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階段の司書室  作者: いす
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ベタ

五話目です

誤字・脱字があったら申し訳ありません

12月25日。

冬休みが始まってすぐに迎えたクリスマス。

だが、あまりクリスマスに対して関心が無い俺からしたら、ケーキが安くなるぐらいの日になる。

夜になった街に出掛けてみれば、いつ別れるとも分からないカップル達が有象無象のようにいて、安売りのケーキと、期間限定の唇みたいな柔らかさのゼリーという謎のものを買いに行くのにも一苦労だった。

そして、イベント楽しんでますよーリア充ですよー、と遠回しに伝えてくる奴らを掻い潜り、いつもの階段前へと到着すると、もう片っぽの道から人影が出てくる。

(なび)く金髪に、ナイスボディな外国人。

「あ」

「へ?あれ、ユキですか?」

俺の声に気付いて、月明かりに照らされながら彼女は歩いてくる。

「偶然…だよな」

「えぇ、お友だちに誘われてパーティーに行ってたんです」

「そうか」

毎日のようにしていた帰宅途中のこの会話もたった数日たてばもどかしくなってしまい、すらすらと言葉が出てこない。

「ユキは…お買いものですか?」

二つの店の袋をちらりと見ると、彼女はこちらを見てきた。

「…ん、甘いものが食べたくなってな」

「そうですか」

言葉が出ないのは彼女も同じなのだろうか。

二人してそっけない返事になってしまった。

「なぁ…パーティーって…」

いつものペースになるように話題を振る。

すると彼女は少し嬉しそうに微笑んだ。

「大丈夫ですよ?ワタシが行ったのは女の子だけのでしたので。ユキが心配しなくてもワタシはユキのものですから」

「全然俺が聞きたかったことと違うんだけど。後、お前いらない」

「ユキは酷いです…」

彼女は口を尖らせ不満そうな顔をする。

何とかいつも通りに戻せただろうか。

「俺が聞きたかったのは、外国ってクリスマスは家族で過ごすんじゃないかってこと」

前にどこかで外国と日本のクリスマスは違うというのを見ていた。

外国は家族と。

日本は愛しい人と。

そんな感じ。

「あぁ、そういうことでしたか。確かにワタシも家族でとは思ったんですが、パーティーのことを親に話したら日本を楽しんでこいと追い出されまして」

「優しいのか冷たいのか分かんないなお前の両親」

俺もいずれ優しさという言葉で隠されて、家を追い出されてしまうのだろうか。

「…男性の方に両親の話をされるのはちょっと恥ずかしいですね」

「じゃ、今後控える」

「あ、いえいえ。毎日のように話しても問題ないですよ?ユキなら」

「しない」

うっすらと積もっている雪に足跡をつけて、階段を上る。

冷たい風はクリスマスだろうが健在だ。

「そうですか……まぁユキらしいですけど」

「そうなのか…」

自分らしさ、というのは案外自分じゃ分からなかったりもする。

周りから見ての自分と、自分から見ての自分は当たり前ながら違う。

その自分を見ている他人の性格や、好意や憎しみ、もろもろの細かい数値を無理矢理に一纏めにしたのがきっと周りから見た自分らしさなんだろう。

ボーッと考え事をしながらケーキ屋の二つの袋を持ち直す。

「…その袋、重そうですけど何が入ってるんですか?」

「甘いもの」

「それはさっき聞きました。詳細を知りたいのです」

「ケーキ…と後なんかゼリー。唇みたいな柔らかさなんだと」

ゼリー、と言うと彼女がギュルンと俺を見据える。

「…もしかして、あの駅前の…ですか?」

「うん」

「羨ましいです…」

「好きなの?ゼリー」

彼女はこくんと頷く。

………。

「ワタシも予定が無ければ買いに行ったのですが、先程話した予定のせいで買えず…」

「今から…ってあれ数少なかったな…そういや」 

三つセットだったからなのか、期間限定だからなのか、どちらにせよ多分数は変わらなかっただろうけど。

「……あー…じゃ、何、いる?」

「えっ?」

俺からの突然の提案をもう一度、確認するためにか彼女は聞き返す。

「このゼリー、いるかって?」

「本当ですか?」

「どうせ期間限定って言葉で釣られただけだし、食いたいんならあげる」

「…ですが…」

躊躇うニア、だがまるでそんな彼女に言い訳与えるためになんじゃないかと思わせる今日だけの特別なイベントがある。

「俺からのクリスマスプレゼントってことで」

「………」

それでも躊躇う彼女の手に、無理矢理ゼリーが入った袋を握らせる。

「どーぞ」

「…ありがとうございます」

「どーも」

「…ユキはやっぱり優しいですね」

短い返事を言い切ると、彼女は呟いた。

「…別に優しくはない。ただの自己満足の押し付け」

「押し付けと言っても、ワタシがさっき口に出さなければ、譲ろうとなんて考えなかったはずです」

「どーだろうな」

「…というか、ユキが誰かにプレゼント目的で買うなんて想像つきません」

一年間間近で俺を見てきたユキマイスターは流石だ。

余計なことまでお知りになっておられる。

「そうだな、確かに誰かにプレゼントなんてしたことなかった」

「…じゃあ、そんなユキの初めてを貰ったのなら、ワタシも何かプレゼントをしないとですね」

「なんでそんな言い方をする」

初めてとか言われると何か戸惑っちゃうでしょ。

「欲しいものとかがあるのでしたらそれにしますけど…?」

「んー…無いな」

「でしょうね、ユキならそう言うと思ってました」

やっぱりユキマイスターいいね、凄いよ。

不意に彼女は近づいてきた。

「…おい、急になんで近づいてくる」

「いえ、唇みたいな、という宣伝でしたので、ワタシの唇をそのまま渡そうかと」

「いらん、俺はベタな展開は好きじゃない」

肩がぶつかるぐらいに距離を詰められる。

ほのかに香る甘い香りに鼓動が速まる。

「…ならユキは、どういうのがお好みなんでしょうか?」

青い瞳に覗き込まれ、言葉を急いで捻り出す。

「…普通のだな」

「ベタはありきたりという意味ですよ?」

「そうか…」

そうなのか…。

もしかしたら

、何となくのニュアンスで使っている日本人よりも詳しく言葉を調べている外人の方がこういう事に関しては強いのかもしれない。

迂闊に言葉を使うべきではないと教えてくれた。

「…でも、ありきたりというのも案外…」

「…?」

彼女を見た瞬間、頬に柔らかく、暖かい何かが触れる。

「良いものですよ?ユキ」


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