プロローグ
私達は始まりから既に一緒だった。
この世に生を受けたその日から今まで、二人で1つ。
葵と蘭
それが二人のの名前。
葵の方が蘭よりも少し早く生まれたので、一般的には兄だ。
しかし、双子の二人にはどちらが上か下かなど関係ない。
常に対等なのだ。
他人と打ち解ける事を良しとしない葵と蘭は、学校でも二人きり。
登校も、休み時間も、帰宅も……
美しい容姿の葵と蘭は、二人並んでいても絵になる。
その美しさが、周りを寄せ付けない雰囲気を醸し出しているのかもしれない。
その日もいつもの様に二人で下校して居た。
「なぁ、蘭。お前は友達が欲しいと思った事はないのか?」
葵の問いかけに、蘭は考える素振りすら全くなく言いきった。
「ないよ! 葵が居るから寂しくないもん」
葵は少し困ったような表情を浮かべた。
「葵? ……蘭と居るのが嫌になった?」
蘭は不安そうな顔で尋ねた。
「んな訳ないだろ? 俺も蘭が居れば寂しくないよ。今までだって……ずっとそうして来たじゃないか! でも……」
葵が言い切らない内に、蘭が突然走り出す。
「あっ! おい、蘭……待てよ!」
葵は慌てて蘭を追った。
「急に走り出してどうしたんだよ!」
葵は蘭に尋ねた。
「ねぇ……葵。今朝もこの道を通って登校したよね?」
「は? 何当たり前な事を言ってんだよ?」
「この店……今朝、あっ……た?」
蘭の指差す方に視線をうつした。
「よろ……ず屋?」
今朝も確かにこの道を通った。
いや、今まで毎日この道を通っている。
しかし、こんな店はおろか……それを建設している所さえ見た記憶が無いのだ。
一軒の店がものの半日で建つはずがない。
言い知れぬ不安を感じた葵は、蘭の手首を掴む。
「蘭、帰るぞ!」
蘭が店に興味を持っている事は一目瞭然だ。
しかし、こんな得体も知れない店に入るなど、葵は御免だった。
「やっぱ気になるから行ってみる! 葵、先に帰ってて」
蘭は葵の手を振り払うと、店内に入って行ってしまった。
「ったく! 蘭の奴は何考えてやがんだ!」
比較的に慎重な性格の葵に反して、蘭は好奇心が強すぎる所がある。
興味を持つと深くは考えずに、手を出してしまうタイプだ。
葵は仕方なく蘭を追って店内に入って行った。
「……蘭?」
店内は意外にも小綺麗に整理されており、洋書や小物などアンティーク調の品々が並べられていた。
「ねぇ。葵、これ見て! スッゴく可愛いよ?」
蘭は可愛らしいネックレスを手に取ると、目を輝かせている。
「でもさ、アンティーク物なら高いんじゃねぇの?」
「……だよね」
諦めて帰ろうとした。
「そこのお二人、ちょいとお待ち」
奥から美しい女性が現れた。
この女性が店主なのだろうか。
「お嬢さんはこれが気に入ったのかい?」
女性は、蘭が欲しがっていたネックレスを手に取り尋ねた。
「はい……でも高いんですよね?」
「これは、さほどの値打ちがある訳じゃないさ。まぁ、3000円って所だね。お嬢さんのお小遣いでも買えるんじゃないのかい?」
「3000円ですか? 買います!!」
蘭は笑顔で財布を取り出す。
「……葵。1000円貸して?」
「勢い良く買うとか言ったクセに、足んねぇのかよ!?」
葵は苦笑いで1000円を渡すと、蘭は満面の笑みでネックレスを受け取った。
「このネックレスはね。対なんだよ」
「対?」
「ほら、これさ。こっちは……そこのお兄さんが持つと良い。魔除けの願が掛けてあるモノだから、肌身離さず付けとくんだよ!」
女性はそう言うと
「これはオマケだ」
と、表紙に綺麗な柄が入っている絵本をくれた。
帰り道
蘭は上機嫌でニコニコしているが、葵の心はモヤモヤしていた。
帰宅後、いつもの様に夕飯や入浴を済ませる。
葵は蘭に呼ばれ、蘭の部屋に来ていた。
「ご飯も食べたし、お風呂にも入ったし……そろそろ良いよね?」
「何がだ?」
「じゃーんっ! これです。葵と一緒に読もうと思って、葵がお風呂から上がるのを待ってたの!」
蘭はオマケで貰った絵本を頭の上に掲げた。
絵本を床に置き、1ページ目をめくる。
この話は、王様と騎士の物語だった。
王様は信頼のおける騎士達と供に、数々の国を制圧し自国の領土を広げて行く。
それはさながら、日本の戦国時代……それも、織田信長の天下統一への野望の様だった。
物語はまだ半分ほどだったが、気付けば蘭はスヤスヤと寝息をたてていた。
「あんなに楽しみにしてた奴が何で寝てんだよ!」
葵は腹いせに蘭の頬をつねるが、起きる様子はない。
自室に戻る為に立ち上がろうとするが、あろうことか蘭が葵の服の裾を掴んでいた。
「……動けねぇじゃん。」
仕方なく、このまま此処で休む事を選択した。
明日は休日
起きる時間も気にせずとも良い。
葵は徐々に睡魔に流されて行った。