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Unnecessary evil and necessary goodness(不要悪と必要善)

30XX年・オーストラリア大陸


 次の早朝、アイ、アリソン、トニー、ジェイコブ、そして俺はゲオルギーの所へ向かおうとしていた。早朝に計画したのは、奇襲・・・いや、そういうことではなくて、「諜報」するためである。

何故なら、こちらはせいぜい五人、相手側はゲオルギーとそれに追従する数十人なので、相手の弱点や盲点といった情報を知っておかないと、これは唯の「負け戦」となってしまうし、作戦を練りこむことこそがこの戦闘の勝因だと思われるからだ。


 それと、俺はそれまでアイに忠実だった人間が、ここまでの裏切りを行う要因として、ゲオルギーの異能の効果は、「洗脳」であると思った。しかし、それだとすると、指揮を執っているアイやアリソンやジェイコブ、トニーが「洗脳」を受けていないこととの整合性がつかなくなる。それに、戦争以前は、異能のような大それたものを使わなくても、「洗脳」というものは多く利用されていた。古今東西の革命や闘争、政治や宗教の場において、多く使われていた技法なわけで、ゲオルギーの「洗脳術」というのは、どちらかというと、そいつ自身の話術や理屈並べの得意さによると思われる。「異能」とはまた別の要素であろう。つまり、「力」や「暴力」で相手をねじ伏せる、全体に圧政を敷くタイプの「異能」であると、俺は確信した。


ジェイコブ「向こう岸まで行くにしたって橋がない。ここは船で行くんだ。」


トニー「船は機械を積んだものではいけません。機械の動作音で相手にバレてしまいます。」


アリソン「えー、そっちの方が楽なのにー。」


アイ「まぁ私も漕ぐタイプの方がいいとは思うよ。」


ホープ「まぁ、朝日も昇っていない時間だから、大丈夫だろう。つか、皆遊んでばかりの生活なんだろ?生活リズムも乱れていて、昼まで起きて来れないって。」


 俺らは、オールを漕いで船を動かしていた。

 そして、奴が潜んでいる「玉ねぎ屋根の建築物」の数百メートル前に降り立った。


ホープ「あの建物はやはり、ゲオルギーの出身地をイメージしているな。」


アリソン「よーし、いっちゃうぞー。」


とアリソンが言ったとき、俺、そしてアイは嫌な予感がして。


ホープ「おい、待て!」


アイ「戻ってくるんだ!私の命令を聞くんだ!」


 アリソンは俺とアイの言葉を無視して進んでしまった。

 アイは尻尾をアリソンの方向へ向けていた。


アリソン「『No problem』じゃーん。」


 ピピッ・・・

 アリソンが右足を踏んだ所で、「何かの作動音」がした。


アイ「アリソーン!!!」


 アイはとっさに尻尾を伸ばして、アリソンの右の手首に絡ませた。

 ドカン!!!と爆発がして、アリソンはアイの尻尾に引っ張られたおかげで無傷で済んだ。


アリソン「いたた・・・」


アイ「アリソン、無事で何よりだ。」


ジェイコブ「ホントに無計画だな、ヒヤヒヤするぜ。」


トニー「アリソンさん、ここは警戒心を張り巡らさないと駄目じゃないですか。」


ホープ「まぁまぁ、無傷で良かったじゃないか。ここでアリソンに死なれたらこちらの不利だった。」


アリソン「ホープ、もっと良い言い方はないのかー!」


ホープ「悪い悪い、でも、本当なんだぜ?アリソンみたいな強力な電気を放出できる女の子が欠けちゃまずい。」


アリソン「アタシを、『女の子』って言ってくれたー。」


 アリソンが照れた顔を浮かべながら、俺の方を見た。

 そうか、そういう見方をする異性が誰もいなかったんだな、と感慨深く思ってしまった。アリソンは、ああいう環境にいるだけあって気が付かないだけで、髪型を整えたり、人一倍女の子らしい面があった。


ホープ「いや、強力な『武器』が減ったら困るし。」


 と俺は失言して。


アイ「ホープー。」


 アイは尻尾で俺の首を絞め付けた。正直苦しいが、今のは俺が悪かったので文句は言えない。


アイ「今の言い方は、女の子は傷つくよ。」


 そう、アイもちゃんとした「女の子」であることを忘れていた。アイも自分のことを言われたみたいで、つい怒りを隠せなかったのだろう。俺はアイの方を見ると、アイの顔立ちって結構可愛らしいんだな、と思った。特に今の怒った表情が非常に女の子らしかった。


