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Hard justice in the chaos(混沌の中での確固たる正義)

30XX年・オーストラリア大陸


 俺はアイに言われるまま、彼女が仕切っている「共同体」の本部へ向かうことにした。彼女は、徒歩で行くと思いきや、「自動車」と云われるものを持ち出した。遠いところなのだろう。


アイ「はい、助手席に乗って。」


ホープ「俺、こんなの生まれて初めて見たわ。」


アイ「行くよ!」


 そう言うと、彼女は両手で輪っかのようなものを持ち、足元には三つペダルのようなものがあり、右のものは車を動かす装置、真ん中のものは車を止める装置、左のものはどういう役割かはよく分からない。アイ曰く、これが付いているタイプの車は21世紀辺りから、「面倒臭い」という理由で、廃れていったらしい。「こだわり」で運転しているそうだ。その運転席の横には、俺が座っている席との間に短い棒のようなものがあり、これを操作するために足元の左にある装置があるようだ。アイはそれを尻尾を巻きつけて操作していた。

 この「自動車」と呼ばれるものについてはさておき、彼女は左足での操作がやけに慎重そうな印象を受けながら、それを発進させた。尚、彼女から俺の店の食糧を持ってくるよう頼まれていたので、それを搭乗させた。

 俺は車の窓から風景を眺めていると、核戦争の影響を沸々と感じた。オーストラリアは元々自然豊かな場所だったらしいが、草木は荒れ果て、動物も人間も死に絶えている現状だった。違う所に目を遣ると、アウトローの集団同士が殺し合っているのも見える。とても悲惨な光景であるが、俺らが巻き込まれると一溜りもないため、ここは見て見ぬ振りしかないのである。そういう思考に入り浸りながら、前を見ると、街らしきものが見えた。


アイ「あれが目的地だよ。」


ホープ「あれ、ここ『オーシャン・シティ』か?」


アイ「そう。そして、ここが指揮してる「共同体」なんだ。」


 俺もたまに宣伝に来る場所で、戦争以前では「シドニー」と云われていた場所だ。ここは核戦争で一旦建造物がほぼ全て全壊した場所だったが、この大陸では一番復興している印象を受けていた。あのユニークな形の劇場も建て直されている。アイの共同体が「資源」で優れているのが一目瞭然だった。


アイ「実は、こう見えて最近復興の効率が悪いんだ。」


ホープ「そうなのか?」


少女「アイー、もう疲れたよー、もう無理だよー。」


アイ「だらしないなぁ、食べ物は持って来たんだから、文句言っちゃ駄目だよ。アリソン、本当にまた残業増やすよ。」


 アイがアリソンという少女とやり取りしている。そうか、彼女はアイ指揮下の作業員だったのか、と思いを侍らせていると、次のアリソンとのやり取りで、俺の予想が的中してしまったのだ。


アリソン「ホントに最近皆作業放棄しすぎだよー。それでアタシにばっか仕事が回ってくるから嫌だよー。対価も全然良くなくなったし。」


アイ「いや、気持ちは分かるけど、今は、今は、なんとかそこを耐えて欲しいんだ。本当に私の口からそれしか言えなくてすまない。」


アリソン「それホントに何回聞いたことかー。いつになったらこの苦労が報われるんだよー。街なんか建て直して何か意味あるのー。もう私『あっち側』に着くぞー。」


アイ「わかった。でも、それだけは本当にしないで欲しい。だからこの為に美味しいもの用意したんだよ。」


ホープ「俺もし良かったらそれで、何か作るよ。」


 こうして俺は、ここの機材を使って調理をすることにした。しかし、アリソンの口から出て来た「あっち側」という言葉が気になった。あと、他の作業員も見たが、全員疲弊してそうな感じだった。何というか士気を感じられなかった。アリソンの言葉からあったように、「作業放棄」している集団しているというのは本当なのだろうと、いうことに信憑性が増すばかりだ。そういった推測ばかりしている内に俺は料理を完成させた。


