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出会い

登場人物


三木 結

主人公。高校2年生。ロボットをつくることに興味がある。学年1位の優等生。


矢坂 春

結と同じクラスで幼馴染。学年3位以内に入る優等生。


河西 花

結と春と幼少期仲が良かった。父の仕事の都合で遠くに引越し、今は疎遠になっている。


太田先生

結と春のクラスの担任かつ物理の先生。大柄な体格で声も大きい。


結の父

S大学出身。ロボット工場を立ち上げる。仕事に熱心で結の憧れの存在。


結の母

父と共にS大学出身。専業主婦。


結の父の会社の人物。


1

「期末の答案返却するぞ。」

がっしりとした体つきの先生が入ってきた。担任のそして物理の太田先生である。あぁーといった残念そうな、でもどこか面白がっているようなそんな声が教室のあちらこちらから聞こえてくる。


木枯らしが吹き寒さは教室まで入ってくる。外を歩けば白く息がかかり、歩く人々は服に埋れるように厚着をしている。その様子からももうすっかり冬であることを否が応でも感じさせる。教室の中はストーブが本当についているのかと疑いたくなるほどの寒さだ。そろそろ受験を控えている高2生にとってテスト返しは恐らく重要なのだろう。生徒の表情は外の寒さからかそれとも不安からか固く感じる。しかしいざ自分の答案が返却されると外の風が聞こえてくるほど静かだった教室に声が起ち始めた。


私は観察する事が好き、というより観察する事で本物に近づけるにはどうすればいいのかと考えることが好きである。だから試験返却は割と好きな時間。皆の表情がコロコロと変わってなかなか面白い。他人には珍しいと言われるけど。


「今回も100点は三木だけだ。」

太田先生は満面の笑みで私の答案を返却した。彼の笑顔は何度見ても七福神にしか見えない。吹き出すのを必死で堪えて答案を受け取った。すごいとか、やっぱり敵わないとかそんな声が聞こえてくる。天才だからとか。またこの反応かと内心残念に思いながらも今日こそはロボットを作らせてもらえるかもしれないそんな希望が胸にふつふつと湧いてきた。


幼い頃から他人に比べれば勉強はできる方だと思う。一度見れば大抵の事は覚えられるし、皆が言うような苦労もきっとしていない。でも何もしてない訳じゃない。それなりには勉強もしている。


「来年の受験は楽しみだな。」

太田先生は教室中に響き渡る大きな声で笑った。正直おめでたい人だなと思う。先生の人生が変わる訳でもないのに。

「ありがとうございます。」

いつものように決まりきった台詞を笑顔で言って席につくと周囲の人もまたいつものように今度勉強教えてねとかどうやって勉強してるのとかを聞いてきた。そして私もまたいつものように適当に流すことにした。



「結、REBORN覚えてる?」

「REBORN?」

「うん。覚えてないかな?ほら、私と結ともう1人小さい頃ずっと仲良くしてて。河西……花ちゃんだっけ?私たちよくお揃いのリボンつけて。ほら黄色の!でも幼稚園くらいの時かな。花ちゃんお引越しして遠くに行っちゃうからもう会えないんだよって結のママが私と結に言ったの。結もう大泣きでさ。そしたら結のパパが言ったんだよ。REBORN。私達がお揃いのリボンしてるから君達はREBORNだ、って。REBORNには再生とか生まれ変わるとかいう意味があって、君達は生まれ変わってもまたきっと出逢える運命のリボンで結ばれてるよ、そう言ったの。幼かったしなんだかよく分からなかったけどなんか素敵だなってずっと覚えてたんだ。」