アリソン「アイー、もういいってー。」


ジェイコブ「そうだ。あくまで今はゲオルギーをヤりにいくのが主目的だ。こんなことで時間をロスさせても困る。」


アイ「わかったよ。」


 アイの尻尾は解けて行った。


ホープ「ふぅ・・・ここはお詫びとして、俺がこの状況を何とかするしかなさそうだな。」


 俺は足元に植物が生えていたのが見えた。しかし、誰かに踏みつけられそうな位若い植物だった。


ホープ「ここは、これがいいな。」


 俺は植物の真上に手をかざした。


トニー「ホープさん、何を・・・ああ、そういうことですか。」


 ドカン!!! ドカン!!! ドカン!!!

 爆発音が数発起こった。それも尋常ではない位の数だ。


アリソン「うわー!滅茶苦茶爆弾があったんだー!」


ジェイコブ「そりゃ、ゲオルギーとしても簡単に通すわけにはいかないだろうしな。こういうのも利用して、今まで我々を抗議させないようにしていたのだろう。」


アイ「『恫喝』とか益々許せない・・・。」


トニー「本当にゲオルギーは『策士』ですね。それは勿論『狡猾』という意味ですが。」


アイ「ところで、ホープ。これはどうやって爆弾を察知したんだ?」


ホープ「察知したんじゃないぞ。俺も適当にやったまでだ。」


トニー「アイさん、『根』ですよ『根』。」


ホープ「ご名答。」


 そう。俺はこの植物の「根」だけを異常に成長させた。その根は大きく、広く張り、根だけを無数の伸ばせて、虱潰しに爆弾に接触させていただけなのだ。


アイ「それなのに植物自体の表面は何も変わっていない・・・。」


ホープ「まぁ、根だけを成長させても、何か『こいつ』に悪いからこうしておくよ。」


 俺はそうして、「茎」の方も成長させた。


アリソン「うわー!リンゴがなってるー!」


ホープ「俺はこうやって、店の方でも『商品』として売っていたんだ。」


アイ「それっ。」


 アイは尻尾を伸ばして、木の上部にあるリンゴを取った。

 そしてアイはそれを。


アイ「はむっ。」


アイはリンゴに齧り付いた。


アイ「美味しい・・・、はむっ。」


 アイの尻尾がブンブン揺れていた。ここまでのリンゴとは、俺も驚きだったし、まさかあの植物がリンゴだとは思わなかった。


アリソン「アタシも食べる―。」


ジェイコブ「おいおい、今はこんなことしてる場合じゃない。」


アリソン「えー。」


ホープ「いや、まぁ戦闘に利用するために持っていくから、全然今食っても問題ないぞ。ただ、走りながら食わないとな。」


アリソン「ケチー。」


アイ「ふぅ・・・仕方ないなぁ・・・。」


 アイは尻尾をアリソンの胴体に巻き付けた。アリソンは出る所は出ていたため、「それ」がアイの尻尾の固定材の役割をしていた。


アイ「行くよ!」


 アリソンは若干宙に浮いたまま、リンゴを頬張っている。アイはそのまま走るつもりのようだった。アイの尻尾の握力ってどれだけ凄いんだ。


アリソン「うわー、快適ー。」


アイ「ホント、アリソンって一々何考えてるんだか。」


 そういうと、アイは腕を組んだ。腕を組んだときに気が付いたが、アイもアリソンに負けず劣らずに出る所は出ていた。


アイ「あの、ホープ。」


ホープ「ああ、ああ、わかった。よし、皆行くけれど、それでもまだ足元には爆弾が残っている可能性があるぞ。慎重にな。」


 そういうと、俺らは足元に注意をしながら、前進した。

 そして途中で。


ホープ「ん?これは卵か?」


 俺は卵のようなものを発見した。俺はグロテスクな虫の卵ではないことだけを祈った。


アリソン「ホープー、ぼさっとするなー。」


ホープ「お前に言われると腹立つわ!」


 そんなやり取りが続いていると、同様に別の場所でもこんなやり取りがあった。


30XX年・?


