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おじいちゃんのプレゼント

あれは私が8歳のときのことだった。

「友美、遅れたけど、お誕生日、おめでとう」

「ありがとう!おじいちゃん!」


私は病院にいた。その病院の一室で、ベッドの上に横たわった私のおじいちゃんと話をしていた。

この頃おじいちゃんは入院しており、家から近いというのもあり私は毎日この病室に通っていた。

ここに来ると、おじいちゃんからお菓子がもらえるし、おじいちゃんとお話をするのは楽しかったので、私は病室にいるのは好きだった。

おじいちゃんは、ベッドの横の机の引き出しからお菓子を取り出して、私にくれた。


「今日はね、友美にお誕生日プレゼントがあるんだ。」

「プレゼント!?」

私は8歳になったばかりで、誕生日の日はおじいちゃんは入院していて家にいなかったので、てっきりおじいちゃんからの誕生日プレゼントはないんだろうと思っていた。

だからいきなり言われて、びっくりして、嬉しくなった。

「じゃあ、今からあげようね」

おじいちゃんはそう言って首に手をかけた。

「え・・・もしかして・・・」

そしておじいちゃんは、首にかけていたものをはずして、私に渡した。

「ほら、友美ちゃん、前にこれ、きれいだって言ってただろう?」

それは、私ずっとがほしいと思っていた、おじいちゃんのペンダントだった。


おじいちゃんはいつもそのペンダントをつけていた。

赤色の紐の先に、大きなきれいな水晶がついていて、光に透かしてみると、キラキラと反射して、なおのこときれいだった。

わたしはそれを眺めるのが好きで、よくおじいちゃんに貸してもらい、太陽に透かして見ていた。

こうして見ると、七色に輝いて、私は飽きもせずにそれを眺めていた。


「これはね、おじいちゃんの友達からもらったものなんだ。」

と、おじいちゃんから聞いたことがある。

「ふーん、プレゼントにもらったの?」

「プレゼント、みたいなものかな。おじいちゃんは、その友達とケンカをしちゃってね」

「ええ!?ケンカしちゃったの!?」

私にはいつも温和なおじいちゃんがケンカをしているところが想像できなかった。

「でね、長いこと仲直りができなかったんだけど、その子が仲直りのしるしに、この首飾りをくれたんだ」

「へえー、じゃあそれ、すごく大事なものなんだね」

「うん、そうだね、すごく大事なものだよ。お守りみたいなものかな」

そう言って、祖父は本当に大事そうに、ペンダントを手のひらでそっと包み込んだ。

私はそれを見て、そのペンダントが、いっそう特別なものに見えてしまったのだった。


そのペンダントを、おじいちゃんは今私にくれるという。

私は目をキラキラとさせて、今にもそのペンダントに手を伸ばしかけていたが、寸前のところで踏みとどまった。

「でもおじいちゃん、これおじいちゃんの大事なものだったんじゃないの?お守りって言ってたよね?」

おじいちゃんは笑って答えた。

「大丈夫だよ、遠慮しなくて。いつかは友美ちゃんにあげようと思っていたから」

「でも・・・」

「それに、もう私には必要ないと思うし、せっかくの誕生日だから、友美ちゃんのほしいものを上げたかったんだよ」

おじいちゃんは私の首にペンダントをかけた。

「はい」

「・・・おじいちゃん、ありがとう!」

私はおじいちゃんに抱き付いて、お礼を言った。


その後は早速ペンダントを光に透かしたり、おしゃべりをしたりしながらしばらくして、病室を去った。

「ばいばい、友美ちゃん」

私も「ばいばい、おじいちゃん」と言って、外に出た。


いつもはその後に続く、「またおいで」という言葉がなかったことに違和感を覚えながら。


後で知ったが、おじいちゃんはかなり重い病気でこの病院に入院をしていたらしい。

おじいちゃんが亡くなったのは、私が病院を訪れた、その次の日のことだった。






「ふー・・・やっと終わった・・・」

とりあえず大学で使う教科書とノート、日常生活で使う食器類や衣服類などをダンボールから出して片づけた私は達成感に溢れていた。

まだ開けてないダンボールは山ほどあるけどね。

まあ後は布団を敷けば最低限生活はできるし、今はこんなもんでいいでしょ。

これでいつでも幽霊が来ても大丈夫。

さあ、幽霊よ!いつでも来い!


・・・・・・・・・・・・・・・・


なんて構えていても都合よく幽霊が出るわけないか。


あーあ、働いたらお腹がすいた。


ちょっと早いけど夕食を作ろう。

と、私はカップ麺をダンボールから取り出す。

えーと、調理方法は・・・・


「あら、お湯を入れるだけで料理ができるのね。案外簡単じゃない。」


食糧方面はバッチリね。これで親からご飯はちゃんと食べたか聞かれても「大丈夫。料理したから」と言い張れるわ。

私の一人暮らしは早くも順調だ。







鍋でお湯を沸かしてカップ麺にお湯を入れ、3分待つという私の華麗な調理が終わり、完璧な夕食を食べた後、荷物の中に湯沸しポットがあったことを思い出し、私は再びダンボール箱漁りに取り掛かった。

