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ステップ2

朝7時、目覚ましのベルが鳴った。

「いやだー、会社遅刻だよ~」、


洋子はお気に入りのピンクの少し大きめのパジャマから、薄い黄色のタイトスカートと、白いブラウスに着替えた。手には黒い手提げのバック、その中に、お気に入りのエイトビートの曲がいっぱいつめたアップルのiPodをを放り込んだ。


ニコリと笑った少し太めだけどなぜか憎めない、笑顔の彼氏が写った写真立てに「おはよう」と言うと、いつもの駅へと走り出した。


「私が乗る電車は、7時半のいつもの急行、一番前の車両の真ん中のドア、一番前の車両の真ん中のドア」

家から駅までの15分のダッシュは、洋子のいつもの日課。


「洋子ちゃん、おはよう。いつもの急行まだきてないよ。毎朝、ダッシュ御苦労さん」改札口に立つ駅員さんが声を掛ける。


「ありがとう」と笑顔で洋子。改札を走り抜け、階段を駆け上がった。


「おはよう洋ちゃん、いつもの急行、まだ少し時間あるよ。いつもの缶コーヒー飲んで行くかい」売店のおばさんは、娘のように思っている洋子に毎朝必ず声をかけている。特に今日は、なぜかいつもと違う気持ちで。


洋子の定位置は駅のホームの前の方、白い線が引いてある所。ホームの全面に圧倒的に広がるR山に、洋子は必ず声を出さずに「おはよう」と言う。


黒い手提げバッグから、iPodに繋がれたイヤフォンを取り出し耳に当てる。彼女の耳に心地よいエイトビートの曲が流れ出す。


いつもの急行がプラットフォームに滑りこむ。洋子は、いつもの定位置の、ドアと座席の間の三角のポケットになる場所に立つ。


「あれ?」洋子は、いつもはドアのガラスに車内の乗客が誰も写っていないに気づいた。後ろを振り返るとそこには、いつもの顔なじみの乗客。でも、みんな、下を向いて黙って、整然と並んで立っている。笑顔はなく、話し声はない。


その急行は、全く音も無くプラットフォームを滑るように走りだした。その時、プラットフォームに、洋子がいつも好きだと言っていた「ステップ」を、懸命に踏む彼を見た。


「どうして?」洋子は、そう思った瞬間、なぜか、これから自分の身に降りかかるであろうこと、もう、二度と洋三に会えないことの全てを理解した。


洋子は、「ステップ」を踏む、洋三に「洋ちゃん、ありがとう」

と笑顔で叫んだ。


急行電車は、これから起こる事故に向かってまっすぐ走り続けた。洋子の目には、二人でよく見たR山の澄んだ緑の山並みが写っていた。


終わり

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