貴女は誰?
前回までのお話
主人公、三木結はロボットを作る事に興味がある女子高生。
高2の冬、結の部屋に突然、謎の美女が現れる。
彼女の正体は一体?!
(ころんでむすんで。ー出会いーより)
2
「それで貴女は誰ですか。」
部屋に運んだオレンジジュースが半分程に減り、ようやく冷静になった私は謎の美女に訊ねた。
「あ、まだ自己紹介もしてなかったわね。」
可愛らしくてへっという顔をすると崩していた足を正座に直し自己紹介をし始めた。
「私は河西花。」
「花ちゃん……?幼い頃一緒に遊んでた……」
「覚えててくれたの?嬉しい。」
そう言うと河西花と名乗る美女は私の手を強く握り満面の笑みを浮かべた。
ほんの少しの間嬉しそうにしていたが咳払いを1つするとすぐにまた自己紹介を続けた。
「私、未来から来たの。」
「未来?」
「そう。私は今32歳。貴女達が生きてる世界から15年後から来たの。これから言うことは少し信じ難いかもしれないけど、全て本当のことだから。なるべく冷静になって聞いてほしい。結には出来ると思うから。」
そう言うと私を真剣な眼差しで見つめた。冷静になって聞けるという自信なんてない。今言われた未来から来た32歳の河西花だなんて信じられるわけもない。
しかし、その緊迫した眼差しに覚悟を決めなければいけないと本能で感じた。戸惑いは隠せなかったが私が黙って頷くとありがとうと笑顔で言って話始めた。
「私と貴女と春は丁度これくらいの時期、正月が明けたくらいの時だったかな。とにかくある日突然、偶然に出会ったの。再会したって言うべきかな。私ずっとお父さんの仕事の都合で色々な所を行ってたからまさかまたこの場所に戻ってこれるなんて思っても見なかった。
私達は久しぶりだったからカフェでお茶を飲みながら色々な話をしたわ。勿論将来の事もね。皆S大の約束を覚えてて行こうっていう話にもなった。春の話だと結はあまり覚えていなかったみたいだったけれど……」
「それで私達は3人でS大に?」
「うん。3人とも頭が良かったから割とすんなり入れたわ。卒業後は3人で結のお父さんの会社に入った。春は最初に家庭を持った。結も結婚して27歳で子供を授かった。私はまだだけどね。
すごく幸せそうだったわ。でも幸せはそんなに長く続かなかった……
私達が30になった頃結の父はなくなったの。突然の事だったからね。とてもショックだったみたい。しばらくは泣いていたんだけどその時音ちゃん……貴女の娘の名前。音ちゃんの笑顔が結を立ち上がらせた。
結は社長になったわ。勿論頑張ってはいたの。でも努力は報われなかった。大きな事故が結をこわした……」
1粒の綺麗な涙が流れると少し上を向いた。
自分を落ち着かせるようにするとまた続きを話始めた。
「今でいう電車のようなもの。でも少し違う。fusyっていう乗り物なんだけどね。過去に行くことが出来るの。私達が29歳の時に作ったのよ。それが事故を起こした。それも大事故でね。
fusyは決められた燃料を入れなければならなかった。空の上を走り宇宙を超えて過去に行くんだからまぁ当然の事ね。それを入れる係の人がいたんだけど仕事を怠ったの。
後で聞いた話だけど……結に恨みもあったみたいでね。」
「恨み?」
「そう。貴女は何でも完璧にできる人だから。完璧に出来るのが当たり前だと思ってしまう人だから。それが貴女のいい所でもあるのだけれど事故を起こした彼女はあまり器用で無い人だったからよく結から注意を受けていて、それが結が社長になった途端堪忍袋の緒が切れてしまったみたい。
充分に燃料がなかったfusyは1本は宇宙の中に消えもう1本は空から堕ちた。乗っていた人は勿論下にいた人までかなり多くの命が奪われてしまった。今までで最大級最悪の事故と言われたわ。事故を起こした彼女は勿論罪を償い、当時社長だった結も謝罪をした。こんな事故を起こしてしまったのだからとfusyが走ることも国により当面の間禁止された。