弱そうな男「マステル・ゲオルギー、私を、いかがなさる、んでしょうかっ!」


ゲオルギー「『Почему?』お前は、私が信用できないのか?この情景でこの二人が、お前を殺す風に見えるのか?」


強そうな男「この剣がそう見えるのか?お前の目は節穴なのか?」


 と、その男は、怯えた男の前で剣を振り回した。その男の顔はまるで軽蔑しているかのような笑みでそうした。


弱そうな男「ひいぃ!!!」


チャラついた男「いやチャドは、単に剣を振り回してるだけじゃねぇ?少なくとも俺のことはそう思ってないだろ?俺は単に液状のゴムを手から垂らしてるだけだからよっ!」


弱そうな男「本当に・・・大丈夫、なんですねぇ!!!」


ゲオルギー「『Конечно!』ブレントがそんなことするわけないだろう?」


ブレント「あっ、手が滑ったぁ!」


 ブレントが出したゴムが、怯えた男の両手首に、拘束するかのように纏わりついた。


弱そうな男「ひゃあぁ!ゴムがぁ!!!身動きできないぃ!!!!!」

チャド「ブレントはただ遊んでるだけだからな。プーックス。」


 またそう言いながら、チャドは怯えた男の頭数センチ横の床に剣を突き刺した。


弱そうな男「ひいぃ!マステル!お助けを!」


ゲオルギー「『Поверь мне!』「この状況から」助けてあげるさ、案ずることは一切ない。」


弱そうな男「マステル・・・ウラー・マステル・ゲオルギー!!!」


ブレント「おいおい、暑いのかぁ?今はまだ七月だぞぅ?」


ブレントはそんな「オーストラリアン・ジョーク」を言っていると。


弱そうな男「さ・・・む・・・い・・・、マステル・・・・・・・・。」


 怯えた男は凍死した。

 その男が凍死した後にゲオルギーが。


ゲオルギー「ひゃ、ひゃひゃひゃっ!!!!『Дурак,Ооочень дурааак!』こいつは!あんなバレバレな手に引っかかるとはぁ!!!大笑いだ、あーひゃひゃひゃ!!!!!!」


ブレント「また、異能の精度が上がりましたねぇ!すぐにカッチンカッチンだわ!」


チャド「心の脆弱な部分に漬け込んで、耳障りの良いさも綺麗事のような単語しか並べず、相手の警戒心を解き、精神的に骨抜き状態にしていく。それも相手勢力をあたかも『仮想敵』と思わせ、自分の勢力の歪みから目を背けさせるような手法で。そして、俺らのような人間が徹底的な鞭打ちを恒常的に行った後、その非当事者のマステル・ゲオルギーが不自然なまでに優しく接する。それも毎回で、これらを頻繁に繰り返す。そうすると、この状況下に置かれる人間は、マステル・ゲオルギーが『唯一の善人』だと錯覚する。『洗脳』はたったこれだけのことで十分で、それから比べると『異能』なんてたったのオマケに過ぎない。」


ゲオルギー「流石、チャドだ。よく理解しているな。まぁ、誰もこの『ゲオルギー・グリゴリエヴィチ』が手を掛ける、とは言っていない訳だから、この馬鹿はずっと馬鹿なまま死んだな。てかっ!七月はウクライナでも十分暑いんだよ!」


ブレント「つかっ!マステル・ゲオルギーよぅ、いい加減その異能でキンキンに冷えたラガー・ビールを用意してくれよぅ!」


チャド「おいおい、慎めよ。そういや、他の連中から献上された『ブツ』を今度はどこに売りつけたんですかい?」


ゲオルギー「メキシコとかキューバとかあの辺辺りだな。まぁ、その辺の地域でもここと同じような現象が起きている。あそこら辺も核戦争でどこもかしこもぶっ壊れているから。てかっ!ぶっ壊れている所が多いからこそ、採掘困難な『資源』の需要が超高騰しているし、こんなご時世だからこそ、私のビジネス法は上手く行っている。勿論、祖国にも多く送っているさ。なんせ!資源を生成する異能持ちの多人数を閉鎖的な場所で洗脳して、献上させるようにしている。それを別のディーラーに売れば私は何も汗水垂らさなくてもいい。生意気な奴は私の異能で脅せば黙るもんなぁ!」


ブレント「それによぅ!普通の人間は『働いて食う』より『働かなくてゴネる』って選択肢があれば絶対後者だもんなぁ!そういう視点からも、マステル・ゲオルギーの洗脳法はやべぇ効果だったからなぁ!」