ホープ「はーい、皆さんこっち来て食事しましょう!」


アリソン「うわー!何この料理ー!見たことない―!」


アイ「本当にきめ細やかだね。」


作業員男A「これは、すごいな。肉やら魚やら、野菜類の彩もいい。」


作業員女「これはデザート?甘いものなんてこの時代中々食べられないのに。」


 そして、その横には寡黙そうな男がいて。


作業員男B「本当に『Thank you』の言葉以外出て来ない。」


 と呟いた後、また黙り込んだ。その他一同も苦笑いしながら、俺の方を眺めた。


作業部長「いや、ホープさん、これだけのものを作っていただきありがとうございます。あ、この赤いスープは何でしょうか?」


ホープ「それは『トムヤムクン』といって昔のタイの料理です。」


アイ「トニーは本当にいい歳なのに、好奇心旺盛だからね。」


トニー「歳は関係ないでしょ!」


アリソン「そうだぞー、おっさーん。」


ホープ「まぁまぁ、その辺でいいじゃない。それより皆料理が冷めるから、早めに食べてください。」


 一同は大喜びで料理をがっついた。それ程彼らにとって渇望していたことなんだろう。特に、アイは喜びの表れなのか、尻尾をブンブン振り回していた。まぁ、それは俺も何だか嬉しい気持ちになってきた。とそう思っていると、トニーが俺を見てこう言ってきた。


トニー「ホープさん、ちょっと話があるのですが、一緒に席を外してもらえませんか。」


作業員男B「ディアー・ホープ、私もだ。言い忘れてたが、私の名前はジェイコブだ。」


アリソン「そーだねー、アタシもいーかなー。」


 そう言われると、俺は三人と別の所に向かった。かなりしにくそうな話題なことから、やっぱり俺の予想の通りの答えだろう。


ホープ「トニーさん、やっぱりこの労働に対して不公平さを感じてるんでしょう。」


トニー「何故わかったんですか。本当に真面目にやってるいるのはここにいる私たちだけですよ。」


アリソン「ホントにー、アタシたちだけ働くってー、やってられないよねー。」


ジェイコブ「稼ぎになるだけありがたい、って言いたいけれど、正直納得いかないんだ。」


ホープ「いやぁ、皆自分たちばかり労働を押し付けられてるのわかるけど、結果対価を得てるじゃないか、その技術でこの世界の状況を変えられるじゃないか。俺はここに来る途中餓死してる人もいるの見たし。」


 と、こんな建前論理を並べても、納得されない覚悟でいた。

 そして三人は一斉に立ちだして。


トニー「ホープさん、地面を見てください。」


 俺が地面を見ると、土の一部が鉱物というか、金属になっていた。


ホープ「これ、異能か?」


トニー「そうです。私の異能は中世ヨーロッパで言う所の『錬金術』のような代物です。」


ホープ「これで資源を作っていたのか?」


ジェイコブ「ディアー・ホープ、因みに私も。」


 ジェイコブがトニーが生成した鉱物を、黒い液体に変えていた。


ホープ「これって・・・」


ジェイコブ「そう。『石油』版の錬金術。異能だ。」


アリソン「いくぞー!」


 バッシューン!!!!!!! ピリッ・・・

 アリソンは天に向かって、雷のような強い電気を放った。


ホープ「おおぅ、これは凄い異能だ。色んな意味で、凄いな・・・。電力としても、戦闘用途としても。」


トニー「これでわかりましたか?私たちは金属、石油、電力など、『資源』を生成する異能持ちなのです。これでこの『オーシャン・シティ』を復興させ続けてきたのです。」


 俺は少し沈黙して。


ホープ「で、皆これで何が言いたいんだ?これなら不平を並べずに済むだろう。自分たちは役立つ物を自由に作れるんだから。」


トニー「私たちは満足しているんです。でも、似たような異能持ちが数十人、『あっち側』、『ゲオルギー』の配下にあるからです。」


アリソン「えー、アタシ満足してないぞー!」


ジェイコブ「ゲオルギー、奴はロシアとか東欧出身の流れ者だったな。話によるとその異能持ちたちは資源を楽に生成してそいつに献上しまくってるらしいな。あいつの配下になると皆娯楽などで遊びほうけてしまうらしいな。」


