過ぎ去りし日々記憶
切ない恋が終わって、新しい恋が始まる瞬間を書いてみたいと思いました。
「リスア来るなっ。いつか、必ず戻るから、それまで君はここにいろ」
「はっ、戻れるわけがなかろう。お前はこれから処刑されるのだからな」
「っ……シャオっ」
そこには大事な人を失い、涙にくれる私がいた。
顔も声も違うけれど、あれは、私。
「……また、あの夢」
朝起きると頬は濡れていた。夢の中の少女と同じように。
私は、ここ何ヵ月も同じ夢を見ている。そして、うなされては、起きるということを繰り返す。
一体、あの夢はなんなのだろう。
そして、姿形の違う「私」と、見も知らないのになぜか愛しくてたまらない「シャオ」という少年。
あれは……
「零、起きなさい! あなた今日から高校生でしょう?」
「わかってるよ。もう起きてる!」
そう、私は今日から高校生。こんな夢を気にして新しい学園生活を台無しにしてなんかいられない。
ドタドタと騒がしい音を立てながら階下に降り、いつも通り朝食をとる。
おかしなことなど一つもないと、自分に言い聞かせるように。
「おはよう、瑠璃!」
「おはよう、零。また同じクラスだね」
「だね。よかったぁ」
そんなたあいもない会話をしながら、新しいクラスの様子を眺めてみる。
同じ中学の子も結構いるな……。
そして、ある一点で目が釘付けになった。今まで同じ学校にすらなったことのない少年。けれど、私は彼とあったことがある。
それは、町のどこかですれ違ったとかじゃなくて……ずっとずっと昔、私がリスアと呼ばれていたころに。
「零!? ちょっと、あんたなに泣いてんの?」
「ぇ……」
そう言って、自分の頬を触るとそこには、暖かい水が流れ落ちていた。
「ほんとだ、あたし、なんで泣いてるんだろう……」
瑠璃にはそう言いながら、私の頭の中は別のことでいっぱいになっていった。
……私、さっき何を考えてたの?『私がリスアと呼ばれていたころ』って?
だ れ の 記 憶 ?
「零? 大丈夫? あたしになんでって聞かれてもわかんないんだけど、とりあえず顔洗ってきなさいよ。そんな顔して入学式に出るつもり?」
「そだね、ごめん。洗ってくる。なんでもないよ」
そう、なんでもない。
一瞬頭に浮かんだ言葉はきっと気のせい。
「橘さん!」
涙もとまり、手洗い場で顔を洗っていると、いきなり後ろから声をかけられた。
振り向くと其処には、さっきの彼がいた。
「あなた、どうして私の名前を?」
「知ってるさ。君のことなら、なんだってね。ずっと探していた、橘さんを。いや、リスアのことを」
「リスア……じゃあやっぱりあなたは」
「そう僕が前世のシャオ、そして君は……夢に何度もみたよ。君は夢を見なかったかい?」
彼に自分がシャオだと認められると、私の頭の中には一気に彼との思い出がよみがえった。
自分の体の細胞ひとつひとつにリスアの記憶が残っていたのだろうか?
こんなにも鮮明に懐かしい思い出があふれかえるなんて。
私は彼の問いに答えるかのように……
「前世の誓い、やっと守ってくれたんだね」
そう言って、また涙をこぼした。
〜end.
拙作を読んで下さり、ありがとうございました。
水乃霰拝