チャド「それに、さっき死んだ『アイツ』、ああいう奴を一定数作るのがミソだなぁ。自分の身に置き換えたとき、そういう奴にならないように、必死で自分に媚を売らせるように仕向ける。そうでしょ?マステル・ゲオルギー。」


ゲオルギー「そんなの言わなくてもわかるだろう。そういや、あの『フヴォースト』の小娘は最近大人しくなったな。あの生意気な小娘に少し説教したら、それっきりだ。」


一同「ハハハハハ!!!!!」


ゲオルギー「(しかし、逆にこちらが調子に乗り過ぎても、あの小娘の爆発力に押されてしまうので、注意が必要だな。あの小娘だけは油断してはいけない。)」


30XX年・オーストラリア大陸


 俺らの前に、ゲオルギーの建造物が立ちはだかった。不自然なまでにこの丘に建っているのがこれだけだった。


ホープ「やっと・・・着いた。」


アリソン「やったー。」


アイ「アンタは、何もしてないじゃない!」


トニー「ふむ。こうして見ると、あまり大きくありませんね。」


 確かにトニーさんの言う通り、大きくない。それも明らかにここに数十人も収まる大きさではない。


ジェイコブ「取り敢えず、中に入るぞ。もうあまり時間もないしな。」


アリソン「よーし、行くぞー。」


アイ「ちょっと、アンタ!また!」


 俺もアイと同意だ。さっきのこともあって、アリソンは何かと危なっかしいからな。そう思っていると。


アリソン「いっけー!!!」


 バシューン!!!

 良かった、電撃を扉に放ってくれた。そして。

 シューン・・・

 扉周辺が焼かれたような跡になっていた。


トニー「あれ?誰もいないようですね。良かった死人が出なくて。」


ジェイコブ「いや、ゲオルギーなんかに魂売るのような奴に多少痛い目見せるべきだろ。」


アリソン「そうだー!そんなやつ知るもんかー!」


ホープ「おいおい、お前らなぁ・・・。」


 まぁ、それはさておき、俺が予想したように、こんな所に大人数が収まるわけないだろう、ということで、この建造物が「ダミー」だということがわかった。そして内部に入ると。


ホープ「この装飾やフレスコ画みたいな模様、十字架みたいなものもある。ここは教会みたいな場所だな。」


ジェイコブ「こんな荒れた世界に『教会』って。神でも何でもいるのなら、この状況は絶対変わっているだろうに。」


 俺もここの雰囲気とは若干異なるが、教会に近い空間に以前行ったかのような錯覚に陥った。単なるデジャヴのようなものかも知れないが、何故かこういう空間が非常に心に染みてくるのは何故だろう。そして、俺が異能を授かった状況は、まだ俺が5歳のときに、意識が飛んだ後のことだった。しかし、異能が授かる条件ってまだよくわかっていないし、これを思い付いたのがこういう空間に入ったときに何か因果関係があるのか、と思ってしまう。「神」?「救済」?いやいや、こんな世界の状況だ。そんな世界にこんな非科学的なもの求めてどうするんだ。


アイ「ちょっと、あれは何?」


 司祭があたかも聖書を広げるような台座と、その奥には装飾であしらった扉がある。


トニー「いやはやこれは・・・。」


トニーが台座を見たときそう言いながら、溜息をついた。


ジェイコブ「これはモニターとキーボードのようなものだ。」


アリソン「何ー、この文字ー、全然読めなーい。」


アイ「これ、暗号を入れるんじゃないの。」


 アイの言う通り、暗号を入れたら扉が開くパターンだろう。しかし、厄介なことがある。


トニー「こんなの英語圏で読める人殆どいませんよ。我々は皆オーストラリア、英語圏の人間です。アイさんは違いますが。」


アイ「キリル文字・・・。私は残念ながら分からないし、単語すら知らない。」


 そう、ゲオルギーはその辺りの出身の人間だ。当然キリル文字の環境で暮らした身だ。逆にオーストラリアは勿論キリル文字を扱う環境になく、文字もラテン文字だ。そして、そういう言語環境な上に、この時代、特にオーストラリア大陸は図書館すら廃れている状況で、多くの人間がそういう知識を蓄える機会すらないのだ。敢えて、こういうことをして我々を入れまいとしているのだ。ここは敢えて、戦争以前の資料を読み漁った俺がやるしかないようだ。尚、ロシア語、キリル文字の資料も漁ったことがある。


