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Chivalry  作者: 祀木 楓
第1章 始まりの刻
5/6

湖の畔で


 葵がケイに連れて来られたのは、城からほど近い湖だった。


 ケイが湖の畔に腰を下ろしたのと同時に、葵も腰を下ろす。


「ここはいい場所だろう?」


 ケイが尋ねた。


「私が落ち込んだ時は、いつもこの場所に訪れる」


「確かに良い場所だけどさ……ケイが落ち込むときなんてあるのか?」


 意外だとでも言いたげに葵は尋ねた。


「私を何だと思っている? 心外だ!」


「悪い、悪い。だってさ、ほら……ケイは堂々としているからさ。何にでも自信がありそうに見えたんだよ」


「そんな事は無いのだが……な。私もただの女だ。人並みに位は、悩むときくらいあるさ」


 ケイは少し寂しそうに呟いた。


「そう……だよな。ほんと、ごめん」


「まぁ、良いさ」


 葵とケイは、しばらくの間湖をぼんやりと眺めていた。


「騎士ってさぁ……色々なタイプの奴が居るんだな」


「どういう意味だ?」


 葵の言葉にケイは訝しげな表情を浮かべる。


「騎士っていうとさ、ランスロットみたいな堅い人間をイメージしちまうもんな。そもそも、男しかいないイメージだったし……」


「当然だ! ランスロットは特別だ。騎士の中でもその実力は最も優れている。それだけではないぞ? 人格も備わっているのだ。私も見習わねばならん事が多い」


「そうか……ケイはランスロットが好きなんだな」


「か……か、勘違いするな! そういう浮ついた物ではない! それにランスロットには……」


 葵の言葉に、ケイは面白いように慌てた。


「ん? 何かあるのか?」


「いや……何でもない」


 先程までの表情からは一変、ケイの表情は一気に曇る。


「ケイってさぁ。始めは堅苦しくて可愛げの無い女だと思ったけど……本当は違うんだな?」


「な……な、何を言う!?」


「だって、ほら。初めて逢った時とは違って、こんなに表情が変わる」


 葵はケイの頬に手を当てながら言った。


 ケイは真剣な表情の葵から、何故か目が離せなかった。


「俺も、蘭みたいに他の騎士と交流を持ってみようかなぁ」


 真っ赤になって固まってしまっているケイから手を放すと、先程の事は何でもなかったかのように呟いた。


「それも良いんじゃあ……ないのか? そもそもお前は王だ。全ての騎士と平等に交流を持たねばならんしな」


「全ての騎士と……平等に、ねぇ? でもさ、俺や蘭が騎士の中の誰かを好きになったら、どうすれば良い?」


「それは……許されぬことだ」


 ケイは寂しそうに答えた。


「何で? 王ならさぁ……騎士とだって結婚できるんじゃないのか?」


「そういう……しきたりだ。そもそも騎士が王に抱くのは忠誠心のみ……それは恋心ではない!」


「そんなものかねぇ……」


 葵はイマイチ納得ができない様子だった。


「そういやさぁ……蘭と一緒にいた騎士、何て言ったっけ? ボー、えっと……」


「ボールス、だろう?」


「そうそう、ボールス!! あの騎士さぁ……大丈夫なの?」


「円卓の騎士は皆、選りすぐりの精鋭部隊だ。実力は申し分ないと思うが?」


 ケイはそう言うと、首をかしげた。


「そういう意味じゃないんだけどなぁ……」


「では、どういう意味だ?」


 困惑の表情を浮かべるケイに、葵は溜め息をつく。


「俺が聞きたかったのは、ボールスの腕じゃないの。ボールスが蘭に変なことをしないかが心配だったの! わかる?」


「変なこと……よくは分からんが、騎士とは王の護衛が使命だ。王に危害を加えるなど、断じてあり得ん」


 笑顔でそう言い切るケイに、葵は先程より長く深い溜め息をついた。


「ケイには……きっと、俺の意図は分からないよね」


「そ、そんな事は無い!!」


 慌てるケイの様子が面白く感じた葵は、ケイの頭を撫でた。


「さて、と。蘭が心配だし……そろそろ戻るとするか」


 葵は立ち上がると、大きく伸びをした。


「そうだな。あまり遅くなってしまっては、皆も心配するだろう」


 そう言うと、ケイも立ち上がった。



「ケイ! 良い気晴らしになった……本当にありがとうな!!」



「それは良かった」



 ケイは一言だけ呟くと、小さく笑った。






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