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5月某日(6)

「そういえば、茜ちゃんもここには菫ちゃんに連れられてここに来たんだよね」

 話を振られると思ってなかった茜は、少しふてくされながらすっかり冷めてしまった紅茶を飲んでいた。そのため直ぐに返事をすることが出来ずに驚きで目を丸くした。

 直ぐに気を取り直し、茜は持っていたカップをソーサーの上に置いた。

「去年の冬に菫さんにここへ連れてきてもらいました」

 今度は蘇芳が初めて知った接点に驚いていた。

「そうなんだ。あの人がここを」

 何やら感慨深そうに蘇芳は重い声音で呟いた。

「でも、意外です。マスターと茜ちゃんはもっと付き合いが長いと思っていました」

 蘇芳の指摘にマスターは、ああ、と言葉を返す。それは意外な事を言われた時の反応ではなく、ある程度予想していた事を言われた時の反応に蘇芳は見えたので内心首を傾げた。

 マスターは事実を蘇芳に告げようかと思ったが、一旦口を閉じて茜を見る。マスターと目が合った茜は一瞬眉間にしわを寄せたが、直ぐにそれを諦めの表情へと変えて小さく頷いた。

 茜からの了承をもらったマスターは、笑顔で蘇芳に真実を告げる。

「茜ちゃんの事は、彼女がお母さんのお腹の中にいる時から知っているから、長い付き合いであることは事実だよ。ね、茜ちゃん」

 マスターが茜に声を掛けて同意を求めると、彼女は頷いた。

「私の親と若い頃に知り合ったらしく、それからの付き合いだと聞いています」

 この事実に蘇芳は心底驚いた。付き合いが長いと予想していたが、そこまで長いとは予想出来なかった。

 茜とマスターがそれほど古くからの知り合いであるのに、何故茜は去年の冬に初めてここへやって来たのだろうか。蘇芳がその疑問を投げかける前に、マスターがその答えを語りだす。

「茜ちゃんがこっちに引越してきた頃にいつでも遊びにおいでって誘ったんだけど、なかなか来てくれなくて。去年の冬に菫ちゃんに連れられてここに茜ちゃんが来たときは驚いたよ」

「私だってここにまさかここに連れて来られるとは思いませんでした」

「でも、そのおかげでこうして茜ちゃんが頻繁に来てくれるようになって私はすごく嬉しかったな」

 茜を見るマスターの表情はとても優しく、それは親が子を見守っているようであった。

「蘇芳さんは菫さんとどうやって知り合ったんですか?」

 自分とマスターの事についてこれ以上追求されたくないためか、茜が話の矛先を変える。

「共通の友人がいて、その人を通じて知り合ったんだ。前に茜ちゃんに話した、一緒に博物館に行く友人の1人が彼女なんだ」

 蘇芳から語られる菫との親密な関係に、茜は胸にほんの少しだけ痛みを感じた。

 一瞬もしかしたら菫の恋人は蘇芳なのではないかという考えが生まれたが、直ぐにそれはないとその考えを否定した。蘇芳は菫を友人だと言った。彼が恋人をわざわざ友人と偽らなければならない理由は無い。蘇芳の言うとおり、彼と菫の関係は友人なのだろう。

 ただ、蘇芳が菫に対する感情が友人以上ではないと否定は出来ない。

 そう思うとますます気持ちが沈んでしまうので、茜はそうと決まったわけではない、と自分を励ました。

「菫さんは、蘇芳さんにとって大事な友人なんですね」

 この言葉に隠れた自分の問に、蘇芳は気づくだろうかと茜は緊張し、心臓の鼓動が早くなる。

「ああ、大切な友人だよ」

 蘇芳は朗らかな笑みを作った。彼から他の感情が隠れていないか、茜は神経を研ぎ澄まして注意してみたが、そんなものは見つからなかった。

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