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Chivalry  作者: 祀木 楓
第1章 始まりの刻
2/6

夢か現か


「……て!」



「ねぇ、葵! 起きてったら!!」



 蘭の声に、葵が気だるそうに目蓋を開く。



「な……んだよ」




 徐々に視界が目に入ると、葵はその景色に驚き飛び起きた。


「此処は……何処だ?」


「私達、昨日は家に居たよね? ……これは、夢の中なのかなぁ?」


 蘭はポツリと言った。



 二人は、辺りを見渡す。



 そこは広大な敷地で、二人が居るのは美しい庭園の中の様だった。



「見て! このお庭スッゴく綺麗だよ!!」



 蘭は、自分達の身に起こっている怪異など気にせずはしゃぎだす。



「まぁ……夢、だよな。」



 そう言い聞かせると、葵も立ち上がった。




「お前達、そこで何をしている!?」




 突然、背後から声がした。


 葵と蘭は同時に振り返る。

 

 そこには、端正な顔立ちをした男が立っていた。

 

 その姿はさながら、おとぎ話に出てくる騎士の様で、紫色の鎧と漆黒の髪が良く似合っていた。


「えっと……」


 蘭は返答に詰まる。



 その時



「待ってよ~! ランスロットったら……私を置いていくなんて酷いじゃないか!!」



 一人の小柄な少女が息を切らして走ってきた。



「……お前は体力不足だ。日々の鍛練を怠るからこうなる!」


 ランスロットという男は、少女に冷たく良い放った。


「私はランスロットと違って、弓使いだから体力なんて要らないの!」



 少女は頬を膨らませた。



「で? お前達は何故ここにいる? ここは、一介の民が自由に出入りして良い場所ではない」



 ランスロットは私達を見据える。



「もう。ランスロットは愛想が無いなぁ……私はマーガレット! あなた達はきっと広場から此処に迷い込んでしまったのよね? 城内は広いから……無理もないか。私達が広場まで案内するわ」


「お……城!?」



 葵と蘭は同時に、顔を見合わせた。



「付いてらっしゃい!」



 マーガレットは手招きする。



 訳が分からなかったが、とりあえず付いていく事にした。


 ランスロットは不機嫌そうな表情で私達の後を歩いていた。






 しばらくすると、広場と呼ばれる場所に着いた。


「貴方達もこの儀式を見に来たんでしょ? そっちのお兄さんは……挑戦者かしら?」


 マーガレットは葵を見ると微笑んだ。



「儀式……ってなぁに?」



 蘭はマーガレットに尋ねた。


「ありゃ? 知らないの!?」


 マーガレットは驚きの表情を浮かべる。



「この儀式はね、次の王を決める為の物よ。あの聖剣が見える?」



 マーガレットが指差す方を見ると、美しい大剣が地面に刺さって居た。


「あの聖剣を台座から抜くことができれば……新王になれるってわけ。儀式というワリには、簡単でしょ? でも、この国の全ての民が試したけれど……いまだに抜ける者は居ないのよね」



 マーガレットは溜め息をついた。



「私もやるっ!!」



 そう言うや否や、蘭は聖剣に向かって走り出した。



「あ……おい、ちょっと待て!!」



 葵は必死に追いかける。



「この剣が抜けたら王様になれるんだよね! 私が抜いたら、葵は一番の側近にしてあげるからね!」



 蘭は笑顔でそう言うと、軽く深呼吸する。





 聖剣がに両手を置き、構えた。





「う……ん。抜け……ない」





 蘭がどんなに引っ張っても、聖剣はびくともしない。



「すげぇな……これ。どうなってんだ?」



 それでも抜こうと頑張っている蘭の横から、葵が興味有り気に聖剣に手を掛け、二人で引っ張ってみる。





 ドサッ




 葵と蘭は同時に尻餅をついた。






「抜け……た!?」




 マーガレットとランスロットが駆け寄る。



「どちらだ! どちらが抜いたんだ!? とにかく……マーガレット、マーリン様と円卓の騎士を召集しろ!!」



 ランスロットはマーガレットに命令すると、マーガレットは足早に去って行った。




「私……王様になれるんだよね!?」



 蘭は嬉しそうに言った。



「いや……俺だろう?」



 蘭がどんなに引っ張っても抜けなかった聖剣が、葵が手を掛けた瞬間するりと抜けたのだ。



 普通に考えても、葵が抜いたという事なのだろう。





 しばらくすると、十数人の男女が現れた。


 男も女も、皆騎士の様な風体だった。



 その中に1人、騎士とは異なる格好の少女が居た。



 ランスロットはその少女を見るなり、少女の元に膝まずいた。


「マーリン様、ご覧のように聖剣は新王を選ばれました」


 マーリンと呼ばれた少女が私達の前に歩み寄る。



「で? どちらが抜いたのだ?」



 マーリンは尋ねた。



「それが……二人同時に手を掛けていたので分かり兼ねます」



 ランスロットがそう告げるとマーリンは



「聖剣を台座に戻せ」



 と言った。






 儀式は仕切り直しとなった。


 葵と蘭は再度、1人づつ聖剣を抜くよう指示されたのだ。



 まずは蘭が聖剣に手を掛けた。



 先程同様、どんなに引っ張っても抜ける様子はない。



 次に葵が抜くよう促され、葵も聖剣に手を掛ける。



 しかし、蘭と同じでどんなに力を加えようと、聖剣はびくともしない。




「さっきは、軽く抜けたのに……」




 二人は困惑する。




「ならば、二人同時に手を掛けてみろ」




 マーリンは葵と蘭にそう指示した。



 言われた通り二人並び聖剣に手を掛ける。





「せーの……」





 すると





 力など……たいして加えては居ないのに、聖剣はすんなりと台座から抜け落ちた。




「こ……これは!?」




 その場に立ち会う皆が驚きの表情を浮かべていた。




「そう……か。聖剣は二人の王を選んだと言うのか」




 マーリンは呟いた。





「今、此処に新王が誕生した!! 二人の王というのは前代未聞だが……聖剣の導きは絶対!! 円卓の騎士達よ、この者に永遠の忠誠を誓え。そしてブリタニアに永久なる繁栄を!!」





 マーリンは円卓の騎士達を見据えると、声高に言った。






 状況がうまく飲み込めず困惑する葵と蘭は、マーガレットに促され、訳のわからぬまま城内に案内される。



「今日から此処が貴方達の部屋よ。この城も国も……全て、新王である貴方達のもの。さて、着替えが済んだら会議の広間に来てちょうだい。円卓の騎士を紹介するわ」



 マーガレットはそう言うと、部屋を後にした。




 城の侍女に促され、二人は身支度を整える。




 嬉しそうな蘭とは裏腹に、葵の表情は曇っていた。








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