葵とケイ
与えられた自室に戻る途中の葵は、廊下から蘭とボールスの姿を見かける。
花園で何やら楽しそうに話す二人の姿に、葵の心は掻き乱された。
「何で……アイツは、あんな風に暢気で居られるんだよ!!」
訳の分からない苛立ちに、思わず壁を叩いた。
「いくらお前の城とは言え……物に当たるのは感心しないな?」
その言葉に、葵は振り返る。
「ケ……イ!?」
「ほう? 私の名前を早速覚えたか……。」
「何の用だ、ケイ……俺をからかいにでも来たのか?」
偉そうな物言いをするケイに、葵はムッとする。
「私はそんなに暇人などでは無い。……お前の様子が気になった、ただそれだけだ」
「気になった……だと?」
ケイの意外な言葉に、葵は拍子抜けする。
「お前は、蘭と違って繊細のようだからな。王が即位式前に潰れてしまっては我々も困る」
「そんな……理由かよ」
「ん? こんな理由では気にくわなかったか……ならば、どんな理由ならばお気に召すのだ?」
ケイは長い黒髪をかき上げると、悪戯っぽく笑った。
その仕草と、初めて見る無邪気な笑顔に、葵は思わず目を奪われる。
「初日から部屋に引きこもっていては、ますます気が滅入るだけだ!行くぞ?」
ケイは、呆然と立ち尽くす葵の手を取ると、突然駆け出した。
「お……おい!何処に行くんだよ?」
葵が尋ねる。
「良い所……だ」
ケイははぐらかすかのように、先程の笑顔を浮かべると、そう呟いた。