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階段の司書室  作者: いす
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年明け

六話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

除夜の鐘を聞いて年が明けた。

年明けを祝うように外で降っていた雪も止み、雲も晴れた。 

新しい今年がまたやってきた。



近くの神社でお参りとお守りを買い、人混みからそそくさと帰ると、またクリスマスのようにもう片方から人が出てくる。

「またか…」

「ユキ…!」 

声に反応して、彼女は嬉しそうに名前を呼んでくる。

「偶然だよな?」

「いいえ…」

「おいお前な」

まさか知り合いからストーカーしてました発言をされるとは。

…突然、彼女は大声を出す。

「これは『運命』ですっ!!」

気合いの入った声が響いた。

「たまたま出会ったってことか」

積もりに積もった雪を踏み固めながら、ポケットに手を入れる。

「いや~♪好きな人にこうもまた出会えちゃうなんて、嬉しいですねっ」

「……」

「なんですかその嫌そうな顔は…もしかして、あの時のほっぺにチューを引きずってるんですか?」

忘れようとしていたクリスマスの記憶が溢れてくる。

「うへぇ…」

「ワタシの国だと挨拶でしたりもしますよ?だからそんなトラウマみたく嫌悪しなくても」

ここは日本ということをお忘れではないだろうか。

「…ん、つまりはあれか、お前の口は安いってことか」

「あ、いえ、ワタシも初めてです、実は心の中ではすっごく緊張してました」

「挨拶じゃなかったのかよ…」

えへへと彼女は恥ずかしそうに頬を人差し指でかく。

「いや、父親がワタシの唇を誰かに渡したくないと駄々をこねてまして」

「溺愛されてんのな」

あの光景を彼女の父親に見られていたらどうなっていたのだろうか。

あまり考えたくはない。

「だから親に逆らってああいうことをするのは…何というか背徳的なものを感じてしまいます…」

「巻き込まれた俺の身にもなってくれ」

年明けに相応しい会話なのかはともかく、こうして元気なままなのは普通に喜ばしいことだ。

と、手が掴まれ、足が止まる。

振り返ると、先程までと打って変わって悲しげな顔をした彼女。

「あの…やっぱり嫌…でしたか?」

「何だよ急に」

「いえ、これまではユキの冷たい対応を照れ隠しなんだろう、本当はワタシの事が好きで好きでたまらないのだろうと思ってたんですけど…」

「お前すげぇポジティブだな」

時々、辛辣なことを言ってしまったんじゃないかと悩んでいた事もあったのに、無駄だったのかあれ。

「あんなに大胆なのをしてもなお、照れの一つも見せてくれないとなると…むー…」

照れていない、というと嘘になる。

家に帰ってもその事で頭は一杯だったし、なんなら年が明ける寸前までそれしか考えてなかった。

でも、何故かいつも通りの感情を出せないままだった。

その理由は未だに分からない。

「…まぁ、何、別に嫌いではないんだ」

「本当ですか…?」

不安げな目に見つめられる。

「あぁ、嫌いだったら、出会ってすぐに逃げてるからな」

聞いた彼女は不安が取り除かれたのか、変わらないパッチリとした愛らしい目に戻り、手も離される。

これで一安心、年明けを楽しく過ごせるはずだ。

「そうですか…なら…え、でも前にワタシが大声で呼んだときに、逃げたことありますよね?」

「ん?」

あったような、無かったような、曖昧な記憶を甦らせる。

「あ、あぁ!あったなそういや」

あれは確か、去年の秋。

結構な量の荷物を持って来た彼女を見て、手伝いたくないと全力疾走したことがある。

あの日だけは、ろくに会話もせずに帰った。

「ユキ…?」 

「いやあれは、お前が大荷物だったから」

「ユキに逃げられたとき、本当に泣きそうになったんですからね!?というか泣きました!」

その翌日に激怒していた謎がやっと解けた。

「すまん。でも、嫌いだからとかじゃないからな、嫌いじゃ!ないぞ!」

「遠回しに好きでも無いということを伝えないでください!…はぁ、もういいです!」

諦めたのか、つんとそっぽを向き、力強くドンドンと雪を踏みしめていく。

残りの階段全てをそんな彼女の一段後ろで付いていった。



そして、またいつもの場所。

年明けといえばの言葉を言い忘れていたことを思い出す。

「ん、そうだ。あけましておめでとうございます」

「…忘れてましたね?」

「いや、お前も言ってないじゃん」

「タイミングを逃してただけです」

「嘘だぁ、お前も忘れてたんだろ」

「まだ日本に来て一年しか経ってませんから」

一年しか、と言う割りには詳しく日本文化を調べているらしく、下手したらそこらの日本人よりも知識はあるはずだろうに。

日本大好きなこいつがうっかりこんなビックイベントを知らないわけがない。

まぁ、これを口に出したらより怒るだけでしょうけど。

「じゃ、言いたいことは言ったし帰るな」

「むぅ…年明けだというのに平常運転ですか」

「イベント事は大抵こうだろ」

「言ってみただけですから」

「そうか」 

条件反射のような一言を言い残して、歩き出す。

「あの、ユキ!」

振り返ると、柔げに笑う彼女。

「あけましておめでとうございます!」

「おう、今年も、まぁよろしく」

「はいっ!末永くよろしくお願いしますねっ!」

「お前な」

意味を変えてきた彼女に、呆れながら、そしてどこか楽しみながら、一年はまた始まる。

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