残された思い
前回までのお話
主人公、三木結は15年後、32歳になった2人の友人と未来の自分を助けることになった。
彼女たちの思いは未来の結に伝わるのか?!
5
「私の何がわかるの?幼馴染だからって全部わかるわけじゃないでしょ?相談したって無駄。それに……」
「それに……何?結何が言いたいの?言いたいことがあるならはっきりと言って。」
将来の私が言葉を濁すと花は怒った様子で聞き返した。それを聞くと将来の私は少し目をそらして
「人はいつか裏切る……」
そう呟いた。悲しい目だった。
「兎に角、私の事は放っておいて。貴女達には関係ない。」
そう言い切ると春と花が呼ぶ結の名に振り向くことはなく、踵を返してまた研究室に入っていった。
部屋に残された私達は暫く肩を落としていた。
……やばい、トイレ行きたい……なんでこんな時に……
シーンと静まり返った中で扉を開けるのは勇気がいる事だ。しかも、ただならぬ空気の中で。
うわ、どうしよう……でも、無理……
私はとうとう我慢が出来なかった。
恐る恐る扉を開けると花と春は驚いた顔をした。
「あぁ、ごめんね、結。貴女にこんな所見せ……」
花が私に話しかけてくれたが我慢出来なかった私は
「ごめん。」
と花の言葉が終わる前に言った。思いのほか大きな声が出て自分でも驚いた。
「なんで結が謝るのよ。」
春は悲しい目をしたまま優しく微笑んだ。
「あの……トイレ……トイレ行きたいんだけど……」
私の言葉が2人の思いの反するものだったのか吹き出して笑い始めた。
「ごめん、ごめん。トイレね。場所わかる?」
私は春の言葉に頷くと走ってトイレにむかった。2人は優しい顔をしていた。
トイレから出ると、春は
「なんか、和んだ。ありがとう。」
と言い花も頷いた。……和ませるつもりもなかったけど、2人が優しい顔に戻ったのでよかったと思った。
「でもさ、結の機械の故障は計算外だったね。」
先に口を開いたのは春だった。
「いゃ、あれは計算のしようがないでしょ。」
春と花の会話に私だけがついていけないまま2人は大きな溜息をついた。
「……あの、故障ってあの機械の警告音みたいなやつのこと?」
私がそう聞くと2人は私の方を見て、あぁ、と頷いた。
「そっか、結はこの工場の会議室周辺しか入ってないもんね。春、あれ持ってきて。」
はーい。春はそう言うと会議室の奥の方から地図のようなものを持ってきて、机の上に広げた。
「これ、地図……?」
「そう。結は初めて見るよね。これは避難用の地図。ここの建物の構図がかいてあるの。」
「地図は紙なんだね。機械とかだと思った。」
春の説明に私が問うと笑顔で花が応えた。
「普通の地図とかは機械だよ。でも避難用は紙。機械だと災害があった時は上手く使えるか分からないからね。」
なるほど……この時代にも紙まだあったんだ。……今のはちょっと紙に失礼?
「おーい、結ー。何ぼーっとしてんの。説明はじめるよ。」
考え込んでいた私の顔の前に手を振りながら春はそう言った。ごめん、大丈夫、と私が言うと春と花は説明を始めた。
機械の故障は何でおきたかわからない。そもそも故障かもわからないそうだ。あの機械自体将来の私が1人で作ったものだという。
私達がいる会議室は将来の私がいる研究室の隣の隣……もう一個隣がついたかな……兎に角本当に近い位置にある。
恐らく……の話だそうだが、あの警告音がなった時あの機械からは強い電波が出ていてそれがiceに影響を与えた。
いつもはもっと実験をしてからだが時間が無かったので出来てすぐ実行に移した。それも仇になってしまったのかもしれない。
その結果iceからノイズ音が出た。
疑いを持った将来の私は電話の発信源を調べあげた……
それが花と春が考える先程までの様子だと言う。
大体の事が話し終わると春は
「でも、あんな結の顔久しぶりに見た。」
と嬉しそうに言った。花も嬉しそうに頷いた。
だが、花は大きな溜息をつき、天上をみると
「もう限界かな。これ以上の事は……もう無いよね……」
と言った。春は何かを言いかけたが口を結んで何も言わなかった。
折角未来に来たのに……まだ後4回チャンスはあるのに……
でも、もうアイデアは……
そう思っていると春はそれを見かねたように
「結もう、いいよ。ありがとう。わざわざ来てもらったのにごめんね。」
そう言った。寂しい目だった。思わず頷いてしまいそうになった。
もう無理だよ、どうせ何も出来ない。このまま帰ろう。
心の悪魔はそう囁く。
何か出来ることはあるはず。将来ああなりたいの?このままじゃ、私の将来は結局ぼっちじゃん。それでいいの?
