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階段の司書室  作者: いす
8/84

マフラー

八話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

冬の寒さはいつまでも続き、それに合わせるように周りの服装も変わっていく。

隣で鼻唄混じりに歩く彼女もまた、12月よりも服を着込んでいる。

ただ、それでも寒そうな場所が一ヶ所だけある。

「…なんです?じっと見つめてきて」

「んー…いや、お前今日マフラー忘れたのかなって」

ほとんどの対策がバッチリなのに首だけは冷たい空気にさらされている。

不安げな目を向けると彼女は不適に笑い出す。

「ふっふっふっ…実はその事を聞かれるのを待っていたんですよ…」

「なに」

一言返すと、自分の肩にかけている鞄をゴソゴソといじりはじめ、中から勢いよく何かを取り出した。 

「じゃじゃーん!これです!」

積もる雪に紛れても分からないかもしれないぐらいに真っ白なマフラー。

かなり長い。

「…それだけ長いと余るだろうな」

「このマフラーは一人で装備するものではありません。

ていうかリアクションなしですか」

「…わぁ」

「…はぁ…ちょっと失礼しますね」

寄ってきて、俺がつけていたマフラーをスルスルと解いていく。

そしてその長いマフラーを首に巻いてくれて、余った方を彼女自身の首に巻いた。

「これって」

「はい!このマフラーはカップル用なんです!カップルだけの!カップル専用!」

長いとはいっても二人で巻けば、どうしても距離は詰められる。

肩が触れあうぐらいの距離になると、手を優しく握られた。

これではどこからどう見ても本当にカップルになってしまうではないか。

「離して」

「嫌です。暖かくて良いでしょう?」

「…まぁ」

微笑んだ彼女は満足そうだ。

「にしてもこれ、どこで買ってきたんだよ」

「最近新しいお店が出来たんですよ、ほら、そこら辺です」

振り返り、街の全貌に指を指す。

「どこ」

「そこです、あのワタシの高校の近くの住宅街にある白いお店です」

「あぁ」

雪の積もった街に同化するように建っている。

「あのお店、クリスマスの少し後にに出来たみたいで、寄ってみて買ってはいたんですが年明けやらのあれで忘れてしまってて」

「ふーん…」

「あ、今度一緒に行ってみませんか?」

「…ま、覚えてたらな」

…自分にしては珍しく、この階段だけの関係以外に彼女に付き合おうと約束した。



「また明日、ですね」

「ん、そうだな」

他愛の無い会話をしていれば、いつの間にかここにいる。

真っ白なマフラーはほどかれ、冷たい風が首を襲う。

「…いつ行くか、今度決めましょうね?」

「ん、了解」

「それでは」

いつものように今日は終わり、明日もまた今日みたいな一日が始まる。

それを繰り返していけば、いずれはその普通の日すら終わってしまう。

だから、必ず決断しなければならない時を決めて、答えなければ普通は消えていく。

この冷たい風は冷静さを与えるための、正しい答えを考えさせてくれるための風なんじゃないだろうか。

「ニアッ!」

「うひゃあ!な、なんですか…ユキが大声なんて…」

でも、冷静にならなくたって分かることだってある。

それは今の俺には無くて、彼女だけが持っているもの。

一度取られたまま、そのままのとても大切なもの。

「………」

「…ユキ?」

空気を察してか、頬が赤い、彼女の額に汗が流れるのが見えた。

「…俺のマフラー返して」

「チッ」

「おいこらぁ」


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