ホープ「あのさ、俺なら何とかやれるかも知れない。ただ俺も自信がない上でだが。それでさ、逆にアイたちにも協力して欲しいことがある。俺はゲオルギーと面識がない身なわけだ。暗号というのは本人の『興味』やら『経験』やら何やらが反映されることが多いと思う。ゲオルギーをよく知っている人たちからヒントが欲しいんだよ。」


ジェイコブ「ふむ。では何か打ってみるとするか。奴は話を聞くと非常に残忍な性格だ。『血』の翻訳ではないか?」


ホープ「了解。『クローヴィ』、っと。」


俺は「Кровь(クローヴィ=血)」と打った。


 ガチャ・・・

 やった!と思ったのも束の間であった。


 ザザザー!!!

 天井の穴から大量の「血」が降ってきたのだ。


アイ「これは・・・。あいつが殺してきた人間の血だ!許せない・・・。」


 アイの尻尾は滅茶苦茶な揺れ方をしていた。これは絶対「尋常ではない怒り」の表れだ。そして他も似たような反応だった。


ジェイコブ「悪趣味すぎて反吐が出そうだ・・・。チッ!」


トニー「私も怒りが込み上げてきて、本当にどうにかなってしまいそうです・・・!」


ホープ「おい!これじゃあいつの思うつぼだぞ!頼む!冷静になってくれ!・・・よし!アリソンの意見だ。」


アリソン「んー・・・じゃあ、『資源』!」


ホープ「よーし、皆冷静に、冷静にな。よし、『リスルスィ』だ。」


 俺は周囲の憤慨を鎮めることに成功した。そして、「Ресурсы(リスルスィ=資源)」と打った。


ガタッ・・・ガタガタッ!!!


 建物全体が地響きを立て、シャンデリアやら何やらが落下したり、壁もひび割れている。これはまさか!


ホープ「皆一回、こっから出るぞ!」


 そう、「建造物=資源」なわけで、ここが全壊するという理屈だ。

 そして、一度俺らは外に出ることとした。


 ガッシャーン!!!!!ゴロゴロゴロ・・・・・・

 そういう音が幾度と鳴って、建物は全壊した。


ジェイコブ「ふぅ・・・ゲオルギーは危険な奴だが、まさかここまでとは・・・。」


ホープ「でも・・・あれだ。全壊しているので、もうこれで何を入れても仕掛けは作動しないだろう。」


アリソン「何か信じられないなー。」


俺らは恐る恐る再度台座のところまで戻った。


ホープ「ええっと、じゃあ、次はトニーさんで。」


トニー「じゃあ、シンプルに『扉』で。」


ホープ「そうか、扉を開けるわけだからな。英語だと『door』だけど、ロシア語だもんな。じゃあ、『ドヴェリ』で。」


 俺は「Дверь(ドヴェリ=扉)」と打った。しかし。


アリソン「えー、何も起こらないじゃーん。」


 扉はピタリとも動かなかった。


ホープ「マジかよ・・・。もう打つ手なしじゃないか・・・。」


 と俺ですら諦めかけていたとき。


アイ「ゲオルギーは残忍だけど、私に何か恨みがあるんじゃないかな?何かと根に持つ性格っぽいし。しかも意地悪くこんな暗号形態や、悪趣味な仕掛けまで用意するし。何となく私を排他的に見てるっぽい。やっぱあのときの出来事かな。」


ホープ「それは何だ?」


アイ「それはね、あいつってとにかく言葉巧みに人の弱みに漬け込むんだ。作業員の中に年端も行かない女の子がいてね。そんなに強い異能ではないけれど、軽い火ならだせていた。その女の子、インドから流れてきたのち、ここで両親をアウトローに殺されてね。それでここで働くことになったんだ。それであいつはその女の子を言葉巧みに扇動していたんだ。自分の身の内に置くために。そして今もあいつの所にいる。」


―半年前・オーシャンシティにて


 ザザザー・・・


ゲオルギー「しっかし、雨で服はビシャビシャだ。どんよりとした天気は人間のやる気を、これほどまで削ぐとは。本当に労働というのは性に合わないんだよなぁ・・・。私が組織の支配者となって、ここの人間どもを洗脳する、祖国での私が所属する政党の命令に従って、一応ここの作業員のフリをしているだけだがな。ハハッ。」