トニー「詰まる話、私たち三人以外の残った莫大な人数の作業員は異能を持たないため、作業効率が悪くなり、皆疲弊しまくっているのです。今の所皆アイさんに忠実ですからまだ大丈夫ですが。」


ジェイコブ「私もディアー・アイの顔色ばかり窺っている。正直もう耐えられない。このままだったら、他の奴全員ゲオルギーの方に着くぞ。」


アリソン「ホントにー、アタシたち奴隷じゃーん。」


 アリの理屈を思い出した。働きアリの中には、怠けるアリが必ずいる、というあの理屈。これじゃあ、この三人やそれ以外は奴隷意識、強いては被害者意識を持つのは仕方ない、と思ってしまう。


ホープ「でも、何でゲオルギーに抗議しないんだ?つか、それが一番手っ取り早いだろ。」


ジェイコブ「それができたら苦労はしないんだよ!」


 ガン!

 ジェイコブはいきなり激昂して、近くにあるドラム缶を蹴った。寡黙なジェイコブがこうなるのは余程のことでないとだ。


アリソン「特にアイはねー、ゲオルギーの話になると顔色悪くなるしー、尻尾が変な揺れ方するんだー、それは楽しいとか嬉しいとかじゃないやつー。あとよくトイレで吐いちゃうしー。でも、以前はゲオルギーとは普通に会話してたんだけどなー。」


 アイはゲオルギーに恐らく、というか絶対何か弱みを握られて文句一つすら言えないんだろう。その真相は誰も知らないが、とりあえず悪い、というか極悪な方面なのは雰囲気でわかってしまう。


トニー「私の親しい作業員の中にゲオルギー側に着いた人も数名いますが、以前は連絡を取り合っていたんですが、突然連絡が取れなくなるケースが多いんです。『ウラー、ゲオルギー!』とかっていう連絡すら聞かなくなりました。」


ホープ「・・・!」


 もうここまで来れば、ゲオルギー界隈がどういう状況なのか、また何故ゲオルギーの話題がアイにとってタブーなのか、理由が鮮明化してくる。


ジェイコブ「ホープ、我々だけでゲオルギーを殺すのだ。そうすればディアー・アイをこれらのジレンマから解放させられる。」


アリソン「アイはねー、『暴力で訴えるのはよくない』ってよく言うからさー、アタシたちもホントはアイを裏切りたくないわけー。」


トニー「アイさんにもし話したとしても、絶対にこれには乗らないと思います。とにかくアイさんには知られずに殺すのであれば、殺したいわけです。」


ホープ「とにかくアイをこれに参加させるのはリスクが多すぎる。俺も参加させないのは賛成だ。」


ジェイコブ「皆空を見てみろ。」


 そういやもう太陽が落ち、月が見えている。俺も周りも議論に熱くなりすぎて、夜になっていることさえ気付かなかった。

 そしてそのまま戻って何もなかったように振る舞おうと思ったが、アイは絶対俺らを不審に思っているのは間違いないので、変な誤魔化しは通用しなさそうだ。ここはやはり。


ホープ「なぁ、やはりアイに本当のことを言おう。ここまでくれば絶対邪推されている。何故かって?俺ら全員異能持ち、ゲオルギーとの因縁が残っている、って考えると、絶対こういうことが議論されてる、って絶対アイは気が付いてしまう。俺らがどれだけ隠し通そうとしたって。それにゲオルギーとやりあうには異能持ちが一人でも多い方が有利だ。何せあっちには数十人の異能持ち、こっちが絶対的に劣勢だもんな・・・。フフフ。」