学校からの帰り道、私と幼馴染で同じクラスの矢坂春は吹き荒れる風に髪の毛を少し気にしつつそんな話をした。


「ごめん。全然覚えてないや。花ちゃんだっけ?もう1人いたのはなんとなく、こうぼんやりと覚えてるんだけど……」

「まぁ、ほんと小さい頃の話だからね。その時だよ。私達ずっとS大行こうって話してたじゃん。」

「S大?私のお父さんとお母さんの母校の?」

「そう。結が大きくなったらS大行くってずっと言ってたから。私と花も3人でS大行こうって。え、結S大行くよね?」

「S大……っていうか大学自体考えてなかった。早くロボット作りたいって、そればかりで。」

「えぇー。結てっきりS大行くと思ってた。いつも学年1位だし。だから私も頑張って3位以内は死守してたのに。」

そう言って春は頬をプクッと膨らました。

「ごめん、考えとくから。じゃぁ、また明日。」

そう言って私たちは別れた。春は少ししょぼんとした感じだったけれど。



幼い頃の私はそんなことを言ってたのか。今の今まですっかり忘れていた事実をぼんやりと考えながら家までの僅かな道程をあるいた。正直大学なんて考えていなかった。大学でやりたいこともないし、勉強なら自分でやればいい。高校を卒業したら父の元でロボットを作ろうと思っていた。ロボットがあれば人々の暮らしは豊かになる。早く私のロボットで人を笑顔にしたい。最近の私はそればかりで大学の存在すら先生の口癖程度でしか考えていなかった。


「お父さん私もロボット作りたいんだけど……」

家に帰ってテストを見せた後すぐに私は切り出した。

「高校生は勉強しなさい。来年は大学受験なんだから。」

「勉強したよ?テストだってまた100点だったでしょ?それよりも私はお父さんの会社でロボットを……」

「お父さん桂さんからお電話よ。試作のロボットの調子が悪いみたい。」

私の言った言葉と母の言葉が被った。父は勢いよく振り向いて電話をとると、わかった今いく、そう言って電話を切って仕事に出かけた。



私が産まれる少し前、父は独立し自分の会社を立ち上げた。それが今のロボット工場の会社。幼い頃は早く一緒にロボットを作ろうなと言って私に沢山の事を教えてくれた。ロボットに助けられた人達が父に笑顔で感謝している姿に幼いながら私も嬉しくなった。そんなうちにいつしか自分でロボットを作って人を笑顔にしたいと思うようになった。だが、たとえ休みでも電話があれば駆けつける仕事熱心な父の姿に幼い頃は旅行の時など会社からの電話がかかってこないか内心ソワソワしたものだった。今ではそんな父を尊敬している。


「結ちゃんそろそろ勉強……」

「お母さんはロボット作れないんだから黙ってて!」

そう言うと母は少し眉をあげてお口チャックのポーズを見せると家事を始めた。



「やっと会えた。」

仕方なく部屋に戻った私は聞きなれない声を聞いた。心の底がヒヤリとした。外の寒さとは違う。これはきっと恐怖からくる寒気。誰?いつの間に?そんな言葉が私の頭をぐるぐると回る。怖い、そう思う反面、興味も湧いてきた。何の興味かは自分では分からなかったが、どこからか湧き出る興味。こういう時は警察に電話、理性の私はそう囁く。だが私は本能に負けた。興味の方が勝ってしまったのだ。恐る恐る振り向くと長い足を組んだお姉さんが私をニヤリと見て私の机のうえに座っていた。見たことも無い知らない人が私の目の前にあたりまえのようにいた。


「こんにちは。高校生の三木結ちゃん。あなたを待ってたの。久しぶりに使ったけど上手くいってよかった。燃料足りなかったらどうしようとおもってドキドキしちゃった。」



庭の木の枯れた葉がまた1枚落ちる。一瞬時がとまったように感じたが外の様子がそれを否定させた。謎の美女は私の部屋を散策するように歩き回った。私のぽかんと空いた口を手で閉じニコリと笑うと

「お腹空いちゃった。ちょっと長くなるかもしれないから悪いけどおやつと飲み物もってきてくれない?」

そう言って手と手を合わせてお願いと口パクで言った。


冷静になって考えてみるとだいぶ図々しいお願いだとは思うが綺麗な顔が災いしたかそれとも恐怖からか小さく頷き取りに行った。きっと1人で冷静になりたかったのもあったのだろうが。


この時の私はまだロボットの事しか考えていなかった。もちろんこれから起こる数々の試練も。きっとあの時理性が勝っていたら……

これは冬休みに起きた10日間の物語。


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