1位になれば皆が褒めてくれる。でも、1番に褒めて欲しいのはお父さんだった。もう意地だったのかもしれない。認めて欲しかったっていうのが本音かな。
早く認めてもらって、ロボットを作りたかった。この間までの私の頭の中はロボットでいっぱいだった。ロボットの事しか考えてなかった。友達や将来の事よりロボットの事ばかりだった。」
花と春は私の方を真剣に見つめ、私の話に耳を傾けていた。
「だからね、今回初めてiceを作ってとても楽しかった。
でも、それは花と春がいたから。」
「私と花がいたから?」
「そう。さっき2人の様子を見てて改めて友達って良いなって思った。最近は忘れてた、そんな感情。
今の……32歳の私も多分忘れてるんじゃないかなって思うの。3人での思い出を思い出せば……そう思って。私がいる時代では研究途中だったから、あるかわからないけど、夢枕っていうのが……」
「獏良?」
私が言い終わる前に春が聞いた。
「名前は確かまだ……」
私が答えると今度は花が話始めた。
「うん。私達が確か大学生の時に完成して名前が発表されたから。多分結が言ってるのは獏良のことだと思うよ。
それを使って結の頭の中に私達の思い出を書き込むってこと?」
「そう。春と花はその……獏良作れるの?」
私がそう問うと花と春は難しい顔をした。先に応えたのは春だった。
「今は少し難しいかも……色々あったみたいで……」
春は花の方を見つめた。
「そっか、春は留学中だったもんね。」
春は静かに頷いた。花は話を続けた。
「獏良は、私たちが大学1年生の春に完成した。第1号は大きな枕で、それで寝ると自分の頭の中に入れたい情報が入る。
それから飛躍的に進歩してその年の冬くらいかな。その時には自分の持っている枕の中に入れられるシートみたいなものになってたけど。」
「その時は私もいた。すごい世間で話題になって飛ぶように売れた。今の形になる少し前くらいに留学することが決まった。
親がうるさくてね。別に私はまだ行きたくなかったんだけど、父親が学校に海外に行かせるって勝手に言って……短期留学だったけどね。それで行くことになった。」
「春が海外に留学している間もどんどん売れて新作も出た。勿論それ自体は悪い事じゃないんだけど、悪用する人が出てきたの。
テストや受験で前日に使う人が増えてきた。それがどんどん問題になって、連日メディアに取り上げられた。流石に家で獏良を使ってきた人とそうでない人を見分けることが出来ないから、使用禁止になった。」
「花も春も作ったことない?」
「作ったことはある。大学で理系クラスは授業の中で作ることが出来たから。春も留学から帰ってきてその授業を受けてたから作れると思うよ。
iceほどスムーズに出来るかはわからないけど……」
春は私の方を見て小さく頷いた。
「じゃあ、作ろうよ。受験関係ないし別に大丈夫でしょ?」
春と花は少し口ごもった。暫くして口を開いたのは花だった。
「私達が獏良を作ったことがあるように結も一緒に作った。つまり、結に……将来の貴女に使うとしたら最新のシート版を使うことになる。最初の方のは枕が変わったりしてしまってバレる事を考えると最新版を使うでしょ?」
私は小さく頷いた。
「でも、そのシートは特殊なもので出来てる。そう教授は言ってた。私達はまだ大学生だったから何で出来てるかまでは分からなかったんだけど……私達は渡されたシートにそのまま、脳に書き込みたい事を上書きするだけだったから。」
「今そのシートはもうないの……?」
花と春はほぼ同時に頷いた。
「ないどころか、買ったものもみんな政府が取り上げて燃やした。ニュースでは危ないものが入ってるって言ってたけど教授はそんなことは無いって言ってたから、多分燃やすための口実だったんだと思うけど……だから1枚も無いはずだよ。」
春がそう言うと花は小さく頷いた。
いい案だと思ったんだけどな……
そう肩を落とすと花と春も少しガッカリしたようだったが、2人は優しく励ましてくれた。
また1からか……
暫くまたいい案はないか考え込んでいたが……もう何も出てこなかった。
……なんだ、あれ。
私の視線は会議室の奥のクローゼットの扉の下の方にあった。今の今までクローゼットは壁と同化し気づかなかったが、なにかの拍子で開いたのだろうか。黒……いや、紺か……布のような物がはみ出ていた。少しキラキラと光り、綺麗だなと思った。その綺麗さに惹かれて私はその布に近づいた。
触ってみると思った以上にスベスベして触り心地がよく、長方形のような形をしていた。今……私がいる時のもので例えると……
夏に枕に敷くようなひんやりとしたものに似ている。
振り向いてみると、春と花は真剣に考え、話し込んでいた。
「ねぇ。ねぇ。」
2回目、少し声を大きくすると、2人はハッとしたように振り向き、どうしたの?ときいた。
「これ、何?」
私が謎の物体を持ち上げて聞くと春と花は少し怖い顔をしながら、私に近づいた。
「ちょっとそれ貸して。」
花にそう言われて渡すと春も一緒に触り、ハッとした顔をした。
「もしかして、これ……!え、なんで……信じられない。」
2人は互いに顔を見合わせてそう言うと険しい顔をした。
「え、これ何?」
「結……でかした。よく見つけたね。これどこにあったの?」
……話噛み合ってないと思うけど。そう言おうとしたが興奮気味で聞き返してきた春の様子に圧倒され、春に聞かれたまま応えた。
「え、いや、あのクローゼットの所だけど……」
花と春は急いでクローゼットの扉を開いた。
2人は顔を見合わせるとまた急いで避難用の地図を見た。
2人は互いに顔を見合わせるとニヤリと笑った。
そして私の方を見てVサインをした。
私だけ状況が把握出来ないまま、春と花は不敵な笑みを浮かべていた。
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