 そしてゲオルギーは更に。


ゲオルギー「あのガキは何をブツブツ言っているんだ?」


ゲオルギーは横を振り向くと、少女が何かを呟いていた。


作業員少女「今日は雨ね。雨を見ると、『ピタ』と『マーン』が殺されたことを思い出すなぁ。でも、どうせ何言ったって変わらないし、特にこんな庇護のない世界でしょ。アイお姉ちゃんの言う通り、自分自身が強くならなくてはいけないんだ。さてと、こんなことに更けているのもやめて、作業に戻るね。」


 そして少女がそう言っていると。


ゲオルギー「『На кнопке!』、とにかくガキは無垢というものだ。特にああいう身寄りのいないタイプは非常に騙しやすい。ここは唆さないと勿体ない。」


 そしてゲオルギーは近寄った。


ゲオルギー「キミは寂しいんじゃないのかい?誰かに甘えたいんじゃないかな?いや、立ち聞きしてて済まないね。」


作業員少女「ゲオルギーさん・・・そうだよ。アタシはこの通り、父さんも母さんもいない。アタシの本当の『お姉ちゃん』に当たる人も幼いとき、体が弱くて死んじゃったみたいだし。アイはそれこそ本当に『お姉ちゃん』みたいに思っているけれど。『家族』に当たる人が欲しいんだ。」


 そう彼女が言うとゲオルギーは口角が上がった。


ゲオルギー「そういや、キミの名前は?因みにいくつ?」


作業員少女「アタシはグラーブ。此間10歳になったところ。」


ゲオルギー「そうか・・・辛いね。普通その年じゃあ、まだまだ大人に甘えたいだろう?もっと遊びたいだろう?そうだ!私と一緒に遊ぶか。そしたら、私はキミの『父親』だ。」


グラーブ「遊ぶ?!いや、そうしたいけれど、アイお姉ちゃんが許してくれないよ・・・。」


ゲオルギー「でも『父親』が欲しいんだろう?アイについて言えば、まだ20歳、一回り上だろうが、やっぱり幼い。キミだってアイを『姉』と言っている位だ。『母親』の代わりには務まらないよ。」


グラーブ「でも、お姉ちゃんの言い付けは絶対だし・・・。」


ゲオルギー「こんな幼いキミ、こんな子供にキツい仕事を押し付ける『姉』がそんなに素晴らしいのかい?大体、『母親』ならまだしも『姉』に言われることだぞ?そんなに威厳があると思えないなぁ。」


グラーブ「でも、お姉ちゃんは・・・。」


ゲオルギー「その『お姉ちゃん』はさぁ、まだ子供なんだよ。精神がまだ未成熟なんだ。だから、多様な考え方に乏しい。だから、一方的に『仕事』『仕事』なんだよ。」


グラーブ「でも・・・。」


ゲオルギー「酷いなぁ。そんなに『父さん』が信用できないのかい?」


グラーブ「『父さん』・・・。」


 グラーブはとうとう疑心暗鬼になってしまった。この年頃、とくに無垢な子供だと軽い一言でもそういう状態に陥ってしまう。それに、グラーブがどれだけアイを『姉』と言っていても、それは単なる呼び方であって、実際に血が繋がっているわけでもない。こういう境界線は余計曖昧なものになる。


ゲオルギー「やっとわかってくれるか。『母さん』はいないけれど、好きなだけ『父さん』と呼んでもいいよ。」


グラーブ「お父さん。」


グラーブ「アイはお姉ちゃんではあっても、お母さんではない。しかもまだ子供・・・。」


ゲオルギー「そう!まだまだ人に命令できる年頃なんかじゃないんだ。本当に仕事ばかり押し付ける『獣』だ!」


グラーブ「お姉ちゃんは『獣』・・・。」


ゲオルギー「だって、幾ら何でも姉に尻尾は付いていないだろう。そう、普通姉は『人間』でなくちゃあ。キミは今まで『獣』を『姉』と呼んでいたんだよ。キミはせめて『人間』でいなくちゃ。『人間』の家族を持つべきだ。」


グラーブ「『人間』の家族・・・。」


ゲオルギー「それにキミはまだまだ『遊びたい』年頃だ。こっちにはビデオゲームやら映画を見るスクリーンもあるし、戦争以前の世界各地の漫画や、旧日本の『ラノベ』っていうものもあるぞ。楽しいよー・・・。」