しかし、それで終わることにとどまることが出来なかった。興味本位から野次馬が会社に殺到し、毎日のようにメディアが騒ぎ立てた。事故が起こる前からロボットは人の仕事を奪うと言われて、あ、fusyも無人運転なの。法律によって作る量に制限がかけられたり、出来上がるまでに行われるテストも年々多くなっていたんだけど、この事件をきっかけに更に厳しくなった。
会社の人々は次第に結の陰口を言い出した。それどころか結のせいにして次々と辞めていった。結の疲労は家族に向かっていった。まだ子供が小さかったから結の旦那は子供を連れて家を出た。
それから結は更におかしくなっていった。1人で研究室にこもり私達の言うことに耳を傾けることもなくなった。そしてこの前聞いたの。
……皆消えてしまえばいいと。どこまで本気かはわからない。でも結は天才だから。やろうと思えばなんでも出来るはず。私達だって手は尽くした。お願い結を助けて。」
最後の言葉は涙でかすれて聞こえずらかったが思いの強さは伝わってきた。
「今の話本当なんだよね?」
「勿論。こんな物語私に作れると思う?確かに信じられないような事かもしれないけど、でも」
少し早口で焦るように話始めた花の言葉を少し遮って話した。
「わかった。私だって助けたい。将来の私の事だもん。でもどうすれば……今の私に出来ることなんて……」
「貴女は結を助ける最後の頼みなの。大丈夫。貴女なら出来るはず。とりあえず現状を……
貴女から考えると15年後の未来を一緒に見に来て。」
花は家で一晩を過ごした。両親には勉強を教えてもらい遅くなってしまったので泊める、等と適当な事を言って誤魔化した。
彼女は布団の中で何度も私の名前を言いながら涙した。申し訳ない、という気持ちを抱えながらこんなに真剣になってくれる友達がいるということを未来の私に教えてあげたいという気持ちになった。
翌朝、私と花は6:00に出られるよう必要な物をリュックに詰めて準備をし、fusyが置いてあるという森影を目指して歩いた。
fusyはあの大事故の中、奇跡的に運休見合わせをしていた1本だけが残っていた。ただ、国から禁止されている乗り物に勝手に乗っているわけなのであまり他言はしないようにと何度か注意を受けた。
燃料もわずかだけ。量的には花の帰りの分とあと7回くらい。
電車に乗れる時間は決まっている。6:00と20:00。その時間が宇宙に打ち解けるのに丁度良いらしい。滞在可能時間は14時間。
周囲の人にはばれると大変なことになるので記憶を上乗せするキオクカプセルを使った。その中には蝶々のようなものが入っていて空から記憶を上乗せする作用をしてくれるそうだ。その効果は1日。残っているのはわずか7個。
つまり、私が未来の私を助けることが出来るのはわずか7日間分のみなのだ。そんな事を花は全てfusyの中で詳しく教えてくれた。
未来に行くまではかなり時間がかかったように感じたが現在を出たのも未来に着いたのも私の腕時計は6:00を指していた。
1秒も経っていないのは流石におかしい。その思いが伝わったのだろう。優しい笑みをこぼしながら教えてくれた。
「宇宙には私達が使っているような時間というものはない。私達が普段使っているような時計は宇宙に入った瞬間動かなくなるようになっているの。壊れないようにね。
だから、時計の針が1秒も動いていないのよ。時がとまっているというわけでは無いんだけど、時の進みが私達より大きな流れで進んでいるから。この話は少し難しいかな。
あまり長い間宇宙にいることは大変だからそんなに長くはいない。でも過去に行く事はそう簡単ではないからそんなに短くはない。説明も難しいな。」
少しこんがらがったような顔をして、でも、と話を続けた。
「長く時間がかかったように感じたのは実際に長くかかった云々より初めて行く場所だし不安もあってそう感じてるんじゃないかな。慣れるとあまり気にならないものだよ。」
確かにそうかもしれない、漸く私が納得し頷くと花は満足気に頷いた。
10日間の物語のうち1日目、2日目の内容です。