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古き未来の兄妹夜話 ~彼女が願う魔晶石~  作者: 渚河ステラ
食卓に彼女はいつかやってくる::シィナ・チュートリアル
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008::シンクロ限界01::小さな体で世界は広がる

 シーナ、となったシィナは目を点にしながら立ちすくみ、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。

 ガジェットといっても、彼女は未だに4世代は旧いノートPCしか持っていなかったので、VRMMORPGがどれだけ凄いのかが分からなかった。


 雑誌で見てある程度は知っていたが、VRMMORPGの画面などは普通のコスプレ写真に見えるだけだった。

 ちょっと綺麗なケモナーがいたりエルフがいるだけ。その程度の世界と認識していた。

 しかし現実に、VR世界に入ってみると、それがいかに無知から来た感想かと気がつく。


「な、なんですかこれは……すごいにも程がある。ありすぎです」


 魔王を倒して神魔を封じる、というゲームのオープニング映像を約3分ほど流れた後に、画面が黒くフェードアウトしたと思ったら、いつの間にかシーナは木造の質素な部屋の中にいた。

 部屋には質素な木製のベッドと机、椅子、さらにその横の壁にに大きな全身鏡が取り付けられている。

 現実と変わらない色、形、質感。古い木の匂いと、干された布団からほんのりと太陽の香りが湧き出ていた。半分開けられた窓際には風に揺らされるカーテンがひらひらとシィナを笑うように舞っている。


「これがVRで、これがVRの中の私……」


 シィナは部屋に備え付けられている全身鏡の正面に、自分自身が映るようにまっすぐに立った。

 鏡の中には、少女、というには少し幼さが多すぎるような、小柄で利発的な顔をした、銀髪の少女が映っている。

 それはシィナの幼い時の顔に、寧音の今の顔を足して、良い部分だけを引き出した、とでもいおうか。

 銀色の髪は耳の高さのツインテールに。瞳は紅く妖しく。自分に似ているため寧音さんよりだいぶ落ち着いた雰囲気の、白い肌の少女。さらにいつもより少しソプラノ気味な声のおまけ付き。

 結果、エディット画面のものより、より可愛らしくなっているような気がするのは気のせいではないだろう。


「これが……ゲーム? なんか寧音さんと私の合いの子みたい」


 自分に似ているような、寧音さんに似ているのような。

 目の前の鏡に映る銀髪の少女は、シーナが手をあげれば少女も手を挙げ、シーナが何かを喋ればその分だけ口を動かした。

 その場でくるりと回ると、ツインテールにしてある長い銀髪がゆるやかに螺旋を描き、小さな髪留金具と一緒になったリボンがふわりと揺れる。


「でも、すごく少女です」


 もう一度、少女漫画のバレリーナの主人公の様に、ゆっくりと回転してみた


「すごく、少女ではありませんか!」


 174センチの女性がやったら絶対に「うん、カワイイネ」と乾いた声でおもいっきりお世辞を言われながら、周囲にドン引きされそうな仕草が、この少女アバターではとても美しくキマる。


「そーれーっ」


 これが本当に自分か? まるで夢ではないか。

 いや夢かもしれないが、覚めてくれなければそれで良い。

 くるくると何十回か、鏡の前で回った後に、おもむろに背伸びをする。

 両腕を天井に突き出す。


 現実世界で背伸びをすると、シィナは180センチを超えてしまうので、普段は絶対にやらない動作だった。

 自室でやって、上に手を伸ばしたら、爪先が天井を触ってしまって以来、一回もやっていない。

 天井に手が届く女子、とか怖くて誰にも言えない。

 恥ずかしい、嫌だ、と動作そのものを封印したのである。


「ははっ、小さい、小さい。本当に小さい!」


 天井までが遠い。

 そのままジャンプしても絶対に届くことがない。

 何回か垂直ジャンプをした後に、ベッドへぼふり、と飛び込んだ。


「うーん、大きいですね」


 ベッドが、大きい。一人用のシングルサイズなのに。

 いつもならつま先が布団から飛び出してしまう、と心配していたのに。

 世界が、広がった気がする。これがVRか。

 限られたスペースを有効に使える、小さな体躯。これなら、また跳べるかもしれない。

 シーナは仰向けになり、天井を見る。

 その向こうにあるであろう、青空を、星空を想像し、広い世界を感じてみせる。

 なんか、いけそうだ。こういう時の勘は外れない。


「にへへー。空をも飛べちゃうかもしれませんね」


 シーナは体を預けていたベッドから立ち上がり、鏡の中少女と向かい合う。


 跳べるかもしれない。

 いや、彼が言っているのだから、信じよう。きっと跳べると。

 VRならいろいろできる、無制限だといっていたし。

 今まで彼が嘘ついたことなんて無い。大丈夫。


 ユウトの真面目な顔を思い出すと、なぜかシーナの顔はゆるんでしまう。


 うん、見つかるまで探そう。彼が招待してくれたVR世界、この場所で。



「それまで、よろしくね。アバターさん。いや相棒、なのかな?」



 シーナは握手をするように、鏡の少女に向かって手をだした。

 右手を出したら、正面の彼女は左手を出してきたので、互いの指と指がぶつかり握手はできなかった。


「あ、そっか」


 馬鹿だね、と少女たちはお互い同じ動作で対称に笑いあった。


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