しかしどれにポットが入っているかわからないので、ガムテープを乱雑にはがしまくる。

こんなことなら目印とか書いておけばよかった。

はがしたガムテープを床に放り投げながら、私は4つ目の箱を開け、ピタリ、と、全身の動きを止めた。


4つ目の箱にはぬいぐるみ、写真たて、アクセサリーなどの小物が入っていた。

その中で一つだけ、梱包材で厳重に包まれたおもちゃの箱に目を奪われる。

私はそれを取り出して、包みを慎重に解いた。

梱包の中から現れたピンクの箱は、いかにも小さな少女向けのおもちゃで、大きさは私の手のひらサイズだ。

金色のラメが貼ってあり、所々にビーズが埋め込まれている。

蓋を開ける部分に鍵穴がついており、鍵は箱と一緒に梱包で包まれていた。


「懐かしい・・・最後にこれ開けたの、大学受験の時だっけ」


私は鍵を穴に差し込み、ゆっくりと回した。


そして、ガチ、という音がして、箱の蓋がゆっくりと開――――


「・・・は?ガチ?」


蓋が開かない。鍵は穴に差し込まれたままどこかでつっかえた様に動かない。


「ちょっ、ウソ!!」


前開けた時はカチリ、っていう音を鳴らして開いてたはずなのに!!


「何で開かないのよぉぉぉぉ」


私は歯を食いしばって箱の蓋に手をかけて両側を力任せに引っ張った。


「ふんぬっ!!」


バコン!!


その音が響いたとき、何故か私は、昔ゆで卵を作ろうとして、卵を殻のまま、電子レンジで温めたことを思い出した。

あの時もこんな音がして、結果卵は大爆発し、電子レンジの蓋を吹っ飛ばして部屋中に黄身と白身が飛び散ったのだった。

あれは掃除するのが大変だったなあ。部屋中卵臭かったし。

つまり何が言いたいのかというと、

後先考えずに思い付きで行動すると、絶対にろくなことがない。ということだ。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」


私は大声を出して箱の中から飛び出したキラキラした物体に向かって必死で手を伸ばした。


ドゴン!!

床に倒れこんで、何とかそれをキャッチすることに成功する。

「痛い!でもセーフ!」

私はおじいちゃんから貰ったペンダントを握りしめて、叫んだ。






体が痛くて起き上がれないので、仰向けに寝っ転がって、天井に顔を向ける。

そうしてペンダントの水晶を掲げて、蛍光灯に透かして見た。


「うーん、綺麗だけど、やっぱり太陽の光に透かして見たほうが、綺麗に見えるなぁ」


私はおじいちゃんのペンダントを、まだ大事に取っていた。


昔はそれこそ毎日つけていたが、今ではここぞという、大事な時にお守りとしてつけている。


アクセサリーとしての役割なら、他にもそれ用の物を持っているし、大事なものだから、毎日使ったらいつか壊れそうで嫌だったのだ。


もう時々しか使わなくなったペンダントだが、私がこれを捨てることは絶対にない。

心の中で断言する。


「だって・・・」

ポツリ、とつぶやく。


「私が幽霊と友達になりたいって、思うようになったのは、このペンダントのせいなんだから」






仰向けになったままペンダントを光にかざしていたその時、



パタ・・・パタ・・・


「・・・?」


どこからか音が聞こえてくる。



パタ・・・パタ・・・


――――誰もいないのに、人の気配がする

――――時々廊下を歩くような音が聞こえる


「もしかして、幽霊!?」


私は体の痛みも忘れて、ガバッと体を跳ね起こした。


そのまま走って玄関に続く廊下へと出た。


けれど


そこには誰もいなかった。



「いるんですか~?幽霊さーん。出てきてくださ~い」


返事はない。

その後廊下を行ったり来たりしたが、やはり誰もおらず、虫すら見つけられなかった。


「おかしいなぁ。確かに音がしたんだけど・・・」


・・・タ・・・・タ・・・


「来た!!」


音は台所から聞こえてくる。


意気揚々とダッシュで向かった私だったが、


「あれ?」


ポタ・・・・ポタ・・・


待っていたのは、幽霊などではなく、


「なーんだ、蛇口ちゃんと閉めてなかっただけか」


あーあ。とがっかりしながら蛇口をキュッと締める。


「まだ明るいから出ないのかな。本とかホラー映画とかでは、幽霊が出るのはだいたい夜中だし・・・」

ぶつぶつ独り言を呟いて思案にふける。

客観的に見ると、完全に頭おかしいやつだろうな、今の私は。


と、チャイムの音が鳴り、外から声が聞こえた。


「ちょっと友美ちゃん、大丈夫かい!?さっきすごい叫び声が聞こえたって隣の人から連絡があったんだけど!」


やばい、管理人さんだ。

叫び声というのは、多分先ほど箱を壊した時にあげた絶叫のことだろう。

ただでさえいわくつきの部屋に住んでいるのに、おかしな行動をしたら追い出されてしまうかもしれない。


「何でもないですー!!ちょっとゴキブリが出てびっくりしちゃっただけなんでー!」


私は慌てて声を上げて玄関へと向かった。






この時、私がもう少し注意深い性格だったのなら、気づけたのかもしれない。




最初に聞こえた音と、蛇口から聞こえた水滴の音は違ったこと。




その音は台所ではなく、廊下から聞こえてきたこと。



そして、私が管理人さんに対する言い訳を必死に考えていた瞬間、その音が、私の寝室にする予定の部屋に移動していたことを。






パタ・・・パタ・・・タ・・・タ・・・・

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