私に届け!
前回までのお話
主人公、三木結はひょんなことから15年後の未来へ行くことになった。
17歳の少女は32歳の未来の自分を救うことが出来るのか?!
4
私達は早速iceの作成に取りかかった。
最初は難しかったが春と花が丁寧に教えてくれたおかげで、初めての制作だったのに、時間をわすれてしまうほどとても楽しかった。
小さい機械ではあったが細かい作業も多かったので半日では到底終わらなかった。
それでも何度も作ったことのある花と春のおかげか、それともハイピッチで凄い集中力で作ったおかげかなんとか1日半で作り上げることが出来た。
「終わった」
3人の声が一斉に会議室に響き渡るとグーとまたお腹の音もほぼ同時に響き渡り私達は顔を見合わせて笑い合った。
「そう言えばお昼ご飯も食べてなかったね。そろそろ19:00にもなるし、夜ご飯にしようか。私と春で夜ご飯を作るから、結は帰る準備しな。ほら、春やるよ。」
「お腹が空いて力が出ない…」
そう死にそうな声で言うと春はコテっと机に頭を伏し、花はもうと言って笑った。
その様子を見て帰る準備をし始めた私まで笑うと、笑い事じゃないくらいのお腹のすき具合だよ、これはと熱弁していた。
私と花はまた顔を見合わせて笑った。
同い年だと言うのにまるで春は妹のようだ。結局、花は1人で料理を始めた。花の作った料理はこれまで食べたものの中で一番と言っていいほど美味しく感じた。
勿論普通に美味しかったのもあったのだろうが、お腹が異常に空いていたのと、一日半かけて頑張って作った達成感というのもあったと思う。
次の日、会議室に入るとiceには私の……将来の私の娘である音の声がもう入っていた。
私達は言葉を決めて代表して私が語りかけることになった。
あったことも無い子の真似をするのは難しいように思えたが、何度も音の声を聞き喋り方の特徴をなんとか捉えた。
後は電話で話すだけ。物々しい空気の中私は将来の私に電話をかけた。
出ないこともあるかと思っていたが、思いのほかすんなりと私の電話に対応した。
「もしもし」
枯れ果てた、少し低めの声が耳に響いた。画像で表情を確認してみても頬は下がったままで無気力な様子だった。
「もしもし」
しまった、と思った。ママと言うはずだった台詞が不安と緊張からか声が少しかすれ間違えた言葉となって出た。
まずい、なんとかしなくては、そう思いママと言いかけた瞬間、画面のなかの表情がふと柔らかくなった。
「音……音なの?音……」
そう何度も音の名前を繰り返し、声は震え段々と言葉はぼやけ、目には涙が溜まっていた。
「ママ……」
自分の想像よりはるかに自然とその言葉が発せられた。
音、元気?ちゃんとご飯食べてる?パパとは仲良くしてる?毎日楽しい?そんな言葉を矢継ぎ早に話しかけられ、私はうんと頷く事しか出来なかった。
画像にはさっきまでは想像もできないくらい柔らかい表情で涙がとまらない様子であった。涙を堪え切れないのか次第に言葉が途絶えた。私は涙ぐむのを堪え、話しかけた。
「ママは?元気?」
決められた台詞を将来の私に向けて話しかけた。
我ながらあの短時間でよくあったことも無い子の特徴を捉えたと思う。
暫く雑談が続いた。更に将来の私の表情は柔らかくなり、先程までの様子からは想像できないほど楽しそうだった。
よし、順調。このままいけば……そう思いそろそろ本題に入ろうとした時だった。
将来の私の研究室の1つの機械が故障をしてしまったのか、大きな警告音のようなものが流れ出した。
「音、ちょっと待ってね。」
そう将来の私は言い電話を置くと、機械をいじり始めた。
ほんの少し経っただけで機械の音は消え、電話をとるとごめんね、と言ってまた話始めた。
「ママ、あのね……」
私が話始めるとどこからかズーッとノイズのような音が聞こえた。なんだこれ、そう思っていると私、春、花だけでなく将来の私の顔まで顔を顰めていた。
暫くそうしていると将来の私の目が見開かれた。
何やらパソコンらしきもので慌てふためいたように打ち始めると、春と花も顔を見合わせて急いで機械をいじり始めた。
え、何……
未だ状況が分からず顔を顰めているのは私だけだった。
先に手の動きをとめ、溜息をついたのは将来の私だった。
「貴女……誰?」
画面上に映っていたのは、初めて見た時と同じ恐ろしい顔をした将来の私だった。
その様子を見て、花と春はそろって大きな溜息をついた。
状況についていけない私を他所に、将来の私は研究室を出て、私達のいる会議室に向かってきた。
花と春はアタフタし始めたが、急いで電話を消し、機械を隠すと私に隠れるように指示をした。
私が隠れるのとほぼ同時に将来の私は入ってきた。
「さっきの電話は何?」
涙はもう乾き、花と春を見ると怒ったように言った。
花と春は何も無かったようにしようと思ったのか話をそらそうとしたが、もう手遅れのようだった。
「誤魔化さないで。もうわかってるの。さっきの電話の発信源はここだった。どうせiceでどっちかが声を変えて話しかけたんでしょ。何がしたいの?私の事馬鹿にしたいの?」
あまりの将来の私が出す気迫に私は恐怖で声が出なかった。
バチン
春の手が将来の私の頬にあたる音が会議室中に響き渡った。
花が驚いた顔で春の顔を見るのを他所に春はすごい勢いで話始めた。
「馬鹿にしたいわけないじゃん。うちらだって結の事心配してるんだよ?最近あんま寝てないみたいだし、ご飯だってあまりたべてないでしょ?折角久しぶりに話せたと思ったらそれ?悩んでるんだったら私達に相談してよ。苦しいなら話してよ。前みたいに笑って……」
春は涙が堪えきれないようだった。花も目に涙を溜め、春の震える肩に手を置いた。
お願い、将来の私、目を覚まして……
ほんの少しの隙間から見える様子に祈るようにして私は待っていた。自分のことなのに何も出来ない自分がもどかしい。
将来の私は春の話を聞いて暫くの間うつむいていたが、顔を上げるとまた優しい顔になった。
やった、心に響いた、私は嬉しくなった。
しかし、その喜びはすぐに裏切られることになる。
10日間のうち2日目の午後~4日目まで
未来 3日目