グラーブ「楽しい・・・。楽しいもの!」


グラーブは完全にゲオルギーの『娘』気分になってしまった。


そしてその瞬間をアイはたまたま傍観していた。


アイ「あれは・・・。グラーブ!」


グラーブ「お父さん、アタシそこで友達でるかなぁ?」


ゲオルギー「ああ。グラーブは素直な子だから、皆とすぐ打ち解けるさ。」


アイ「まさか!あいつ!」


 アイは尻尾をゲオルギーの首を目掛けて伸ばした。


ゲオルギー「うがっ!首が・・・。」


アイ「私、今回は本気で殺すよ。改めるなら今の内だよ。」


ゲオルギー「グラーブ・・・!これが、この『獣』の本性だっ!ここまで・・・暴力的なのは、『人間』じゃない・・・『獣』だからだっ!」


アイ「『獣』!?・・・ねぇ、グラーブ!」


 アイはそうグラーブに問いかけてみた。しかし。


グラーブ「この『獣』、自慢の尻尾を離しなさい。さっさと『ピタ』の首から!」


 グラーブのアイに対する目つきはまるで「人に噛みつくような猛犬」を見てるような目だった。

 そして・・・

 ボッ!!!

 パチパチパチ・・・


アイ「火で手袋が燃えた!」


 パンパンパン!!!

 アイは腕の長い手袋の火を取り払った。グラーブの異能だ。しかし、軽い火の上、雨がまだ降っていたので、大事には至らなかった。


アイ「グラーブ!正気に戻ってくれ!」


 そうやってアイはグラーブの腕を掴んだ。しかし。


グラーブ「は?吠えんなよ、『獣』!『人間』に触れるな!」


 ガブッ!とグラーブはアイの腕を噛んだ。そして、手袋には少し血が滲んでいた。


アイ「イタッ!グラーブ・・・。」


 もうグラーブにアイの言葉は届かない。同時にアイはゲオルギーの首から尻尾を解いた。そして、今度はゲオルギーが。


ゲオルギー「おい!グラーブ!そんなことしちゃいけないだろ!キミまで『獣』と同類になりたいのか!」


 ゲオルギーが珍しく我が子を叱るような態度に出た。しかし、これはたまに叱りを入れることで、さも「良識のある父親」を演じているにすぎないのだ。そのためにゲオルギーは、自分からアイに手を出さなかったのだ。この状況の雰囲気は全てゲオルギーに支配されてしまった。


グラーブ「お父さん、ごめんなさい。」


ゲオルギー「いや、私も怒鳴って済まない。私としても『父親』の義務としてたまにキミを叱らなくちゃいけないんだ。理解してくれ。」


グラーブ「うん!」


アイ「グラーブ・・・。」


 もうアイはこれは無理だと諦めた。このグラーブの状態で、アイが何をしても彼女の感情を逆なでさせるだけだからだ。


グラーブ「お父さん!雨が冷たくて気持ちいいね!」


ゲオルギー「そうだな。帰ったら風呂も兼ねて、プールに入ろうか。」


グラーブ「やったー!」


ゲオルギー「(ふん、あの『フヴォースト』を精神的に完膚なきまでにしてやった。ハハハハハ!!!!!)」


 ゲオルギーはグラーブを自分の建造物へ連れて行った。アイは土砂降りの中、無気力に、グラーブの背中を眺めたままだった。それは二人が船に乗り込んだ後も変わらなかった。グラーブが見えなくなるまでそこでアイはじっと座り込んでいた。


―そして現在・オーストラリア大陸、ゲオルギーのアジト前


アイ「まぁ、こんなことがあってね。もう私は『姉』失格だよ・・・。」


 と長々とアイはそのことを振り返っていた。そして、そんなまだ年端の行かない少女を盾に取るゲオルギーから、救い出すべきだ、と感じた。こんな世界なのに、自分なりの強いほどの「正義」を感じてしまった。そして、そのとき、俺は暗号がなんとなく何かわかってしまった。


ホープ「なぁ、暗号はこれじゃないか?『尻尾』。」


一同「『尻尾』・・・。」


 そう、ゲオルギーはアイに恨みを持っている。つまり、アイにまつわる何かだ。アイのシンボルと云えばやはり「尻尾」だ。暗号を「アイ」にする手もあっただろうが、違う言語の人名をどう表記するかわからなかったのだろう。とりわけ「アイ」というのは日本語源だ。日本語は英語やロシア語といったグループとは切り離された言語なので、余計にゲオルギーにとってもやりづらい訳だ。