心の天使はそう囁いた。
「結、どうした?帰る?」
春に聞かれて急に現実に戻ってきた。春も花も心配そうにこちらを見てる。ごめん、そう言って続いて話した。
「帰らない。帰っちゃ駄目なんだよ。これは私の将来の事だもん。今ここで帰ったら私の将来は変わらない。いつかこうなっちゃうのかなってビクビクしながら生きていかなきゃいけない。そんなの……そんなの嫌だよ。今まで何処か他人事に考えてたけど、これは私の事なんだよ。私の問題だから……」
「結、分かった。分かったから。私達も協力する。一緒に頑張ろう。大丈夫。頑張ろう。」
花はそう言って私の肩を抱いた。いつ以来だろう。久しぶりに泣いた。人前で泣くのは恥ずかしい事だと思っていたが、まるで赤ん坊のように泣きわめいた。春も加わって3人で抱き合って泣いた。
グー。私のお腹がなった。
「もう、結。ムード台無し。」
春がそういうと涙でぐしゃぐしゃの顔を3人で見合わせて笑った。
「あ、もう15:00だよ!これじゃお昼じゃなくておやつだよ。よし、私が作ってあげよう。簡単なものでいい?」
花にそう聞かれた私達は元気よく頷いた。
花の作ってくれたパスタは本当に美味しかった。
「なんで、花はこんなに料理が上手なのにまだ独身なの?」
食べながら私は聞いた。今考えてみればだいぶ失礼な質問だと思うが花は笑いながら、なんでだろうねと言った。
「花ちゃんはピュアだから、元彼さんが忘れられないんですよね。折角可愛いのに勿体無い。ほら、結知らない?高校で同じだったと思うけど……確か、春風的な名前の……」
花は最初あわあわとした感じだったけれど、名前が出た瞬間、春の口を抑えた。春はングング言い、顔を真っ赤にして机を叩いた。それに気づいたのか花は手を離し、ごめんと言うと
「私を殺したいのか!?」
と少し息があがったように春は言った。
「春風……って春風翔?え、花付き合ってたの?嘘、結構もててたよね、あいつ?」
「あ、それそれ。花転校してきて、まぁ、この可愛さだからね。もう学校の中じゃ知らない人はいないくらい公認の仲だったよ。まぁ、大学は同じ所行ったけどその後会社が違くて中々会えなくなって別れちゃったみたい。それで……」
「もう私の話は良いから。ほら、食べろ。」
花はそう言うと春の口にパスタを持って行って無理やり食べさせようとした。
「花様、ごめんなさい。もう言わないから殺さないでー。」
その2人の様子に私は思わず吹き出した。春は、笑い事じゃないと言いながらも花とほぼ同時に笑い出した。
やっぱり友達っていいな……
そんな感情が私の心を満たした。
最近、ロボットを作る事に必死で忘れかけていた気がする。
きっと将来の私も忘れているんだ。
思い出せたらな……何か思い出すきっかけがあったらな……
……思い出すきっかけ?それだ。思い出すきっかけを作ってあげればいいんだ。
バッ
私は立ち上がると、思いついた、そう言った。
花と春は暫く口を開けてポカンと同じような顔をしていた。
「思いついたよ。新しいアイデア。難しく考えちゃダメだね。えっとまずは……」
「結、わかった、わかったから。まずはご飯を食べてお皿を片付けてからにしようか。」
興奮して矢継ぎ早に話始めた私を花は宥めた。
「うん。」
満面の笑みで頷く私に、花と春はまるで状況が追いつけていないようだった。
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