 つい俺は真面目な話をしているのに、笑ってしまった。


ジェイコブ「それには俺断固として同意できない。それだけはやはり・・・。」


トニー「私も色々悩みましたが、ホープさんの言う通りだと思います。」


アリソン「アタシもー、ゲオルギーをやっつけるぞー。」


ホープ「ジェイコブ、そうらしいぞ。」


ジェイコブ「わかった。俺の降参だよ、ディアー・ホープ。」


ホープ「ところで、ゲオルギーとその一派はどこになりを潜めているんだ?」


ジェイコブ「あそこだ。」


 ジェイコブは、「ユニークな形の劇場」のある陸と反対側の、少し丘になってる対岸の陸の方を指差した。そうすると、玉ねぎ状の屋根の建造物があるのがあるのが見える。あそこにゲオルギーがいそうなのがすぐわかった。


ホープ「よし、もう大丈夫だ。アイに話に行こう。」


 俺らはアイがいる所まで戻った。


アイ「・・・。」


ホープ「アイ、もう俺らが言おうとしてることがわかっただろ?」


アイ「わ、かってる・・・。ゲ、オルギーを、ゲオルギーを・・・。」


ホープ「理解してるだろうけど、落ち着け。」


 アイはやはり何も言っていないのに、俺らの意図を読み取った。相手を伺うのが苦手だと思っていたが、全然そんなことはないとわかった。また、ここで勇気を振り絞ろうとしているのがわかる。顔にはあまり表情を出さず、嘔吐をするのも我慢しようとしているのだが、尻尾が変に、また大きな揺れ方をしているのがわかった。


ホープ「尻尾はウソ発見器のようだな。ハハ。」


 と冗談を言うと。


アイ「プッ!私のこと指摘されてる上に、重い話をしてるのに笑ってしまうね、フフフ・・・。」


 アイが笑いのツボに入ってしまった。


ジェイコブ「まぁ、もう遅いから、その辺にして、明日に備えるぞ。」


トニー「そうですね。私たちは十分話し合いましたし。」


アリソン「アタシー、もう眠いー。」


 そういう会話をしながら、俺らは眠った。そもそもこんな世界の状況で、安易に敵を作ったり人助けなんてするのは、自分の身を滅ぼすリスクが孕んでいるため、本来なら避けるべきなのはわかっているが、こんな荒廃した世界だからこそ、自分なりの「正義」や「理性」を持たないと苦難に乗り越えらる力が身につかないわけだ。しかし、ゲオルギーは、数十人もの人間を配下に置けるため、何らかの異能持ちなのは確かだ。また、俺らは軽々しく攻撃的性格のゲオルギーの挑発に乗ってはいけないことも察しがつく。いや、挑発関係なく、何となく誰かが犠牲となってしまう、と想像してしまう。それは一体誰なんだろう?本当に推測ばかりしてしまうが、今回ばかりは現実にならないことをただ祈るばかりだ。

【登場人物2】アリソン・アームストロング(Alison Armstrong)


能力:「エモーショナル・レイルガン」 微弱な電気から、感電死に至らせるような強力な電気まで出す。彼女自身制御するまでに至っておらず、「感情的なまでのレイルガン(Emotional Railgun)」としている。

性別:女

年齢:16

身長:166cm

出身地:オーストラリア

その他:アイ配属の作業員の一人。何かと不平を言う性格である。


【登場人物3】ジェイコブ・ジョンストン(Jacob Johnstone)


能力:「オイル・アルケミスト」 鉱物やそれに相応する物質で石油を精製する能力。原油から抽出する作業や、新たな方法を模索して石油を作成しなくてよいため、非常に効率が良い。「石油の錬金術師(Oil Alchemist)」と呼んでいる。

性別:男

年齢:25

身長:185cm

出身地:オーストラリア

その他:アイ配属の作業員の一人。一見寡黙だが、頑固な性格。


【登場人物4】トニー・トラヴァーズ(Tony Travers)


能力:「アイアン・メイカー」 土や石やそれに相応する物質で金属類を精製する能力。中世ヨーロッパでいう「錬金術」と合致している。本人はシンプルな名前が好きなため、「鉄の作成者(Iron Maker)」と呼んでいる。

性別:男

年齢:50

身長:189cm

出身地:オーストラリア

その他:アイ配属で、作業部長という役職に就いている。基本的に穏和な性格。

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