ホープ「確証はないが、やってみる以外ない。ふぅー・・・よし!『フヴォースト』っと!」


俺は半信半疑のまま、「Хвост(フヴォースト=尻尾)」と打った。

ギギー・・・

扉が開いた。


アリソン「やったー。」


ジェイコブ「ディアー・ホープ、『Congratulation』だ。」


トニー「ホープさん、本当にあなたは凄いですね。というか最初から思ってたのですが、こんな知識どこで手に入れたんですか?」


ホープ「いや、まぁ、それは色々と・・・。」


アイ「取り敢えず、今はこの先に進むことだよ。皆、忘れないように。」


ホープ「アイ、アンタがそういう説明をしてくれなかったら、俺はずっとここで悶々としていただけだろう。本当にありがとう。」


アイ「フフッ。どういたしまして。」


 俺らは扉の先の階段を降りることとした。地下室がここの本体となっているようだ。大人数を収めるにはここしかなさそうだ。特にグラーブの様子が気になっている、彼女の異能はこの半年間のブランクで俺らにとって脅威なまでのものになってるのではなかろうかと。そして、前々から気になっているように、犠牲者が誰か出るのではないだろうか、という我ながらの変な勘である。しかし、前は回避した欲しいと思っているが、俺はこれは高確率、ほぼ百パーセント現実なると踏み込んだ。これは認めたくはないことだが、どうしても頭を過ってしまうからだ。

【敵1】ゲオルギー・グリゴリエヴィチ(Georgij Grigor'evich)


能力:「ズャーブキェ・パーリツィ」 冷気を意のままに操る異能。ジュースを冷やす程度から、相手を凍死に至らしめるまでのことも可能。ゲオルギーは「人間の本質というのは冷淡、非道、残忍というのが基本で、指を差して相手を命令、威圧することも最も小規模であるが、『冷淡さ』の始まりに過ぎない」とし、「冷淡な指(Zjabkie Pal'tsj)」としている。

年齢:38

性別:男

身長:188cm

出身地:ウクライナ自治区(この時代、ロシアが旧ソ連のように他国の領土を吸収して回っているため)

その他:ロシアもといウクライナ自治区での政党のうちの片方に所属しており、この洗脳作戦もその政党による指示で動いている。非常に残忍な性格で、集団を洗脳して私物化し、他人を利用しようとしても良心の呵責すら起こらない男である。


【敵2】チャド・チャンドラー(Chad Chandler)


能力:「ニュー・ジェネレーション・アルケミスト」 鉱物や金属を生成する異能。トニーと同系統の異能だが、こちらは土や石から生成する手順が省かれている。チャド本人は「新時代の錬金術師(New Generation Alchemist)」としている。

年齢:29

性別:男

身長:204cm

出身地:オーストラリア

その他:大柄な黒人の男で、慎重な言葉遣いだが、人としての本質はゲオルギーと何ら変わらない。


【敵3】ブレント・ブラックバーン(Brent Blackburn)


能力:「クレイジー・ラバーズ」 ゴムを生成する異能。ゴムの樹液から作る必要がない。ブレント本人は、「狂気」という言葉が好きで、とにかくそれを入れたいらしく、「狂気のゴム(Crazy Rubbers)」としている。

年齢:24

性別:男

身長:180cm

出身地:オーストラリア

その他:細身の男で、とにかく狂っている自分が大好き、ゲオルギーと根は同じ。


【その他】 グラーブ・ガーズィーヤーバード(Gulaab Ghaziabad)


能力:「ディル・ジョティ」 軽い火を放つ。しかし、グラーブ自身が幼いため、本領発揮にはまだ至っていない。その可能性は未知数で、強大になる可能性もある。ゲオルギーの手駒にされてしまったが、異能の名前は「心の炎(Dil Jyoti)」と名付けたように、彼女の「心」はまだ残っている可能性も高い。

年齢:10

性別:女

身長:153cm

出身地:インド

その他:インドからの流れ者の少女。アイを「姉」と慕っていた。まだ子供なため、非常に純真な心を持つが、反面その「純真さ」は悪人に利用される可能性も孕む。

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